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自分が暮らす地域や社会のなりたちを考える法学

2022.8.31

インタビュアー:みえみえ学生広報室の学生

今回は人文学部法律経済学科の岩崎恭彦(いわさき やすひこ)教授にインタビュー取材を行いました。今回のインタビュアーは、みえみえ学生広報室員(人文学部2年 辻悠花)です。

岩崎先生

-はじめに、先生の専門分野・研究テーマを教えてください。

岩崎専門分野は、法学の分野に属する地方自治論です。研究の対象は、自治体行政や環境行政といった行政に関する法です。私自身は、「環境保全のためには自治体や行政はどういった行政手法を使えばいいのか」をテーマとしています。ゼミの学生は、同じ行政に関する法の中でも健康、福祉、防災、まちづくりなど様々なことをテーマとしています。日々の暮らしに密接に関わっているところが、地方自治を研究する醍醐味です。

-研究を始めたきっかけは何ですか。

岩崎私が大学に入学したのは1995年、大学院に入学したのは1999年と、世紀の変わり目でした。このころは丁度、行政法システムの転換期でもありました。戦後以降使われてきた法制度について制度疲労が随所で指摘・議論され、中央省庁等再編のための基本法が制定されました。また、地方分権一括法が1999年に制定、2000年に施行され、第一次地方分権改革が行われました。ほぼ同時期に、行政事件訴訟法の改正や裁判員制度の採用など、司法制度の見直しも進みました。
こうした転換期の中で、変化を見たり聞いたりするだけでなく、社会がどう変わっていくのか、法制度に求められるものは何なのか、自分なりのものの見方で考えられるようになりたいと思ったことが、研究を始めようとしたきっかけだと思います。

-研究をする中で面白いと感じるのは、どのような時ですか。

インタビューの様子

岩崎今よりももっと地域をよくするには、法をどう運用すればいいのか、どう作りかえればいいのか、自分が暮らしている地域の課題にどう適用していくのかについて研究します。その中で、自分の暮らす地域のなりたちや社会の有り様が見えてくる時に面白いと感じます。

-先生が注目している最近の出来事は何ですか。

岩崎「新型コロナウイルス感染症」が地域にもたらす影響や、自治体や国はどう対応したらいいのかについて関心を持つ必要があると思います。
最近では、プレジャーボートについて勉強しました。新型コロナウイルス感染予防のため、三密を避けられるアウトドア需要は急激に高まりました。それに伴い、プレジャーボートを利用する人も急激に増加しました。一方で、水難事故も増加しています。水に十分に慣れていない人たちが、不慣れな状態で乗ることが原因です。自治体はプレジャーボートの安全対策のためにどういった取り組みが必要なのか検討しています。このことについて、勉強したり、論文を書いたりと注目しています。
※プレジャーボート...モーターボートや水上オートバイといった、水上のレクリエーションのために使う小型船舶のこと

-新型コロナウイルスとプレジャーボートがそのように関係していることに驚きました。

岩崎コロナウイルス感染症にどのように対応するのかという直接的な課題だけでなく、様々なところに及ぼされる間接的・結果的影響についても目を向け、何を課題とするべきなのか考えることも必要だと思います。

-情報収集の仕方を教えてほしいです。

岩崎よく聞くことではあると思いますが、新聞やニュースにはきちんと目を配ってほしいです。ニュースの検索は、インターネットを通してでもできるので、自分なりのアンテナの立て方をして、情報を集めてください。
次に、情報に耳を傾け、自分で考えることを大切にしてほしいです。そうすると、複数の物事がこういう風に関わっているのではと考えられるようになるため、アンテナの範疇が広がり、収集できる情報が増えます。

-おもしろ条例を扱った講義を、オープンキャンパスでされているとお聞きしました。おもしろ条例の目的は何か、特に注目すべきおもしろ条例はどれか、教えてほしいです。

岩崎おもしろ条例とは、地域性のある興味深い条例のことです。地域の良さを発信したい、まちを元気にしたいといった目的を持って作られています。
今日は、せっかくの機会なので、オープンキャンパスで行っている講義の一部をご紹介したいと思います(動画参照)。
そもそも、「条例」とは「法」の一種です。国会で制定される法律に対して、条例は自治体の議会で制定されます。また、法律は全国どこでも同じ内容が適用されますが、条例はそれぞれの地域・自治体ごとに制定・運用されるため、地域性を生かして、地域独自の決まりである「ローカルルール」を定めることができます。
条例には、住民や事業者に義務を課したり権利を制限したり、違反した場合には罰則を科したりする「法らしい条例」があります。一方で、おもしろ条例は地域の良さを発信する等のみんなで共有したい目標を設定する、「理念条例」にあたります。例えば、三重県伊賀市には「乾杯条例」があります。これは、地酒を地元の焼き物である伊賀焼に注いでみんなで乾杯して、その良さを共有することを目的に作られました。

-これまで研究されてきた中で、一番印象に残っていることは何ですか。

岩崎先生

岩崎法学は、革新的・革命的な発見のある分野ではないため、「一番」と聞かれると難しいところがあります。ですが、コツコツ勉強を続けると、今存在している法をどう作り直すといいのか、それが鮮やかにみえてくる、という印象的な体験をすることがあります。そこが法学の魅力でもあります。

-岩崎先生は、県内の様々な自治体の審議会や審査会に委員として参加されています。そうした社会活動をする中で考えていることは何ですか。

岩崎現在、新型コロナウイルス感染症への対応や人口減少、少子高齢化、DXといった様々な課題が噴出してきています。
そうした課題に対して最前線で闘うのが行政です。予測の難しい課題への対応の中で、行政の在り方として、変わっていくべきものや、変えた方がよいものはたくさんあります。一方で、多くの人が関わるのが行政であるため、変えられないもの、変えてはいけないものもあります。どこを落としどころにするのか、自治体に関わるたくさんの人たちが苦悩されています。マニュアルも前例もなく、答えもないためです。審議会などには、そうした課題の解決に少しでもお役に立てればと考えて参画しています。
※DX...デジタルトランスフォーメーション。今までアナログだった行政の仕事にデジタルを採用することで、より良い住民サービスの提供や公務員の働き方の改善に繋げていこうとすること。

-将来、地域に関わる仕事をしたいと考えている学生が多いのが、三重大学の特徴でもあります。先生は、そうした地域の将来を担っていく学生に、どういった人物になってほしいですか。 

岩崎地域づくりは「よい地域」を目指して行われますが、何をよい地域と捉えるか、その考えや意見はみんな違います。また、地域づくりは一人が頑張ればできるものではなく、みんなの協働によるものです。そのため、考えの違う人を認め合い尊重し合い、みんなを巻き込み巻き込まれる人になってほしいと思います。また、自分もそうした人を目指しています。
地域づくりに関わる仕事がしたい、自分が地域に関わることでもっと地域をよくしたい、と思い勉強している学生が多いことは、心強いし、嬉しいです。頑張ってください。

-どのような高校生に、三重大学人文学部法律経済学科に来てほしいですか。

岩崎三重大学人文学部法律経済学科には、このような問題を考えたい、こんな就職・進路を選びたい、など、明確に将来何がしたいのか考えている学生の「学びたい」という思いに応えられる教員やカリキュラムがあると、自信を持って言えます。まずは、そうした将来どのような社会人になりたいのか見定められている人に来てもらえればと思います。
ですが、自分もそうだったように、一つも二つも、こういう風になれたらという思いを持っていて決められない人もいると思います。そうした学生が、法学・政治学・経済学・経営学をどれからでも学び始められ、学び始めたところで自分が強みとしたい分野を選べるところも、人文学部法律経済学科の特色でもあります。一つも二つもしたいことがある、もう少し先で選びたい、という学生にも来てもらえたらと思います。

-今後の目標や予定を教えてください。

岩崎現在人文学部法律経済学科の先生方と話し合っているのは、「共同研究を進めたい」ということです。私自身は、地域をよりよくしていくには、法がどういう働き方をするべきなのかを考えたいと思っています。ですが、どういう地域を「よい地域」と考えるかについては一人ひとりちがう考え方を持っていますし、どういった風に法を機能させていけばいいのかは、その時々の政治の在り方や地域経済によって大きな影響を受けます。そのため、地域づくりに貢献できるような研究は、共同作業であるべきではないかと考えるようになってきています。法学以外の分野の先生や、課題の最前線で闘っている人との共同作業にもっと熱心に取り組むとともに、私自身は法学の研究者として何をすべきなのかについて、今以上に深く考えていきたいと思います。


今回のインタビューの様子をYouTubeで公開しております。
こちらからご覧ください。


研究者情報


岩崎先生

人文学部 法律経済学科

教授 岩崎 恭彦(IWASAKI,Yasuhiko)

専門分野:行政法、地方自治法、環境法

現在の研究課題:環境保護法制および自治体法政策に関する行政法学からの研究

【参考】

人文学部HP https://www.human.mie-u.ac.jp/

教員紹介ページ(岩崎 恭彦) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1039.html