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こころを癒すツールとしての香り~そして忍者の精神性から学ぶ生き抜く術~

2017.11.15

インタビュアー:広報室

今回は、医学系研究科 看護学専攻 広域看護学領域 ストレス健康科学分野 の小森 照久(こもり てるひさ)教授にインタビュー取材を行いました。

写真:小森先生

-小森先生は今年「こころの疾患と香り-香りがこころに効く秘密-」という本を出版されましたが、どうして香りの研究をされるようになったのですか?

小森 11年前に看護学科にくる前は、うつ病の病因の研究をしていました。うつ病の動物モデルをつくって、その動物の脳の中がどうなっているのかを調べたりする実験や、臨床(患者さんを診察・治療すること)でうつ病の研究をしていました。

本学の医学科を卒業して入った精神科は、生物学的な脳科学の研究をしていました。たとえば、脳のいろいろなものが集約されて様々なホルモンがでるので、ホルモンの動きを見ることで脳の状態がこうなっているのかな、と予測できますし、ホルモンを使った治療をします。

そして学位修得後、神経・内分泌・免疫の関連に興味を持ちました。欧米では研究がされ始めていましたが、日本で研究している人はほぼいませんでした。
当時は、免疫は独立したシステムで、ストレスなどの他の影響を一切受けないと考えられていました。ですが、もしかして違うのでは、という話がではじめ、それについて研究しようと留学を考えたのですが、渡米直前にレーガン政権の緊縮財政により研究資金がでないと知らされ、留学を断念しました。その後、日本で神経・内分泌・免疫の関連について研究をしている免疫学の教授が久留米大学にいることを知り、その教授のところに国内留学に行きました。
そこではいち早く香りの研究をしていました。

図:精神

-そこで香りの研究に出会われたのですね。ところで、神経・内分泌・免疫の関連と香りはどういう関係があるのですか?

小森 久留米大学では主に神経・内分泌・免疫の関連という視点から、ストレスと免疫の関係の研究をしていました。神経・内分泌・免疫の三つがバランスを保っていて、バランスが崩れると不健康になり、その上に精神があり下の土台が崩れると精神も不安定になると考えています。そこで、内分泌と免疫は、脳の視床下部というところがコントロールしていて、鼻からにおいを嗅ぐと直接そこへ情報がいくので、鼻からの刺激をうまく使えば視床下部の機能を調節できるのではと考え、神経・内分泌・免疫のバランスを香りでよくしたら精神によい効果があるかもしれないと考え、香りの研究をしました。

‐香りの研究とは具体的にどのような研究をされていたのですか?

小森 香りを使った治療ができたらと思っていたのですが、根拠がはっきりしないものは使えないので、動物実験を行い、香りによる抗ストレス作用、抗うつ作用、抗不安作用などの根拠となるような証拠を発見しました。
動物実験の結果を得て、うつ病の患者さんや、不眠症の患者さんでも香りの効果を確かめました。健康な人に計算させるなどのストレスを与えて、ある香りを嗅がせると回復するということも解りました。
結果がでるので、香りの研究はおもしろかったですよ。

-そうなんですね!アロマテラピーなどで、この香りはこういうことに効く、などとよく聞いたりしますが、実際に効能があるのですね。

小森 アロマテラピーはイギリスでは民間療法として、フランスでは医療行為として、どちらも経験と伝承により治療につかわれていますが、実は科学的な根拠はないんです。
いいらしい、というだけで根拠のないものは、やはり大学病院の医療には持ち込めないですし、根拠のないものは発展性もないので、根拠作りから始めました。
学術論文で発表した当時の1995年は、アロマブームがじわじわきてはいましたが、科学的な根拠を研究する人はほとんどいませんでした。
論文や学会で発表した後は、研究内容がTV、新聞に取り上げられ全国から問い合わせが殺到しました。ですが、その記事をみて「香りを使った治療でどんなうつ病も治る」と誤解される方も多く、治療につかえる可能性があるという事を伝えたかったのですが、例外もあるという事、同時にカウンセリングも必要な事などが伝わらなかった、という事がありました。

-画期的な研究だったために、メディアの伝え方によって誤解をしてしまった方がたくさんいたのですね。

小森 そうですね。例えば、柑橘系の香りは抗うつ作用がありますが、不安やイライラを抑える効果は全くありません。純粋に落ち込んでいる人にしか効きません。香りはあくまでも治療を補うための、治療の選択肢をふやすためのものと考えています。

香りの研究について、初めはうつ病の新しい治療法がないかという、ある種のロマンのような感じで、ある程度は実現しましたが、やはり普通の薬を使った治療には劣ります。
香りの効能は穏やかなもので、たとえば不眠症の人への効果は、自然な形で自然な睡眠へ持っていくということで、香りを嗅いだとたんに眠る、ということは不可能です。なので、病気の人への治療手段として第一に持ってくることは難しいと思いました。

そこで、病気でない人の健康の維持や、看護の現場での日頃のケアの中に活かすことを考えました。

‐看護師さんが香りを使ったケアをするのですね。どのようにされているのですか?

小森 患者さんへアロマオイルを使ったハンドマッサージをしています。
他にも香りの研究の応用として、いくつかの企業と、香りのついた看護師用のストッキングなどを共同開発しています。

うつ病の治療としては、香りはおだやかな作用で劇的に効くものではないので、香りをひとつのツールとしてカウンセリングなどを通して、ものの考え方などを変えていってもらうような感じです。
薬は即効性はありますが、なにも反省したり、考え方を変えることをしないで薬だけで治してしまうとまた再発してしまう人もいます。時間がかかっても香りやカウンセリングを通してやんわりと治していく治療が合っている人もいます。

うつ病中心の治療手段として香りの研究をしてきましたが、やはりものの考え方などの話しになってくるんです。

そうなると、忍者の精神性が応用として使える、と思っています。

‐忍者ですか!? そういえば香りについての本を出版されたのと同時期に『忍者「負けない心」の秘密』という本を出版されていましたね。全く違った内容の本を同時期に出版されていたので、実は不思議に思っていました。

写真:御香

小森 私の中では、香りと忍者については繋がっていて、2冊の本は対になっているようなものなんです。

最近たまたま忍者の研究に関わることになったのですが、見つけた!と言う感じで、とてもおもしろく、今は主に忍者の研究をしています。

忍者の仕事は、情報を集めて持ち帰ることなので途中で死んではいけません。忍者は深い精神性を持っており、様々なテクニックを持っているので生き抜くことができるのです。実際に印や呼吸法の効果を脳波などで実証しました。

忍者が取り入れていた「放下着(ほうげちゃく)」という禅の考え方で、生き抜くためにあらゆるものをこだわらずに捨てる、というものがあります。これは現代にも応用できる考え方です。ときには逃げる、かわす、というのもとても大切なことです。

‐『忍者「負けない心」の秘密』がビジネス書としても人気なのは、現代にも応用できる知恵がたくさんあるからなんですね。ところで、香りと忍者の繋がりとはどういうことなのでしょうか?

小森 わかりにくいかもしれませんが、癒されるという事を考えた時に、二つは同じことなんです。

香りを使って症状が緩和され、少しいい状態になって、ゆっくり物事を考えて立ち直る、克服していく。香りをツールとしてつかって、その患者さんのものの考え方や、より深い精神性を引き出します。めざしているものは、実は忍者がもっている精神性なのです。

香りについては、看護で活かすのは現実的な方法ですが、より深いところ(精神)へ人をいざなうような魅力があります。そういう方向で使えたらいいな、とは思っています。

忍者については、極度のストレスのなかでもつぶれない心や、不安を克服する術、生き抜く術、などを応用してお伝えしています。
こういったことを、一般の人が使えるように、一人でも多くの人が救われるようにと思い、『忍者「負けない心』の秘密」を書きました。こんな考え方もあるんだよって一人でも多くの人にお伝えしたいと思っています。

‐ありがとうございました!
最後に、先生の研究室で、本格的な御香、ミニ枯山水、ミニししおどしなどを見せていただきました。お寺好きの先生の癒しグッズだそうです。

写真:ミニ枯山水
写真:ミニ枯山水

研究者情報


写真:小森先生

医学系研究科

教授 小森 照久(Teruhisa,Komori)

専門分野:広域看護学領域 ストレス健康科学

【参考】

医学系研究科HP http://www.medic.mie-u.ac.jp/event/opensemi.php

教員紹介 http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1819.html