グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

【一歩踏み出すあなたへ】夢を諦めない!臨床医が語る、海外への研究留学の道を切り拓いたリアルロードマップ

2026.1. 8

今回は、2026年度からオーストラリア メルボルンのMonash大学Martinoラボへの研究留学を控える医学部附属病院 形成外科の細見謙登助教にインタビュー取材を行いました。

細見先生は、現役の形成外科医として多忙な日々を送る傍ら、大型助成金を見事に勝ち取り、海外研究機関への留学の道を切り拓かれました。

なぜ細見先生は、「医療の現場」から「研究の世界」へ飛び込むことを決めたのか----、研究留学を実現させるためにいかにして難関の助成金を獲得し、Monash大学のラボへの留学に至ったのか----
この記事では、夢を叶えるために駆使した驚きの交渉術と戦略、成功を分けた「熱意」の伝え方を徹底的に深掘りします。

海外留学を志す方や、経済的な壁に直面している研究者の方だけでなく、夢や目標を持つすべての人に贈る、具体的な行動のロードマップです。リアルな体験談を、ぜひ最後までお楽しみください!

細見謙登先生

ーなぜ研究留学をしたいと考えるようになったのですか?

細見研修医のときにある研究発表を聞いて「研究ってこんなに面白いのか」と衝撃を受けたことがあり、このとき初めて研究に興味を持ち始めました。学生時代は部活やアルバイト、遊びに熱中していた私にとって、研究成果を楽しそうに発表する先生方がすごく輝いて見え、自分もいつかそうなりたいと憧れを抱くようになりました。
その後、形成外科医として手術を中心に医療に携わることになり、手術の素晴らしさと同時にその限界も理解していきました。臨床経験を活かした基礎研究によって、臨床的な限界を超えるような発見をすることが私の大きな夢になりました。
一方で、臨床を続けていると、現在の働き方ではハイレベルな研究を並行して行うことが困難な環境であることを日々実感します。大学院を卒業するタイミングで、留学するなら今しかないと決意し、研究留学に向けた具体的な行動を始めました。ここまで来るのに約3年かかりましたが、ようやく実現が近づきとてもワクワクしています。
「留学したい気持ちはあるけど、まだ具体的には考えられていない」というような方もきっと多いと思います。臨床医の私でもなんとか助成金を獲得し、留学への道を切り拓けた経緯や、その過程で感じた苦労や楽しさを共有したいと考え、このインタビューでお話しさせていただくこととなりました。私の経験が少しでも参考になればと思っています。

細見謙登先生

ー数ある海外の研究機関の中から、今回の留学先を選ばれた理由はなんですか?

細見一番の理由は自分の目指したい研究の方向性をすでにハイレベルに展開しているラボだったからです。研究留学は研究に没頭できる貴重な機会なので、自分の取り組みたい研究ができるのかを最優先に据えました。
私の興味がある領域は、組織再生です。特に、組織再生に必須であると示されてきた神経や免疫に着目した研究を行っています。
留学先であるオーストラリア メルボルンのMartinoラボでは、免疫学の視点から組織修復のメカニズムを明らかにすることをテーマにしています。特に2024年には、「感覚神経が主導する免疫細胞の制御が組織修復に決定的に関与する」という新たな概念をNature誌へ報告しています。これを見たときに「ここだ」と感じたためMartinoラボへの留学を希望しました。
教授であるMikael Martino先生とは何度か直接会って話す機会をいただきましたが、彼は温和で優しい雰囲気とともに、研究に対する強い熱意を持っていると感じました。また40代と若い点も特徴の一つであり、ラボとしても特にここ数年で多くの成果を報告しています。また現地に行ってみて、研究設備が充実しているのはもちろんのこと、ラボのメンバーが和やかな雰囲気であること、他のラボの方々と良好な関係を築いており、研究がやりやすそうなことなどを肌で感じ、ここで腰を据えて頑張りたいという気持ちが固まりました。

メルボルンのラボに見学に行った際に、ラボメンバーとランチをしたときの写真
メルボルンのラボに見学に行った際にラボメンバーとランチをしたときの様子

ー留学先を選定し、受け入れが決定するまでの流れを教えていただけますか?

細見自分の行きたいラボに行くためには自力で交渉するしかないので、考え付くあらゆる方法を試しました。留学先を新たに見つけようとする方には参考になるかもしれません。まずは研究内容や論文からラボの候補を絞り込みました。しかし、留学を実現するためにはラボの教授とどうにかコンタクトをとらなくてはいけません。ただ教授にメールを送るだけでは、かなりの確率で返信はいただけないので、メールだけではほぼ不可能です。世界中から同じようなメールが連日届くからです。コネクションがあればよいですが、自ら留学先を開拓しようとするなら、基本的にはそのようなものはないはずです。
そこで私はまず教授の経歴を徹底的にたどり、打開策がないか探しました。すると、Martino教授は以前大阪大学のラボに所属していたことが明らかとなり、大阪大学の先生方に協力をお願いしました。私は形成外科なので、大阪大学の形成外科教授にコンタクトを取り、Martino先生が所属していた大阪大学のラボにも直接連絡をとりました。さらに、そのラボに出入りしている業者の方からもラボのスタッフに連絡を取ってもらいました。
加えて、Martinoラボの他のメンバーと関係を構築して間接的にコンタクトをとれないかと考え、LinkedInという研究者向けのSNSを活用しました。まず自分のアカウントを作成し、ラボメンバーに連絡を取ってみると、数人から返事があり、友達になることができたため、留学希望がある旨をMartino教授へ伝えてもらいました。
これらを組み合わせた結果、Martino教授からなんとか返信を得ることができました。その後、Zoom面談を行い、自分の経歴や研究留学への思いをプレゼンテーションし、口頭ですが留学の許可を得ることができました。Martino教授が大阪に訪れたとき、夕食を共にする機会をいただきました。お酒も少し入って、お互いをより深く知ることができ、具体的な話を進めることができました。
後にMartino教授から聞いた話ですが、「日本から留学希望の話をいくつか聞いていたけど、最終的にそれは一人だったと分かってびっくりしたよ」と笑われました。それを聞いて、留学したい熱意が伝わるくらい行動を繰り返せば、留学の道が切り拓けることを実感しました。

留学先のMartino教授が大阪に訪れた際に、 大阪大学の研究室で撮影
留学先のMartino教授が大阪に訪れた際に大阪大学の研究室にて撮影

ー研究留学に伴う経済的な壁、言語の壁など様々なハードルがあると思っている方も多いと思います。これらのハードルについての考えを教えていただけますか?

細見今回、光栄なことに研究留学助成金を獲得できましたが、世界的な物価高と円安の影響で経済的には不十分なのが現状です。私の場合は、留学した人にしか味わえない経験や、面白い研究成果を挙げられる可能性、またそれらによる将来性に価値を置いています。しかし、ここ数年で助成金の金額が増えてきているので、今後は改善されていくかもしれません。
英語は得意とは言えませんが、1年間くらい集中的に英会話をして、たどたどしい英語ですが、コミュニケーションをとれるくらいになりました。リスニングはさらにいまいちですが、諸先輩方のほとんどが流暢ではない英語力で留学したと聞いていますので、現地では気合いで乗り切ろうと思います。
他のハードルとして、臨床医としての業務から離れることへの不安を感じている方もいると思います。これについては帰国したときにしかわかりませんが、医師として働く年数全体から考えると留学期間はそう長くはないと捉えるようにしています。帰ってきたら遅れを取り戻すべく一から鍛え直す気持ちで頑張りたいと思います。

ー今回採択を受けられた「武田科学振興財団」の助成金に応募したのは、どのような理由からですか?他の財団や公的助成金と比較して、この助成金のどのような点に魅力を感じましたか?

細見私は臨床医ですので、研究者として競争力が十分ではないことを自覚しています。ですので、研究留学助成金の中で応募できるものにはすべて応募しました。申請を仕上げるだけでも大変でしたが、なんとか助成をいただけたので、留学中には研究者として成長したいと思っています。
この助成金の魅力は、最大4年間という長期支援に加え、事務手続きがシンプルな点です。とはいえ、そうした特徴があるから選んだのではなく、結果的に採択いただけた助成金が偶然そのような特徴を持っていた、というのが実情です。

ー申請書作成はいつ頃から始めましたか?準備期間中、最も時間がかかった、あるいは苦労した点は何ですか?

細見申請内容を考え始めたのは申請の約1年前でした。留学中は、これまでの研究の延長ではなく、あえて全く新しい研究に挑戦したいと考えていました。その分、競争力のある研究内容にまで落とし込んでいくのに時間がかかると思い、早めに準備を始めました。実際に、内容を固めるまで非常に苦労しましたし、最終的には申請締め切りのギリギリまで手直しをすることになりました。
こうなった原因のひとつは、研究計画書の書き方のコツをうまく使いこなせていない点にあると思っています。そして、これはおそらく留学を目指す方の多くが抱えている共通の問題だと思います。
採択を目指すには、説得力を持つ論理的な展開をわかりやすい形で示さなければなりませんが、そのためには特有の考え方の技術を身に着ける必要があります。私の場合は、ありがたいことに知り合いの研究者の方々からのアドバイスをいただくことができ、何度もアイデアをぶつけながら修正を重ねていきました。的外れな構成になってしまい、方針を大幅に変えざるを得なかったこともあります。完成するのか先が見えず、メンタル的にきつい時期もありましたが、なんとか乗り越えることができました。

ー審査で**「採択に繋がった」とご自身で分析される、研究計画や申請書の内容における最も重要なポイント**は何だとお考えですか?(オリジナリティ、先行研究、社会貢献性など)

細見正式なフィードバックがないのでなんとも言えませんが、外科的経験や技術をもとに新たな研究的観点を提案できた点、熱意や行動力を伝えることができた点、の二つが私の研究の強みだと思います。
採択のために重要となるポイントは、助成金という"投資"をしてもらう上で、実現可能性が高いことを明確に示せるか、だと考えて意識しています。このような文脈において、ビジネスにおける新規事業の立ち上げと共通点が多いと思って参考にしています。例えば、差別化できる点はどこなのか、用いるモデルでなぜ目的を達成できると考えるのか、なぜ自分がこの研究をやらなくてはいけないのか、といった問いに対し、論理的に答えていく必要があります。実は、現時点でもまだまだつっこみどころがある研究計画なのですが、少なくとも「よく考え抜かれている」という印象を抱いてもらえたと考えています。
一方で、この助成金には特徴的な項目があり、「海外研究留学を通じて、どのように自分を高めて社会に貢献したいか」をA4で2ページにわたって記載する必要がありました。ここでは、私が留学先とどのように交渉して許可を得たのか、そのためにどのような行動をとったのか、その経緯について具体的に書きました。留学したい気持ちが強いこと、研究に真摯に取り組む決意をアピールできたと思っており、この項目はプラスに働いたのだろうと考えています。最後はやはり運の要素もありますが、この助成においてはたまたま審査員の心に刺さったということだと思っています。

細見謙登先生

ー今回の留学で、ご自身が最も達成したい研究目標は何ですか?また、この留学経験が将来のキャリアにどのように役立つと考えていますか?

細見研究成果はもちろんですが、一流の研究者の考え方や戦略の立て方など、どうやって一流になってきたのかを知りたいと思っています。研究はギャンブル的な運要素もありますが、継続的に素晴らしい成果を挙げるラボがあるのも事実です。留学後に三重大学に戻ってきても、その考え方を身に着けていないとどうやって進めばよいのかわからなくなってしまいます。なので留学中には、研究に行き詰ったときにこそどうやって乗り越えるのかをよく考え、一流の研究者の考え方を少しでも身に着けられたらと考えています。
私は英語も得意ではないし、研究も十分な経験がないため、留学中には辛いことや困難が多いと思います。なんとか乗り越えられることができれば、帰ってきたときには自分にしかないものを持って帰れると信じて、留学に臨みたいと思います。

ー研究者を目指す臨床医は多くない中で、外科医でありながら基礎研究に集中したいと考えるのはどのような理由からですか?最後に、先生が考える研究の魅力や面白さを教えてください。

細見研究によって人生が楽しくなるから、です。興味がある分野を少しでも調べればわかりますが、医学もまだわからないことだらけです。そして、そのわからないことを研究のターゲットにするわけですので、研究を精密に行えば確実にそれが判明します。その結果が面白い事実であるかは予想できませんが、万が一常識を変える事実が判明したらこれ以上ない楽しい瞬間を味わうことになります。このような希望をもって仕事ができるのが研究の大きな魅力の一つです。
どんな仕事でもただの繰り返しになってしまったらどうしても飽きてくると思いますし、気持ち的に疲れてしまうこともあるかもしれません。一方で研究者は、新しい報告や自分自身のデータを手がかりに、常に新しいことに挑む仕事です。私自身、これまでの研究を通じて楽しい時間や刺激をいただいてきましたし、留学に向けて準備している今も、楽しい瞬間の一つだと感じています。これは研究でしか味わえない感覚ではないかと考えています。
今日の話を聞いて、研究の道を目指してみよう、留学にチャレンジしてみようという人が、一人でも多く出てきてくれたら嬉しいです。本日はありがとうございました。


研究者情報


細見謙登先生

医学部附属病院 

助教 細見 謙登(Hosomi,Kento)

専門分野:形成外科

【参考】

医学部附属病院 形成外科HP https://www.hosp.mie-u.ac.jp/keiseigeka/

研究者情報ページ(細見 謙登) https://researchmap.jp/kentohosomi