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第七回授業紹介特別編 金魚の赤ちゃんを卵から育てる⁉ 三重大で60年続く伝統の実習について、淀教授に聞いてみた!

2025.12.12

三重大学広報・渉外室インターンシップ生です!

未来の受験生の皆さんに向けた「おもしろ授業・実習紹介」第七回 特別編は、魚類種苗育成学実習(生物資源学部 海洋生物資源学コース 3年)を担当する淀太我教授へインタビューに伺いました!

淀先生は学部時代から大学院博士後期課程までの9年間を三重大で過ごされ、現在も三重大学 魚類増殖学研究室で教鞭をとられています。

淀先生も学生時代に受講し、今は教員として指導にあたっている魚類種苗育成学実習のお話から、学生時代の離島暮らし(!?)のエピソードまでじっくりと語っていただきました!

ぜひ最後までお楽しみください!

淀教授魚類種苗

―魚類種苗育成学実習ではどんなことを行うんでしょうか。

淀:金魚を卵から3~4か月程度、班ごとに学生の皆さんで毎日世話をする実習です。一般的な金魚すくいの金魚は、春頃産まれて夏まで3~4か月育てられた後、夏祭りの頃に出店に並びます。この実習ではそれと同じくらいの期間飼育し、夏休み前に実習を終了するので、だいたい金魚すくいの金魚くらいの大きさになるまで育てることになります。

―この実習を行う意義はどこにあるのでしょうか?

淀:この実習は、生物資源学部 海洋生物資源学コースの授業です。このコースでは水産に関する知識を一通り学ぶのですが、その中で一つ重要な学習内容として、魚を卵から孵して育てる技術や知識を身に着けるということがあります。特に卒業後、本コースでの学びを生かして水産関連の仕事に就いた場合、これらの知識がとても重要になります。そのため講義で聞くだけではなく、自分で体験してトラブルやアクシデントを乗り越えてもらうことで、知識や技術をしっかりと身につけてもらうことを目的としています。

淀先生から実習の説明を受ける学生たち

―飼育対象に金魚を選んでいることには何か理由があるのでしょうか?

淀:三重県のすぐお隣に、愛知県弥富市や奈良県大和郡山市といった、日本有数の金魚の産地があります。金魚の養殖は、この周辺地域の伝統的な産業なんです。金魚の卵を入手しやすいという地域的な利点と、三重大生として地域産業を学んでほしいという理由で金魚で実習を行っている面があります。

 また海水魚や渓流の魚はすごく管理が難しく、実習で飼育してもトラブルで全滅してしまう可能性があります。金魚なら比較的安定して飼育できるという理由もあり、金魚で実習を行っています。

 私は三重大学生物資源学部の卒業生なんですけども、実は30数年前に私が学生だった時も既に同じ実習を金魚で行っていました。遡るとかれこれ60年以上、三重大ではこの実習が続けられてきたようなので、それも大きな理由の一つだと思いますね。

稚魚の数を数える学生メダカの仔魚

―淀先生から見て、この実習の一番難しい部分は?

淀:やっぱり「生き物が相手」の実習なので、我々教員にも先が見えないところですね。金魚の産卵時期がだいたい毎年4~5月なんですが、その年の天候次第でいつ金魚が卵を産んでくれるかが変わります。実習用の金魚の卵は、愛知県水産試験場弥富指導所というところからもらっているんですが、金魚次第なので「何月何日に卵をください」と指定することはできません。朝、金魚が卵を産んだら水産試験場から連絡が来て、その日のうちに津市から弥富市まで卵を受け取りに行き、急遽その日から実習が始まる、というスケジュールで毎年やっています。教員は金魚が卵を産むまでは出張も入れられないし、毎日ずっと「産卵はまだかな~まだかな~」と待っているのが恒例です。さらにその後も、猛暑や大雨が続くとどうなるかわからない、というのはこの実習の難しいところです。

―金魚の生育がかなり天候に左右されるとのことでしたが、ここ数年の夏の暑さで実習に影響は出ていますか?

淀:今のところギリギリ大丈夫ですが、この先さらに暑くなるとちょっとまずいですね。実習では金魚の餌やりと同時に、毎日水槽の溶存酸素量(水中に溶けこむ酸素量、魚の呼吸に関わるため飼育する上でとても重要)を測ってもらっています。酸素は水温が高くなるほど溶けにくくなるんですが、溶存酸素量を計算するためのデータ表が水温30度までしかないんですよ。近年は夏の暑さで水温30度を超える日もたくさんありますから、毎年学生から「暑すぎて溶存酸素量が出せません!どうしたらいいですか」と聞かれます(苦笑)。昔はこんなに水温が上がることはなかったんですけどね。

 同じ水槽群で色々な魚を飼育してきた経験上、最高気温35度を超える日がだいたい5~6日続くと、暑さで魚が死に始めるなと感じています。以前は8月中旬ごろに猛暑日が続くことが多かったですが、近年は7月下旬ごろから既にかなり暑くなってきていますよね。なので本来は7月末まで飼育を続けていましたが、ここ数年は暑さで金魚が死なないように1, 2週早く切り上げています。ただ今年は7月上旬の時点で猛暑が続いてしまったので、死んだらどうしようとヒヤヒヤしながら見ていました。

―これまでに金魚が全然育たなかった、あるいは全滅してしまったような年はあるんでしょうか?

淀:今年で20年くらい教員としてこの実習を受け持っていますが、今のところ全滅した班は一つもないです。でも全滅に近い状態までいった班があった年はありました。原因は天候から人的な要因まで、年によって様々です。

 この実習の特徴の一つとして、学生が生きた魚を毎日世話して育てるという点がありますが、教員側で餌の量や種類を決めるわけではなく、学生さん自身で考えて比較的自由に決めてもらっています。それによって当然たくさん生き残る班もあれば、うまく育たなくて数が減ったり、金魚の体が大きく成長しなかったりする班もあるわけです。最終的な結果から「なぜ自分たちの班は他と比べてたくさん生き残ったのか / 生き残らなかったのか」を考えることが学びになります。

 金魚を含むほとんどの魚は「多産多死」といって、卵をいっぱい産み、その後の早い段階で稚魚がたくさん死んでしまい、成魚になるまで生き残る数は少ないのが普通です。こういった話は講義でもしますが、それを実体験として「こんなに減ってしまうんだ」と理解してもらう、というのも一つの目的です。どんなに上手に育てても、ほぼ100%に近い生き残り方をすることはないので、実習の中で「何匹生き残ったら及第点」のような目標は設けていません。

実習で育てた金魚に餌をやる学生2人魚類種苗生産学実習で育てられた金魚

―魚類種苗育成学実習のほかに、淀先生が受け持っている授業は何がありますか?

淀:実習に関しては、魚類種苗生産学実習というニジマスの人工授精を行う実習を担当しています。講義科目では、魚類増殖学、魚類学、海洋生物学(海洋生物資源学コース選択必修)を主に担当しています。

―他学部の学生でも受けられる授業はありますか?

淀:共通教育科目で「環境学A 外来生物問題を考える」という講義を担当しており、これは希望すれば全学部の学生が受講することができます。また海洋生物資源学コースの授業でも、希望があれば他学部の学生さんも届けを出して受講してもらうことはできます。

―ここからは先生ご自身についてお聞きしたいと思います。改めて、魚類の「増殖」って何ですか?

淀:生け簀の中や水槽の中で魚を増やすことを「養殖」というのに対して、天然の海や川、湖などで暮らしている魚を増やすことを「増殖」といいます。なので魚類増殖学というのは、天然の魚を増やすにはどうしたらいいか、ということを調べる学問です。

 なぜ増殖が大切かというと、今、海や川、湖などで、天然の魚が減ってしまっているんですね。しかも減ってしまっている原因のほとんどは我々人間にあります。例えば水質汚染であったり、干潟や藻場などの魚が暮らす環境を埋め立ててしまったり、魚が増える能力以上に乱獲したり、外来生物を持ち込んだせいで生態系のバランスが崩れたり。もちろん近年は気候変動なども要因としてありますが、多くは人間が直接的に関わって魚を減らしてしまっています。その結果として、漁獲量が減って価格が上がり食卓に上がらなくなったり、レジャーとしての釣りができなくなったりといった、人間への直接的な弊害も起きています。さらに天然の魚は当然生態系の一員なので、それが極端に減ってしまうと生態系が壊れて、もっと大きな意味で環境に影響してきます。なので、人間のせいで減ってしまった魚を人間が元通りに増やしてやらないといけないという意味で、増殖が大切なんです。

―淀先生は三重大学出身の先生でいらっしゃいますが、淡水魚の増殖を研究しようと思ったきっかけは何ですか?

淀:一つは、私の生まれ育ちが近畿地方の内陸部だったことで、元々淡水魚・川魚に興味があって、水産系の大学に進みたいと思い三重大に進学しました。なので、一番初めの理由は「好きだから」ですね。実は学生時代は増養殖の研究をしていたわけではなくて、淡水魚の生態を研究していました。その後博士号を取り、大学教員の職を得たのが「魚類増殖学研究室」でした。ということは、自分の興味とは少し離れるかもしれませんが、「増殖」の研究を仕事としてやらなければいけなくなったわけです。今まで興味があって研究してきたのも、元々スキルや知識があるのも淡水魚だし、淡水魚が実際に増殖を必要としていることも間違いないので、研究テーマを生態の解明から増殖に変えたのがきっかけです。ただそれは自分の今までやりたかったことと外れてはいなくて、今まで研究していた淡水魚の生態解明や保全、外来魚問題が、実は淡水魚の増殖に直接的に繋がっていたので、方向性を大きく変えたわけではなく、研究のゴールを「増殖」に置いたという感じです。

学生のインタビューを受ける淀先生

―淀先生は三重大で学部→修士→博士と進学・卒業されていますが、先生の学生時代の研究テーマは何だったんでしょうか?

淀:オオクチバス(北米原産の外来魚、ブラックバスとも呼ばれる)を研究していました。実は今年でブラックバスが日本に持ち込まれてちょうど100周年なんですが、持ち込まれた100年前の時点で漁業関係者や研究者からはブラックバスの外来種問題は懸念されていました。私が学生だった1991年ごろに、環境問題や生物多様性の概念が一般の人々にも浸透し始めて、ブラックバスをはじめとした外来種問題が再認識されました。その一方で、改めて見回すと外来種問題を裏付けることができる国内の論文がほとんどなかったんです。元々肉食のブラックバスが日本に来て突然草食になる訳はありませんが、原産地のアメリカでの食性は調べられていても、日本で何をどれぐらい食べているかは詳しく分かっていなくて。ブラックバスを問題だというなら、まずはそういう部分を明確にしないとダメだよね、ということで、卒論ではオオクチバスの食性を調べました。修士では食性だけでなく、年齢や成長、産卵の時期や回数などの生活史を、博士論文ではさらに飼育実験を行って、餌の選択性や嗜好性、繁殖行動、生まれたばかりの稚魚の発育などの初期生活史を調べていました。

―学部から博士までということは、先生はこの三重大周辺でずっと暮らしていらっしゃったのですか?

淀:私は生物資源学部でしたが、所属していた研究室は今教員職に就いている魚類増殖学研究室ではなく、水産実験所だったんです。当時の三重大学生物資源学部の水産実験所は、三重県志摩市の英虞湾の中にある離れ小島、座賀島というところにありました。そのため学部3年生から博士課程までの9年間は座賀島にいたので、離島での暮らしはすごい思い出に残っていますね。多分ほとんどの人ができないような経験だと思います。

 座賀島は定義的には無人島で、島に住民票を置いている人は1人もいません。当時は三重大学の水産実験所と、真珠養殖の業者さんたちの職場だけがあって、昼間は真珠養殖の人たちが作業しに来られるけど、夜は学生が泊まり込まなければ基本無人になります。年によって上下はしますが、毎年先生も含めて10人前後くらいのメンバーで、ずっと泊まり込みで暮らしていましたね。我々はもうずっと、1年のほとんどを島で生活していたわけですけど、当時はインターネットもなかったので、全く外部と隔離されていました。でも夜は半径2kmぐらいに人が1人もいない状態で過ごせるから、逆になんでもできました。多分今日本でそんな暮らしができる環境はないんじゃないかな。島で暮らしている間は、海に潜って魚を獲ったり釣りに行ったり、漁師さんの手伝いをしたりもしていました。例えばジェット水流で真珠貝を洗うのを手伝ったり、冬は伊勢海老を刺し網から外すお手伝いをしたり。かなりイレギュラーな学生時代だったと思います。

―淀先生は学生時代+教員になられてから併せて30年近く三重大学にいらっしゃいますが、先生から見て三重大学の魅力って何だと思われますか。

淀:一つは、フィールドが近いことですね。三重大学はキャンパスのすぐ前が伊勢湾で、川も山も近くにあります。フィールド調査がすごくしやすいのはもちろんですし、自然の環境はレジャーの行き先にもなりますから、研究する上でも遊びの面でも色々なタイプの自然がぎゅっとコンパクトに集まっているというのは一つの大きな魅力だと思います。あとはやっぱり、総合大学で文理問わず様々な学部が一つのキャンパスに全部集まっているっていうのも大きな魅力ですね。違う学部の人たちとの交流もしやすいし、他学部の授業を受けてみたい時も同じキャンパス内で気軽に受けられるので。

―学生のうちにやっておくべきだと思うことは何ですか?

淀:一にも二にも勉学だと思います。よく「学生時代しかできないから留学や海外旅行をした方がいい」って言われますけど、必ずしももうこのご時世そうじゃないと思うんです。社会人になってからでもある程度の休みは取れるし、終身雇用の制度も崩壊していて、一度就職したら定年までずっと働き続けなきゃいけない、みたいな社会構造じゃなくなっていますから。海外留学や放浪の世界旅行のような、今まで学生時代しかできないって言われていたようなことは、今の時代はむしろ一度社会人になってから、稼いだお金を使って行く方がより質の高い経験ができる。

 逆に、大学生の間に最も効果的にできることは勉学なんですよ。授業が受けられるのはもちろん、聞きたいことがあれば専門の先生が身近にいて質問できる。さらに図書館も使えるし、大学がお金を払っているお陰で、多くの論文にも自由に無料でアクセスできる。大学を出ると色々な論文の閲覧が有料になってしまうので、卒業してから論文を書くのは難しいんです。大学で受けられる教育は、いわば4年限定のサブスクですから、その権利を最大限に活用した方がお得ですよね。

―これから三重大学に進学するかもしれない高校生に伝えたいことはありますか?

淀:自分のやりたいこと、学びたいことをしっかり考えて、それができるところを受験して入ってもらいたいです。高校までは基本的に親や先生から学びを受けて人間形成がされると思いますけど、大学は自分で自分を形づくっていく期間だと思います。入る大学や学部によって得られる知識や環境は変わるので、それによって当然自分の人格形成っていうものも変わってくるわけですからね。卒論で何をやりたいかっていう具体的な話というよりは、もうちょっと広く「自分がどんな人間になりたいか」を元に、受験する先を選んでもらえるといいかなと思います。やっぱり自分の興味のある領域っていうのが一番大事なのかもしれないですね。

淀先生とインタビュアーの学生