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第五回授業紹介特別編 「生きる力」を学ぶ忍者学実践演習について、山田教授に聞いてみた!

2025.11. 6

三重大学広報・渉外室インターンシップ生です!

未来の受験生の皆さんに向けた「おもしろ授業・実習紹介」第五回は特別編として、忍者学実践演習(大学院 人文社会科学研究科 修士1、2年対象)を担当する山田雄司教授へインタビューに伺いました!

実習で学べる忍術(⁉)や忍者学の魅力についてたっぷりと語っていただきました。

世界で唯一三重大でしか学べない「忍者学」について、ぜひ興味をもっていただけると嬉しいです!

※本記事は山田雄司教授の研究見解に基づき、広報・渉外室インターンシップ生が作成しております

山田雄司教授に3人の学生がインタビューを行っている

―忍者学実践演習では、具体的にどのようなカリキュラムで実習を行っているのですか?

山田:伊賀の山の中で忍術や忍者の暮らしを体験するカリキュラムを2日間行い、最後の1日は伊賀研究拠点という数理科学系の施設で実験等のカリキュラムを行っています。三重大学では、甲賀流の忍術を受け継ぐ川上仁一先生が産学官連携アドバイザーを務めており、2日間の伊賀山中での実習では川上先生が講師を務めます。普段の忍者研究では歴史を専門としているため、忍術書などの文献を読み解くことをメインに行っていますが、実際の忍者の世界は紙に書かれていることがすべてではありません。実際に身体で受け継がれてきた技や暮らしを学ぶ必要があるため、川上先生にお願いし、毎年大学院生を対象にこの実習を行っています。

 実際の忍者は山の中で隠れたり奇襲をかけたりしていましたが、例えば地面の凹凸や傾斜のある山の中での受け身の取り方は、平らな畳の上で柔道の受け身を取るのとは大きく異なります。実習では山の中での受け身の取り方や歩き方、隠れ方、躱し方、崖の上り方などを実際に体験しながら習得します。また道具の使い方や縄の縛り方、狭い山中での刀の使い方なども体験します。教室や畳の上で行うのとは違う技術が必要になるため、実際に忍者が活動していた山城を使って実践することで、少しでも忍者の実像に迫ることを目的としています。

―刀というのはいわゆる短剣、脇差のようなものですか?

山田:木でできた短剣のようなものを脇に差して実践演習を行います。刀を脇に差したまま受け身を取るのは、刀で自分自身を傷つけてしまうこともあるため難しいんです。そのため刀を差した状態での受け身の取り方や走り方なども学びます。頭で思っているのと実際に体験するのではかなり大きなギャップがあるため、実際に体験することを実習で行っています。

―フィクションだと忍者はものを投げたり刀で近接戦を行ったりといったイメージがありますが、これらのイメージは実際どれくらい合っているんでしょうか?

山田:よく忍者は手裏剣を投げるイメージがありますが、これは実際にはありません。刀は差していたので、狭い空間や木々の間で戦うようなことはありました。ただ忍者独特の忍者刀のようなものがあるわけではなく、武士が使っていたのと同様のものを使って戦っていました。

忍者学実践演習で忍者の武器を構える学生たち忍者学実践演習で忍者の武器を構える学生たち

―実習では忍者の暮らしについても学べるそうですが、具体的にはどのようなことを学ぶのですか?

山田:これまでの実習では火薬を使ったりしました。忍者はサバイバルに長けていたので、山の中で安全に歩けるルートの探し方や迷わない歩き方、きれいな飲み水の探し方、コンパスを使わずに草木の生え方から方角を知る方法など、様々な知恵を実践的に学ぶことができます。忍術書では道具がないときの野外での調理方法なども書かれているので、今後はそういった内容も実習で行いたいと思っています。

―ということは、実習で学ぶ忍術は日常生活で使うことは少ないかもしれませんが、サバイバル的な知識として災害時や山で遭難したときなどに役立ちそうですね。

山田:一番最近大学院を卒業した方が伊賀市に移住して民泊と道場をやっているのですが、そこでは忍術と防災を掛け合わせたプログラムを行っています。真っ暗闇の中や食べ物がないときなど、災害時にも忍術は有効なものだと思います。

―ではある意味「生きる力」が身につく実習でもあると。

山田:そうですね。

―実習は大学院の授業ですが、学部生が広く受けられる授業にはどのようなものがありますか?

山田:共通教育で日本史Bという授業を担当しており、忍者の歴史について講義をしています。忍者がどのように成立し、その仕事がどのように変遷してきたのかを、座学と映像資料を交えながら解説しています。

―ちなみに実践演習は学部生が受けることはできませんが、他の研究科の大学院生が受けることはできるのでしょうか?

山田:今までは人文社会学研究科の学生しか受けたことはありませんが、もし希望者がいれば他の研究科の学生も受け入れますよ。

受け身を指導する川上先生忍者の身のこなしを習う学生たち

―座学系の授業では忍術書の内容を読み解くとのことでしたが、実際忍術書にはどのようなことが書かれているんですか?

山田:忍術書は17世紀中ごろから編纂されているのですが、そこには様々な種類のものがあり、火薬の術から水遁の術まで幅広いことが書かれています。「本をよく読み勉学を怠るな」などといった精神的な部分から、道具の使い方、隠れ方などの身のこなし、天候の読み方など、内容はかなり多岐にわたります。「印を結んで呪文を唱えると消える」など、実際には出来なかっただろうと考えられる呪術的な技も、実は忍術書には書いてあります。アニメなどフィクションの忍者は、消えたり空を飛んだり水の上を歩いたりといった忍術を繰り出しますが、これらは基になる実際の忍術を大げさに膨らませて作られたものです。

 私は主に古文書を読み歴史を研究していますが、忍者学そのものは様々な分野に広がっているので、色々なところに応用してもらいたいと思います。これまでも伊賀研究拠点の先生に、兵糧丸という忍者の食べ物の効能・栄養成分や、忍者の呼吸法を行ったときの脳波の変化などについて調べてもらっています。今後も様々な分野の先生に加わってもらい、研究を広げたいと考えています。

―忍者を研究しようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?

山田:私は元々忍者好きでも忍者に詳しいわけでもなく、ゼロから研究を始めました。2012年に三重大学が地域の課題に取り組むような研究を行おうという流れになり、その時に伊賀市には大学がないためぜひ三重大学と連携して活動を行いたいという要望を受けました。その際、忍者というのはよく知られていて海外でも人気があるがしっかりとした学術研究がないということで、忍者学を三重大学で研究しようということになりました。現在も、忍者学を専門的に研究できるのは全国で三重大だけです。

―忍者研究以前にはどのような研究をされていたんでしょうか。

山田:日本史における怨霊や祟りについて、保元の乱で香川県に流された崇徳院という人物がどのようにして怨霊になったのか・脚色されていったのかを中心に研究していました。また怪異のとらえ方や、神社仏閣への信仰なども研究対象にしていました。日本史というと政治史や合戦などが人気ですが、みんながやっていることにはあまり興味がなくて。どのテーマもこれまでの日本史研究ではほとんど顧みられてきませんでしたが、例えば怨霊の研究は現在少しメジャーになりつつあります。忍者学も同じように、多くの人が研究するテーマになっていくといいなと思います。そうしたら私はまた別のテーマに挑戦するので(笑)。

―忍者学の面白さはどこにあると思われますか?

山田:怨霊や祟りの研究は、部屋で歴史書を読んで論文を書く作業で完結しがちでした。対して忍者学の研究を始めると、テーマパークからの協力依頼や、博物館の展示監修、テレビ出演など、社会との関わりが多く生まれました。エンターテインメントで歴史を扱う際に、単なる面白さを追うのではなく学術的な根拠も大切にしたいというニーズに答えることで、忍者学が社会に役立っているという実感があります。

 最近は世間でも三重大の忍者学の知名度が上がり、学生によると、就職活動で研究内容を聞かれた際に忍者学の話から話題が広がって盛り上がったと聞きました。また外国からの留学生の方は、三重大でしかできない人気の高い日本文化についての学びを母国に持ち帰って話せるという部分が大きいと思います。史実の忍者に大切なのは、色々な人と仲良くなって情報を収集することでした。これを実践してもらって、関係を築いていくということも忍者学の意義であると思います。

忍者の身のこなしを

―卒業研究では、先生の研究室の学生はどのような研究を行っていますか?

山田:学部には、忍者学を専門的に学ぶカリキュラム・コースはありません。そのため、私の研究室に所属した学生は、普通の中世の日本史について卒業論文を書くことが多いです。今のところ忍者学で卒業論文を書いた学生は一人しかいませんが、学部生でも忍者学を卒業研究のテーマに据えて詳しく学ぶことはできます。

―実践演習は大学院の授業ですし、先生の研究室には院生の方が多いそうですね。修士課程に進む方は実際どれぐらいいるのでしょうか?

山田:学部から忍者学で大学院に進んだ人はまだ一人しかいないのですが、社会人から修士課程に入学した人や留学生が多くいます。三重大の学部から大学院へ進学してくれる人がもっと増えてほしいですね。日本史専攻を直接生かせる就職先は少ないのですが、実はテーマパークや地域おこし協力隊など、忍者学を生かせる就職先は意外と多いんです。

―創作と実際では忍者像に大きな乖離があるとお見受けしたのですが、訂正したいパブリックイメージはありますか?

山田:江戸時代以来、歌舞伎などで作られたイメージが忍者の存在を広め、人気を盛り上げた側面があります。なので創作だからといって否定したいとは思っていません。創作の忍者は空を飛んだり水の上を歩いたりしていますが、エンターテインメントとして楽しんでもらいたいです。ただ、海外では「忍者=悪事を働く暗殺者」というイメージを持たれていることがあるのですが、その認識は少し違うかなと思います。

―忍者学を海外に広めるための活動はどのようなことをされてきましたか。

山田:これまでに26か国で講演を行ってきました。私一人で講演会を行うこともあれば、川上仁一先生に実演をお願いすることもあります。海外からの問い合わせもよくありますし、海外での博物館展示などの計画もあり、これからももっと広めていきたいと思います。

―忍者研究をしてきた中で最も印象深かった出来事は何ですか?

山田:研究を通していろいろな人に会いましたが、一番印象深かったのは川上仁一先生に伊賀で初めてお会いした時ですかね。昔三重大で「結」という冊子を出していて、その企画で2号にわたって対談の連載をしたんです。和室で2時間ほどお話したのですが、川上先生は最初から最後まですごい姿勢よく正座されていました。私はもう30分くらいで諦めたんですけど(笑)。この人は一体何者なんだろうと思ったのを覚えていますが、それから川上先生には色々なことを教えていただいたり、講演で一緒に海外へ行ったりもしています。川上先生に出会わなければ忍者研究はここまで進まなかったんじゃないかと思います。

山田雄司教授

―山田先生の子供のころの夢はなんでしたか?

山田:小学生の時は、将棋の棋士か天文学者になりたいと思っていました。ただ、子供の時から霊魂や心霊写真など目に見えない世界にとても興味があったので、忍者学の前に行っていた怨霊や祟りの研究は、子供のころ好きだったものにつながっているかもしれませんね。

―学生時代の思い出は何かありますか。

山田:話せば山ほどありますが、私のいろいろな部分を築いてくれたと思う出来事は、天安門事件直後の1989年7月に中国へ行ったことですね。初めて行った海外で、事件のすぐ後に1か月半かけて中国のいろいろな場所を巡りましたが、「何とかなるもんだな」と思ったのを覚えています。インターネットもない時代に、中国語もそれほど得意ではない状態でしたが、あの時の経験は非常にいい思い出ですし、その後の私の「何とかなるやん」という部分を築いてくれたかなと思いますね(笑)。

―大学生のうちにやっておくべきことは何だと思いますか。

山田:あまり言わない方がいいことかもしれませんが、私の忍者学の授業の時には「授業には出なくてもいいよ」と言っています。もしもっとやりたいことがあるのなら、授業に出るよりも自分の好きなことをやって、単位が必要なのであれば最後に試験でよい点を取ってくれたらいいんです。今や大学や文部科学省があれこれ決めた指示で、学生が思い切ったことをやれないのが可哀想で。就職するとなかなか好きなことに打ち込めないので、学生のうちにもっと自由にやりたいことをやって冒険した方がいいと思います。

―これから入ってくる高校生に伝えたいことはありますか?

山田:高校までは歴史や国語、英語、科学などを習うと思いますが、それらは決して高校までで習うことだけで完結するわけではありません。忍者は教科書に詳しく登場しませんし、ほかにも学校では教えられない様々なものがあります。どれだけ突き詰めても「完全にはわからない」というのが忍者学の魅力です。社会ではまだわかっていないことや、今後定説が覆るようなものがたくさんあるので、そういったものに新たに取り組んで開拓していってほしいです。大学での勉強は高校までの延長ではなく、原点の資料にあたって突き詰めるものですから、その面白さを味わってほしいと思います。

山田教授と3人の学生が胸の前で印を結び忍者のポーズをしている