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種苗放流にとらわれない魚類の増殖 -魚を知って、魚を増やす-

2022.10.20

インタビュアー:インターンシップの学生

今回は生物資源学研究科 生物圏生命科学専攻の淀太我(よど たいが)准教授にインタビュー取材を行いました。今回のインタビュアーは、人文学部3年の丸本雄大さんです。

淀先生

-先生の専門分野・研究テーマを教えてください。

淡水魚を中心とした魚類の生態、生活史について研究しています。生き物が生まれてから死ぬまでどういう風に暮らしているのか、例えば、何を食べているのか、何年くらい生きるのか、一年にどのくらい成長するのか、一年のうちにいつ、どのようにして繁殖し子どもを残すのかを生活史といいます。また、もともとそこにおらず、人間の手で連れてこられてしまった外来魚の生態を研究しその結果から被害を抑え、駆除に役立てることも私の研究の大きなテーマの一つです。

-研究をしていく中で面白いと感じるのはどのような時ですか。

インタビューの様子

研究を進め、論文を書き、学会で発表をします。それが後になって別の人の論文などに引用されていると嬉しく感じます。また、研究を始める時にはこれまでの論文や、自分がフィールドで感じたことや経験したことをもとに仮説を立てます。自分がこうじゃないかなと思っていた仮説がその通りであれば嬉しいですし、逆に仮説通りではなかった時に、全然違う世界があることを知ることができ、わくわくします。

-先生が魚類増殖学に興味を持ったきっかけは何ですか。

インタビューの様子

ひょっとすると拍子抜けかもしれませんが、わたしが魚類増殖学に興味を持ったきっかけは、この三重大学魚類増殖学研究室に教員として採用されたからです。私は1970年に生まれたのですが、小さい頃から魚を見たり、釣ったり、捕まえたり、飼ったりするのが好きで、三重大学生物資源学部に入学しました。それから魚の勉強を始め、この道に進むことになりました。最初は単に魚が好きで、魚のことが知れればそれでいいと思っていましたが、卒業研究をすることになり、当時から問題となっていたオオクチバスという外来魚の食性についてしっかりとした調査がされていなかったため、それを調べようということになりました。オオクチバスの生活史について研究を進め、博士号を取りました。釣って楽しい、食べておいしいという理由でアメリカから持ち込まれたオオクチバスですが、今では食べられることはあまりなく、いろいろな川や湖などに放され、問題となっています。人間がダムを造ることや埋め立てなどではなく、外来種を放すことで生態系に影響を与えるという視点を持つようになりました。オオクチバスを放流することで釣りを楽しむ人や、釣り具を売る人などは利益を得るかもしれませんが、漁師さんや、そこに住む在来種の魚にとってはとても不利益な話です。

博士号を取った後、中央水産研究所というもともとは水産庁の研究所だった独立行政法人でポストドクターとしてコクチバスという外来魚の研究をしました。この頃には単に魚のことを知りたいという理由から、それが社会に影響を与えているということに視野が広がり、社会の中での魚の位置づけのようなものに興味を持つようになっていました。

淀先生 自分年表

そして、三重大学生物資源学部魚類増殖学研究室に採用され、魚類の増殖についてそこで改めて調べることになりました。水産の世界での増殖の定義は水槽の中で魚を増やすことではなく、実際に川や海で生きる魚を増やすことを指します。この増殖を日本では稚魚を放流するという方法で行ってきました。この方法では、魚を増やすために捕ってきた、あるいは養殖で育てた親魚に卵を産んでもらい、自然界では多産多死である魚の卵や仔稚魚を人間の手で死なさず育てることで少ない親から産まれたたくさんの子供を放流します。これが種苗放流という増殖方法です。どうすれば親の魚からうまく受精卵を得ることができるのか、稚魚をうまく育てることができるかといったことについて日本では世界有数の研究がなされてきました。

ただ、問題もあります。今、日本でも世界でも魚が減っているのですが、それには大きく3つの要因があります。1つ目は魚の乱獲問題、2つ目は産卵場所や生息環境が悪くなっているという問題、3つ目は外来種が在来種を食べてしまう、競合を起こしてしまう問題です。乱獲問題は、漁獲量を調整する、環境問題はその生物の住めなくなっている環境を住める環境にする、外来種については、その生物の駆除などをしなければなりません。種苗放流という方法では、魚の減少要因によっては効果を見せない場合があります。乱獲による減少に対しては効果があるかもしれませんが、環境が悪い場所に放流しても死んでしまうし、外来種のせいで減っている場所に放流しても食べられたり競争に負けてしまうといったことが起こります。放流をした時点では確実に魚が増えるというメリットはあるため、TPO次第で種苗放流の効果はそれぞれです。種苗放流はいろいろな問題を抱えているのですが、1つは稚魚を放流する時に病気を持った稚魚がいるとその病気を天然の川や海に広げてしまい、薬などを与えていない天然の魚たちが死んでしまうということ。2つ目は遺伝的多様性がかく乱されたり減ったりします。別の地域の魚を放流すると別の地域の遺伝子が入り込みますし、少ない親からたくさんの稚魚を放すとほとんど同じ遺伝子を持つ魚ばかりになってしまいます。そして、放流される魚の種類は限られているため、ある特定の種類の魚だけが増えることになってしまいます。種苗放流でそもそも外来種が放流されてしまうケースもあります。ニジマスは日本全国で外来種ですし、ワカサギ、やヘラブナなどもほとんどの放流先では外来種です。

三重大学魚類増殖学研究室に入り、いろいろと問題のある増殖や種苗放流について研究することは社会に役立つことなのかと、少し悩みを抱きました。しかし、改めて増殖という分野について考えると、今日本では増殖といえば放流となっているが、絶対にそれでなければならない理由はなく、なぜ魚が減っているのかについて調査し、その要因を解決することで、増殖に繋げればよいのだと思いつきました。そして、自分が魚類増殖学を研究し、それが魚を増やすことに繋がると自信を持って言えるようになりました。

-学生と一緒に研究する上で意識していることはありますか。

淀先生

学生と一緒に研究する中で一番意識していることは学生さんに自分で考えてもらうことです。学生さんには卒業研究や修士研究をやってもらいますが、こちらからこの研究をしなさいというのではなく、学生がどんな研究をしたいかを自分で考えてもらっています。そこから自主性や積極性を養ってもらいたいと考えています。そもそも先生に言われてやる研究をするより、自分のしたい研究をした方が楽しいと考えています。私の学生時代もそうやって研究をさせてもらったので、自分の指導する学生にもそうやって研究をしてほしいと思っています。

-先生が学生に大学で身に着けてほしい力は何ですか。

私が学生に一番身に着けてほしい力は論理的思考力です。ある物事を根拠や理由をもとに答えを導き出す力で、なんとなく、かっこいいから、感情的にというのではなく、理由と筋道をたてて結論を導き出してほしいと思っています。生物資源学部、魚類増殖学研究室の学生さんだからというのではなく、あらゆる大学の学生さんにとって大学で身に着けるべき一番大事な力だと思っています。多くの学生さんは、魚類増殖学研究室を卒業したからといって、魚類の増殖に関わる仕事をするわけではないと思いますが,どんな仕事に就こうと、論理的に考えて自分がやるべきことを判断していく力は絶対に役立つと思います。

-三重大学生物資源学部の魅力を教えていただけますか。

インタビューの様子

オープンキャンパスなどで高校生などを対象に説明する時は、農学と水産学のほとんどすべての分野をカバーしていて網羅的、包括的に学べるといいますが、私にとってはまさにそれが魅力で、多種多様な専門分野の先生が在籍していて、自分の苦手分野であっても生物資源学部の誰かに聞けば分かる、そこがすごく魅力的だと思います。例えばオオクチバスの研究をしていて、魚だけでなく昆虫も食べるとなった時に昆虫の専門の先生がいたり、田んぼの水路を作る研究をされている先生に土木の研究が聞けたりするのです。いざ学生さんにとってみると、学科に所属しているため、学科以外の専門的な授業をとることはあまりないと思いますが、別の大学や別の学部の先生に話を聞きに行くよりはずっとハードルが低いため、自分の興味があることについて学部内で専門的な話を聞くことができます。専門性がすごく多様で農学水産学のほぼすべてをカバーできている点で魅力的だと思います。また、農場や演習林、水産実験所、練習船といった実際のフィールドの施設をこれだけそろえている大学はほかにないため、とても魅力的だと感じます。

-研究をしていてやりがいを感じるのはどんな時ですか。

究極的な目標は、今減っている魚がめちゃくちゃ増えて、生物多様性が豊かになることです。私の研究が一つできたからといってすぐに魚が増えるわけではありません。しかし、今やっている研究が何十年後かの魚の増殖に繋がっていると思っています。また最近国や都道府県などの会議に呼ばれ、意見を求められることが増え、そのなかで自分のしてきた研究を県や国が使って魚を増やそうとしてくれる、自分の研究でいい方向へと変えていける、と実感したときに嬉しく感じます。

-先生が研究者を目指した理由は何ですか。

子どもの頃によく、何になりたいか聞かれると思いますが、今思い出すといつも何かの博士になりたいといっていました。それは昆虫であったり恐竜であったりとその時興味があったもので変わっていたのですが、なにかしらの博士、研究者になりたいと思っていました。魚釣りをするようになって、魚について知りたいと思うようになり、水産系の大学に入りました。その頃には研究者一本ではなく、企業に就職することも考えていました。しかし大学3年生の時バブルが崩壊し、急に就職氷河期を迎えることになりました。また、オオクチバスの食性について研究していたのですが自分が一からやる研究だったため、大学院に行って研究をすることに決めました。不景気が大学院を卒業するまで続くとは思っておらず、研究が面白かったこともあり、博士後期課程に進みました。そのときには、研究者の道を目指すことに決めていました。

-今後の目標や予定を教えてください。

今後の目標としては3つあり、ずっと先にはなると思いますが、究極の目標としては世界中で減っている魚たちに我々が遊んだり食べたりしても困らないぐらいに増えてくれることを目標に研究しています。2つ目はもう少し身近な話で、最近三重県をはじめとしていろいろな川にコクチバスという外来魚が増えています。そんなコクチバスの生態について研究することで効果的に駆除する方法などを開発し、日本の在来種が減らないように漁業者さんなどを助けたいと思っています。3つ目はもっと具体的な目標で、絶滅の恐れのある生き物たちをまとめたレッドデータブックというものがあり、三重県のレッドデータブックが2025年に新しくなるのですが、その作成に一部関わることになったので、これから3年間で今の三重県の淡水魚などの現状を調べ適切なレッドデータブックを作成したいと思っています。

今回のインタビューの様子をYouTubeで公開しております。
こちらからご覧ください。


研究者情報


淀先生

生物資源学研究科 生物圏生命科学専攻

准教授 淀 太我(YODO,Taiga)

専門分野:魚類学、移入生物学、魚類増殖学

現在の研究課題:
外来魚の駆除・管理技術の開発
外来魚の生態解明、影響評価
魚類の生態・生活史の解明
魚類相・生息状況の把握
種苗放流によらない魚類増殖手法の探索

【参考】

生物資源学部HP https://www.bio.mie-u.ac.jp/

教員紹介ページ(淀 太我) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1127.html