- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

2013年の年頭に際して

昨年の暮れに政権が交代しました。新政権の最重要課題は経済再生に向けた野心的な成長戦略を策定することです。これに異論をはさむつもりはありませんが、現在のわが国は、経済的豊かさの一つの指標である一人あたりのGDPは都市国家と産油国を除くとアメリカ、カナダ、オーストラリアと肩を並べるところにあります。韓国の2.5倍、中国の10倍ですので、既に経済的には十分に豊かでしょう。それが、これからどんどん右肩上がりになっていくとは考えにくいでしょう。雇用を確保する戦略は取らなければならないでしょうが、いかに社会を成熟させるかということ、つまり「成長戦略」より「成熟戦略」の方が大切ではないでしょうか。自虐的になりすぎずに、「社会が大人になる」ために大学としての役割があると思っています。高等教育を受けた人は極めて健康的で道徳的であり、社会の模範となることを示す必要があります。そのためには、大学も変わらなければなりません。自らの存在を地域はもとより日本、世界に明確にすることが求められています。その意識改革は急がなければ国民の賛同は得られないでしょう。

本年度の最大の課題は教養教育の改革と充実を実現するための組織とカリキュラムを整備することです。カリキュラム等検討委員会の答申を基にして新たな取り組みを推進します。基本的には、社会人としての常識と学びの習慣を、学生がいかに認識するかが重要となります。組織の改革となりますと、総論賛成、各論反対となりがちですが、議論を重ねながら、最終的にはトップダウンで進めていかざるを得ないかもしれません。教職員学生の協力はもちろんですが、国民の皆さんのご支援も必要ですので、よろしくお願いします。

研究での地域連携は重要です。地域のニーズと大学の持つシーズを結び付け、成果を上げるためには相互の緊密なネットワークが必要です。そのための努力を惜しんではならないでしょう。世界的にも注目される研究も推進しなければなりません。われわれの大学規模では大きな大学と人財や予算で同じようにはいきません。三重大学のそれぞれの学部は世界で評価される研究を行っていますので、そこに集約化をする努力をしましょう。

三重大学は、これまで社会連携を積極的に推進し、行政、産業界や県民から高い評価を受けていると認識しています。センター・オブ・コミュニティ(COC)としての機能を十分発揮できるよう、地域戦略センター、社会連携研究センター、地域イノベーション学研究科を拠点として、地域の中で三重大学の存在感をこれまで以上に高めていきます。「三重大学は頼りになるなー」と皆さんから言われるようになることを夢見ています。

三重大学は、世界一の環境先進大学を目指して、これまで様々な取り組みをしてきました。特にスマート・キャンパス実証事業は、昨年の暮れより本格的にスタートし、今年の前半には、予定している施設の大半が完成します。まずは、これからの2年間で円滑な稼働を実現し、そのあと約15年かけて効率的エネルギーマネージメントシステムの実証と大幅なCO2の削減を実現します。それが、大学全体の情報発信や経営基盤の強化にもつながっていくだけでなく、日本社会のモデルとなることを目指します。

大学のグローバル化とそのための人材養成を実現しなければなりません。そのためには、グローバル・スタンダードつまり世界の標準が通じるような学内にしなければならないでしょう。これまで以上に世界の留学生が集い、日本人学生との会話が英語でできるようなってほしいと願っています。若者の内向き志向が懸念されていますが、私は二極化していると考えています。三重大学には明朗活発で実に生き生きとした学生が多くいます。そんな学生の力を伸ばし、サポート・指導していくことで、一部の内向き思考の学生も積極性をもってもらえるような流れにできるのではないでしょうか。

今年は巳年です。十干を加えると癸巳(きし)になります。ヘビというと、現代のわれわれはあまり良い印象を持っていませんが、脱皮を繰り返すため生命のみなぎる動物として、神話の世界では神聖な動物として位置づけられています。丁度60年前の癸巳の年は、科学史の変革を起こしたジェームズ・ワトソン、フランシス・クリックがDNAの二重らせん構造を発表した年になります。ワトソンはギリシャ神話の医神アスクレピオスのことを当然知っていたでしょう。彼がゼウスの怒りを買いへびつかい座となったことにより、医学のシンボルがヘビの巻きついた杖になりました。二重らせんはヘビが二匹絡まっていた像と非常によく似ていますので、発想の原点はそのあたりにあるのかもしれません。その上にワトソンは東洋での巳年のことを知っていて、二重らせん構造を思いついたのでは?と勝手に想像していますが、これは飛躍しすぎですね。今年は科学にとって大きな躍進の年になると期待しています。

本年の皆さんのますますの活躍を期待しております。