ゼブラフィッシュ創薬と幅広い応用への期待

2015.6.10

インタビュアー:広報室

医学系研究科生命医科学専攻基礎医学系講座薬理ゲノミクスの田中 利男(たなか としお)教授にインタビュー取材を行いました。

-田中先生は、2012年から数えても、7件もの記者会見を開催しており、驚異的なペースで研究成果を出されていますが秘訣があるのでしょうか?

田中私の研究の関心は、常に「アンメットメディカルニーズ」つまり、現在なお治療が困難な難治性疾患など未解決の領域に向いています。諦めずに挑戦していると一筋の光が見えてくる。こういった姿勢がもしかしたら研究成果につながっているのかもしれません。また、ハイスループット(高効率)のモデル生物であるゼブラフィッシュに目を向けたのもこの目的には重要なことだと思います。

-「ゼブラフィッシュ」を活用した創薬発見が目覚ましいですが、改めて「ゼブラフィッシュ」とは何か教えてください。

田中ゼブラフィッシュはインド原産の小型の熱帯魚です。実験動物として、1943年頃から発生生物学の世界では使われていたようです。医学の領域でも2000年頃から急速に利用が増え始め、私がセンター長を務める「メディカルゼブラフィッシュ研究センター」は、日本で初めての組織的なゼブラフィッシュの医学研究センターとして2009年に開設されました。

ゼブラフィッシュの特徴は、従来のモデル生物であるラット等に比べて、1回の産卵で200個の卵を産み、臓器のできるスピードも速く、安価であるということ。個体も小さいため設備もコンパクトで済みますし、試験化合物の消費量も大幅に削減できます。また、ゼブラフィッシュは体外受精であるため、早期には母体内で免疫機能が発達することがなく、実験のためのヒトがん細胞移植に対する拒絶反応の心配がありません。もう一つの大きな特徴として、ゼブラフィッシュは、熱帯魚であるため、35度前後の水温、つまり人の体温と同じ環境下での実験も可能です。大変ハイスループットなモデル生物なんです。

-ゼブラフィッシュは元々は体の模様がしましま(ゼブラ模様)ですが、先生の開発した「ミエコマチ」は違った特徴を持っていますね。どういうゼブラフィッシュなんでしょうか?

田中「ミエコマチ」は、私たちが2010年に開発した新しいゼブラフィッシュです。体が透明で血液の流れや体の変化を直に観察することができます。実験の目的に合わせて、組織に蛍光タンパク質を発現する「オーダーメイドミエコマチ」を創成することも可能です。センターでは22種類のゼブラフィッシュを飼育していますが、将来的には人間の細胞別に光る200~300種類のゼブラフィッシュを作りたいですね。※左の写真が「ミエコマチ」です。

-ゼブラフィッシュ、段々と興味が湧いてきました。ところで、先生が基礎医学の研究分野に進もうと思ったきっかけを教えてください。

田中実は小学生の頃に、医学部の大学院生だった叔父の学位論文を手伝っていたんです。尿路結石の研究をしていて、ウサギの腎盂に尿路結石を植えつけて結石が大きくなっていく段階を観察していました。その経験が、医学の道を志すきっかけの一つになったのかもしれません。

インタビュー風景

-先生のこれからの研究について教えてください。

田中今、挑戦しているのがテイラーメイド医療(個別化医療)です。すでに、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)に採択されたプロジェクトとして始動しています。医学の発展は、これまで大きく人類に貢献してきましたが、患者は常に「病気」を見るのではなく「私」を診(み)てほしいという要望を持っています。実は症状一つとっても、それぞれに個性があるのです。抗がん剤でもよく効く患者は全体の約3割で、多くがその副作用に悩まされています。「この病気にはこの薬」という思考ではなくて、その患者さんによく効いて副作用のない薬を探し続ける使命が医学にはあります。それが医学の進歩の最終ゴールではないでしょうか。私の研究では、2015年4月から、患者さんからがん細胞をいただいて、真の個別化医療への解析が進んでいます。7月頃には実用化に向けて動き出したいですね。

-忙しい田中先生ですが、いつもとってもお元気です。研究の合間にはどうやってリフレッシュしているのですか?

田中絵が好きです。書くのも見るのも。この間は、和歌山県串本の無量寺にある長沢芦雪の巨大な虎を観に行きましたよ。

-最後に、医学の道を志す若い研究者に向けてメッセージをお願いします。

田中「アンメットメディカルニーズ」に蓋をしないでください。患者を絶望の淵から救いあげることを諦めないでください。"今日は直せないけど明日は直せる"という小さな一歩に挑戦する気持ちを持つことが大事です。その気持ちが自分自身にとっても医学を楽しみ、生きることを楽しむこととつながるはずです。

-ありがとうございます。先生のこれからの研究を応援しています。

 

【参考】
薬理ゲノミクスHP http://pgx.medic.mie-u.ac.jp/
教員紹介ページ(田中利男)http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1763.html
メディカルゼブラフィッシュ研究センター http://pgx.medic.mie-u.ac.jp/mzrc/index.html

【先生のこれまでの研究成果(2012年~)】
・新しい蛍光ヒトがん幹細胞阻害薬の発見と臨床応用(本サイトでも紹介しています。http://www.mie-u.ac.jp/R-navi/release/cat456/post.html
・新規治療標的遺伝子を発見
・レモン由来成分の脂肪肝抑制効果の発見
・新たな白血病幹細胞治療薬の高速探索法開発に成功
・新規肥満制御遺伝子MXD3の発見
・血液脳関門障害を簡便に可視化する方法の開発
・肥満や食欲不振の新しい治療法実現を目指して-食行動を制御する遺伝子と医薬品のハイスピード探索法開発に成功-