グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

忍者から学ぶ日本の精神

2016.6.15

インタビュアー:広報室

今回は、人文学部 文化学科の山田 雄司(やまだ ゆうじ)教授にインタビュー取材を行いました。

写真:山田先生

-山田先生の研究テーマを教えてください。

山田忍者の研究をしています。2012年に三重大学、上野商工会議所および伊賀市が連携して「三重大学伊賀連携フィールド」が設立され、その一つの課題として「伊賀における『忍者文化』に着目した地域活性化の取り組み」が掲げられました。伊賀では、観光を目的とした忍者の取り組みは盛んに行われていましたが、学術的な研究はされていませんでした。「忍者」は世界でも"Ninja"と呼ばれるほど人気があり有名ですが、明らかになっていないことがまだまだあります。そのような、今でも謎に包まれている忍者の実態を明らかにする研究をしています。

-忍者の歴史は深そうですね。どのように研究されているのでしょうか。

山田主に、文献資料を読んでいます。忍術書には正忍記や萬川集海、また、最後の忍者と呼ばれる川上仁一社会連携特任教授や伊賀流忍者博物館が所蔵しているものなどがあります。そのような忍術関係の資料の解読を進めています。これまで数多くの忍者関係の本が出版されていますが、典拠が良くわからないことが多く、書かれていること全てが真実かどうか見極めることが難しいところです。さらに忍術書の内容自体、どこまで信頼がおけるのか判断するには困難が伴います。例えば、江戸時代の忍術書に聖徳太子の時代から忍者がいたと書かれていますが、日本書紀など他の資料には全く書かれていません。文献資料に書かれている内容の典拠に信憑性があるか、正しいかどうか振り分けていくことが重要です。これまでの研究により、南北朝時代の14世紀前半には忍者がいることは確実ですが、それ以前に遡って確かめることは難しいと考えています。

-研究を進めるにあたって、わかってきたことはどんなことでしょうか。

写真:忍術書

山田一般的に世間が持っている忍者のイメージと、忍術書に書かれていることが違うということが沢山ありました。みなさんは、忍者の使う武器は「手裏剣」とイメージすると思いますが、実際は違います。忍者が使う「忍具」は鉤縄(かぎなわ)やはしごなど様々な種類がありますが、手裏剣について書かれた資料は忍術書の中には見つかっていません。持っている物を何でも投げることを「手裏剣にする」と呼んでいます。また、それは相手を驚かせて逃げるための道具であって、武器として毒を塗って相手を殺傷させるようなものでもないことがわかりました。くノ一についても、今のイメージのように黒装束を身にまとい、男性と同じように夜に忍び込んで活動していたわけではなく、昼間に一般人を装って情報を得たり、台所番などの内通者として活躍していました。

-では、実際の忍者とはどのようなものだったのでしょう。

山田鎌倉時代末期から悪党が現れ、その悪党たちが傭兵として雇われたことが忍者の始まりです。悪事の働き方、働く場所は悪党たちがよく知っていますからね。その傭兵たちが忍びとして大名のもとに仕え、城に侵入して情報を得てくるなどの職務に携わることになります。それが江戸時代になると城下の治安維持や門番、要人の警護を行うようになります。時代によって仕事の内容や身なりは変わっていきますが、情報を得てくるという部分は昔から共通しています。忍者は戦の時だけ活躍しているように思われがちですが、隣国での良い政策を自身の主君に伝えて自国で活かすこともありましたし、幕末に外国船が来た時に主君へ動向を知らせる役としても忍者は活躍していました。

-忍者には暗殺者のようなダークなイメージもありましたが、誰にも気づかれずに諜報活動をしていたんですね。今、一番力をいれて研究していることは何ですか?

写真:脳波測定(小森先生)

山田忍術の科学的根拠について調べています。どのような忍術があったのか、また、実際にどのような効果があるのか他分野を専門とする先生と共同研究しています。今は、教育学部保健体育専攻の杉田正明教授と忍者の走り方「ナンバ走り」の仕組み、医学部看護学科専攻の小森照久教授と忍者の呼吸法や印を結んだことによる効果、伊賀研究拠点の加藤進社会連携特任教授と狼煙に使われる火薬の燃焼実験などの検証をしています。他にも、忍者の携帯食、毒の作り方、薬草の使い方の研究なども伊賀研究拠点で行っています。

-忍術を科学的に検証するとは、とても面白そうですね。忍術は現代社会でも応用できるのでしょうか。

写真:脳波測定(小森先生)

山田忍術は人々の暮らしと強く結び付いていました。忍術書にある疲れにくい走り方、精神を統一させる呼吸法は現代の野外活動で役立つと思います。また、忍者はさまざまな知識と経験を持っている必要がありました。現代人も、自然を感じて感覚を研ぎ澄ますことで、山が崩れる、川が氾濫する、などを普段との違いから気が付くかもしれません。他にも、「青色は物資不足、赤色はけが人がいる」など、狼煙を色分けして意味を持たせることで災害発生時に活用できるのではと考えています。

-忍者も忍術も少しずつ解明されてきているのですね。海外でも忍者講演をされていると聞きましたが。

山田2013年のモンゴルを皮切りに、私は中国、イギリス、スペイン、フランス、ブルガリア、スロベニア、クロアチア、ハンガリー、ロシア、アメリカで講演しました。海外の方はアニメやマンガに登場する忍者の「飛び跳ねる」「素早く動く」など人並み外れた能力を持ったところに興味を持ち始めると思います。実際の忍者はそうではありませんが、そこから忍者のことを調べたり聞いたりすることで、忍者を通して日本文化をもっと知ってもらえればと思っています。忍者がどのように時代と共に変遷していったか伝えることで、なぜ忍者がずっと日本で愛されているのか知ってほしいですね。

写真:山田先生

-今の大きな目標は何でしょう。

山田今年(2016年)の7月から日本科学未来館(東京・お台場)で行われる企画展「The NINJA」の成功ですね。三重県でもMieMu(三重県総合博物館)で10月下旬から行われます。そこで皆さんに私たちが行ってきた研究の一つの到達点を知ってほしいです。
(企画展「The NINJA」の詳しい情報は本学HPイベント情報をご覧ください。https://www.mie-u.ac.jp/news/event/2016/06/the-ninja.html)

-夏休み期間中なので、たくさんの方に見てもらえそうですね!最後に、先生が考える「忍者の心得」とはなんでしょう。

山田「忍術の忍は忍耐の忍」です。現代は、すぐに結果を求められてしまいますが、結果が出るまでは良いこともあれば悪いこともあります。悪いことが起こっても、それに耐えながら地道にこつこつ積み重ねる心構えが大事だということを忍者から学びました。忍者の核心である「耐え忍ぶ」精神が日本をつくりあげてきた重要な要素だと思っています。

研究者情報


写真:山田先生

 人文学部 文化学科専攻 日本研究講座
 教授 山田 雄司(Yamada, Yuji)

 専門分野:日本古代・中世信仰史
 現在の研究課題:
 ・忍者・忍術に関する研究
 ・伊勢・熊野信仰の研究 中世怪異に関する研究 北野社家日記の研究

【参考】
 人文学部HP https://www.human.mie-u.ac.jp/
 教員紹介ページ(山田 雄司) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/2287.html