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異常気象研究は人類を救う

2023.2. 3

インタビュアー:みえみえ学生広報室の学生

今回は生物資源学研究科 共生環境学専攻 地球環境学講座 気象・気候ダイナミクス研究室の立花義裕(たちばな よしひろ)教授にインタビュー取材を行いました。今回のインタビュアーは、人文学部2年の裏川朱音さんです。(インタビュー日時:2022年8月)

立花先生

-はじめに、先生の専門分野、研究テーマについて教えてください。

立花専門分野は異常気象です。普通ではない気象がなぜ生じるのか。昔と比較して最近はよく生じるが、なぜなのか。それを多方面から研究しています。

-研究をしていく中で、面白いと感じるのはどのような時ですか。

立花そもそも、異常気象そのものが面白いです。なぜなら、普通ではない状態だからです。地球の中緯度の気候には四季がありますよね。太陽と地球の距離がある一定の距離にあって、地球の地軸が傾いているため、夏と冬で太陽の当たり具合が変わることにより生じるのです。同じ太陽のパワーを受けているのだから同じ四季が毎年来るはずだが、年によって全然違う気象現象が起きます。また、日によっても全然違うことが起きます。異常にならないように太陽が地球にエネルギーを与えていても、とても暑い夏が来たり、とても寒い冬が来たりするわけです。だから異常気象が好きなのです。気象以外にも面白いことはたくさんありますが、その中でも気象は上位レベルに面白いと思っています。毎日関わる自然現象ですからね。

異常気象についての研究は、役に立ちますよね。また、大学の研究は面白いことが大事なのです。そして、100年後でも1000年後でもそれがたまたま役に立てばいいと思っています。もし、あらかじめ異常気象のことがわかっていたらあらかじめ対策すれば良いのです。あるいは、地球温暖化が原因で異常気象になることが確実にわかっているのなら、温暖化にならないように全勢力をつぎそそげば良いのです。

-実際、地球温暖化と異常気象はどれほど関係があると現時点でわかっているのですか。

異常気象について説明する立花先生

立花わかっているようでわかっていません。50年前に、地球温暖化になると熱くなるというのは理論的にはわかっています。しかし、それは地球全体のことです。ある地域の特定の異常な気象状況が、地球温暖化と関係があるかどうかというのは難しいです。

なぜなら、地球が温暖化する前にも異常気象があったからです。人間による活動が関係なくとも自然現象で気象の気まぐれによって異常気象が起こるのです。そして、今年の夏に起こった異常気象は気まぐれの度合いと温暖化の度合いがそれぞれどのくらいの割合なのかを切り分けるのは極めて難しいです。ほとんどの異常気象に温暖化がある程度関わっていることまではわかっているのですが、何パーセントなのかまではわかっていないのが現状です。

難しいのですが、我々の研究で切り分けて、異常気象のある程度の原因は温暖化だとはっきりさせ、世の中の動きを変えることが大事だと思っています。温暖化は大きな問題ではないと思っている方や、興味のない方もいらっしゃるので、多くの方に興味を持ってもらうためにはしっかりと研究しなければならないと思います。ただ、研究するだけではダメで、知ってもらう必要もあります。だから、今回のような研究の内容を広めていただける機会というのは非常に嬉しく思います。

-伝えていくのも大切だとおっしゃられていましたが...。

立花はい。やはり、なるべく知ってもらいたいので、報道機関からの依頼があった際は応えています。昔は、科学的に微妙なところはあまり話してはいけないと思っていましたが、知り合いの方に「どんどん話したほうがいいのではないか。」と勧められ、考えを変えました。

-研究のきっかけについて教えてください。

立花気象が好きになったきっかけは引っ越しです。親の影響で何度も引っ越しをしたのですが、同じ日本であるにも関わらず、住む場所によって気候がかなり違い、それが興味深かったです。そして、気象に興味を持ったまま大学に入り、大学2年生の夏に気象も含まれている「地球物理学」という分野を選択しました。

研究者になったきっかけは、研究していく中で、自分に発想力があると気づいたことです。人が思いつかないような仮説を思いつく力があるなと感じました。この力は研究者にとって大事なことなので、自分に向いていると思い、研究者になりました。

-研究してきた中で特に印象に残っていることについて教えてください。

パプアニューギニアでの出来事について話す立花先生

立花どの研究も面白いのでその瞬間は盛り上がるのですが、研究室で盛り上がった記憶よりはどこかに行った記憶の方が印象に残っています。特に印象に残っている出来事は2つあります。

1つ目は、大学院生のとき、パプアニューギニアに1ヶ月半、研究で行ったことです。ここは熱帯で赤道の線が通っている場所です。赤道地帯の気象は未解明なので、調査に行くようにと教授に言われました。当時は気象衛星がなかったので、実際に行ってみないとわかりませんでした。文化人類学は研究対象ではありませんが、ずっといるとわかってくる人々の暮らしが面白かったです。熱帯はとても豊かだと感じました。熱帯雨林地方で雨がたくさん降るので植物がたくさん生えており、海には魚がたくさんいるからです。見たことのない動物もたくさんいました。そして、当時は貨幣経済ではなくて物々交換で、かなり驚きました。私にとってこれが初めての海外だったのですが、この経験で怖いものはないなと人生観が座りました。もちろん気象現象も面白かったですよ。みなさん、ぜひ行ってみてください。

2つ目は、研究者になってから一人でロシアに行ったことです。シベリアのアムール川はオホーツク海に流れています。その川が淡水なので、オホーツク海は凍らないのではないかと考えたのです。川の流量が大事という説が当時ありましたが、データはなく、だれも流量を知りませんでした。そこで、本当かどうか調べたかったので、観測船で仲良くなったロシア人の研究者とウラジオストクという場所に行きました。そして、シベリアの奥地であるハバロフスクに行き、そこの気象台の方にデータを貰いました。ハバロフスクはアムール川の中域なのですが、下流のデータもほしかったので、ロシア人の研究者とアムール川の下流まで行き、下流付近のデータももらいました。この経験は、探検のようで楽しかったです。

パプアニューギニアでの経験のおかげで、怖いものがなくなり、このような経験ができました。ちなみに仮説については間違っていました。川の流量が多い淡水(塩分濃度の低い水)の都市ほど流氷が少ないのです。普通は多いと思いますが、普通じゃないから面白いですよね。

-最近注目している出来事について教えてください。

気象の面白さについて語る立花先生

立花猛暑です。最近は猛暑に加えて豪雨も多いのですが、これらには関係があると思っていて、それを学生と研究しています。また、温暖化にも関わらず、最近の冬は寒いじゃないですか。それについても注目しています。雨の源は日本周辺の海から来るので、豪雨の原因は海にあると考えています。そこで今年、生物資源学研究科附属練習船「勢水丸」に乗って、日本周辺で1番水温の高い東シナ海(九州)に行って、どれほど蒸発しているのかを調べました。実際、海の温度は、人工衛星で見るよりも、暖かいところはより暖かく、冷たいところはより冷たかったです。特に黒潮は人工衛星での数値よりもかなり暖かかったです。よって、多くの量の水が蒸発して豪雨が降るというわけです。現地調査は大事ですね。

-どのくらい先の天気までわかりますか。

立花日本では、予測については大学の研究よりも気象庁のほうが進んでいます。今の最新の気象予報技術を駆使すると三日後ぐらいまでわかります。昔の明日(次の日)の天気の的中率が今の3日後ぐらいの的中率です。特に台風は当たりますよ。私は、当たるところを研究しても仕方ないので、1年後や、今年の冬などについて研究しています。

-今年の冬は寒くなりますか。

立花今年の冬は寒くなります。地球温暖化が進むと、寒い冬が増えるか暖冬が増えるかのどちらかになり、極端な冬になりやすいですが、基本は寒い冬が増えます。日本では、基本は寒い冬が来ます。温暖化で北極の氷が溶けると偏西風がおかしなことになって寒くなるのです。日本は寒くなりますが、他の地域では暖冬が来ます。寒い冬が来る地域と暖冬が来る地域が隣り合わせになっています。

-来年の夏はどうなるのでしょうか。

立花暑くなると考えています。最近は偏西風がおかしな動きをしているので、それに伴い暑い夏になる可能性があります。また、温暖化で日本周辺の海面水温が高くなっています。偏西風が蛇行しなくとも、海からの風で暑いのです。この2つの原因が他の原因より大きく影響しているので、暑い夏になると予想しています。暑いのが嫌なら地球温暖化を防ぐしかないですね。

温暖化に興味のない方もいらっしゃるので、面白い気象を紹介する番組が増えたら興味を持ってもらえると思っています。地球温暖化が危ないという話は面白くないですよね。世の中を動かすのは「面白い」ということだと思います。

-どのような高校生に入学してほしいですか。

立花反骨精神のある人に入学してほしいです。このような人が世の中を変えてくれると思っています。

-最後に今後の目標や予定を教えてください。

立花研究に邁進します。私には人の上に立つような能力はないですが、研究する能力はあると思っています。しっかり研究してその成果を発信したいですね。研究せずに発信しても仕方ないですからね。学生の皆さんはぜひ、良い研究をしている先生の授業を受けてください。良い研究をしている先生の授業は難しいかもしれませんが、その分奥が深いのです。


今回のインタビューの様子をYouTubeで公開しております。
こちらからご覧ください。


研究者情報


立花先生

生物資源学研究科 共生環境学専攻 地球環境学講座 気象・気候ダイナミクス研究室

教授 立花 義裕(TACHIBANA,Yoshihiro)

専門分野:気象学・気候力学

現在の研究課題:異常気象

【参考】

生物資源学部HP https://www.bio.mie-u.ac.jp/

教員紹介ページ(立花 義裕) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/2504.html

生物資源学研究科 気象・気候ダイナミクス研究室(立花研究室)HP https://atm.bio.mie-u.ac.jp/