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世の中のプラスチック製品を「木」から作り出す

2019.7.16

インタビュアー:広報室

今回は生物資源学研究科 資源循環学専攻の野中 寛(のなか ひろし)教授にインタビュー取材を行いました。

野中先生の写真

-先生の専門分野を教えてください。

野中森林資源環境学講座(学部は森林資源環境学教育コース)の木質分子素材制御学研究室で、木材繊維、木材成分の利用の研究を行っています。現在、木材は何に使われているかというと木の柱や紙の原料、合板などです。木材の多くがこういったものに使われており、木材の付加価値があまり高くないので、木材がなかなか売れなくて林業の方々は困っています。私たちの研究室では、木材から有用成分を取り出し、通常あまり価値のない木粉に高付加価値をつけることができれば、問題解決の助けになるのではないかと考えて研究を行っています。特に私は、木材から抽出した一部の成分を使用するのではなく、すべての成分を使うということを重視しています。

木材の成分を細かく分け、変換や加工を繰り返して、最後にプラスチックのようなものを作る研究をしていたところ(重要な研究ですので今も行っています)、木粉をそのまま固めてプラスチックのようなものを作れば同じではないかと考えました。世の中にある複雑な形状のプラスチック製品を木や紙で代替しようとすると、作り方の革命を起こさなければいけません。石油由来のプラスチックと同じような作り方で、木や紙が原料の製品を大量生産できるような素材を作りたいと思い、プラスチックの代替品となるものを木や紙から作る研究をはじめました。

-昨年ウッドデザイン賞を受賞されたウッドストローとはどのようなストローですか?

ウッドストロー
 

野中木粉と増粘剤(木材由来)と水を混ぜてできる粘土状のものをストローの形に成形したものです。「粘土状のもの」というのは、成分はちがいますがイメージは紙粘土のようなものです。木粉の他に、コーヒーカスや竹の粉などを使用しても同様のものができます。私が作っている木粉粘土は型に入れ圧力をかけた際にきちっと角まで形成される柔らかさと、粘土を押し出した際にところてんのように形がキープされる堅さの両方を兼ね備えている点がポイントです。この木粉粘土が乾くと完全に形が形成されます。形が完全に形成されたものは、水にしばらく浸せば形が崩れてくるので、また別の形に成形することができます。これは究極のリサイクル材料といえます。万が一、このウッドストローが海へ流れてしまったとしても、すぐに木粉へと解体され、いずれは微生物の働きで朽ちて、二酸化炭素と水に変換されます。しかし使用目的がストローなので、ある程度水に耐える耐水性が必要です。今すぐにでも耐水性のある石油由来のニスを塗れば、ストローとして使用することはできますが、私はすべてのものを自然由来のもので作りたいと考えています。石油由来のニスを使わずに、例えば、リグニン(木材の約3割を占める成分)、漆やひまわり油などの自然由来のもので耐水性をつけたいと考えています。その他の工夫で耐水性をつける研究を行っていますが、まだ明かせません。

-耐水性がつくと完全に分解されなくなるのでしょうか?

野中使用上、水に耐えるということは環境中に出たときも分解されにくくなります。しかし、紙は表面がツルツルで水が染み込まない加工がされたものであっても、水につけてミキサーなどで撹拌(かくはん)すれば、紙の繊維がとけて解体されます。紙はリサイクル観点から見て、とてもリサイクル度が高いものと言えます。同じようにウッドストローも、ある程度耐水性をつけたとしても、波の揺れや岩にぶつかるなどすれば解体されるでしょうね。ただ海の中でぷかぷか浮いているだけではなかなか分解されないと思います。

「紙袋」

-ウッドストローを研究開発するに至った経緯を教えてください。

野中きっかけは、紙袋を主に取り扱うパッケージメーカーのザ・パック株式会社さんから、共同研究のお話をいただいたのが始まりです。紙袋の部品すべてを「紙」で作りたいというザ・パックさんの思いから、紙袋の持ち手をプラスチックではなく、木や紙の素材で開発するというのが共同研究の始まりでした。すでに紙紐などもありますが、百貨店などでも利用できるような高級感のある持ち手を木粉粘土で作りました。

木粉粘土

木粉粘土はいろいろな形に形成することができるので、販路を広げるために、容器やボトルなども作っていただきました。そんな中で、プラスチックストローの廃棄問題が世の中で注目され始め、三重大学にて押出成形によりウッドストローを開発しました。ウッドデザイン賞受賞などでウッドストローが注目されたことによって、木粉粘土の可能性をアピールすることができたと思います。

-今後の目標を教えてください。

野中世の中にあるすべてのプラスチック製品を紙や木で作り換えたいと思っています。プラスチックなどの原料となる石油がいつ使用できなくなるかわかりません。単純なものから、複雑な形状のものまで紙や木で形成し、使用できるようにしたいと思います。海で解体されるからといって、ポイ捨てしていいというわけではありません。木材もまた貴重な資源ですから、回収して、再資源化することが重要です。

研究者情報


野中先生の写真

【研究者情報】

生物資源学研究科 資源循環学専攻

教授 野中 寛(Nonaka Hiroshi)

専門分野:バイオマス科学、林産化学、化学工学

現在の研究課題:木質系バイオマス資源の成分分離プロセス開発
        新規リグニンの開発
        バイオマス粉末・繊維の三次元成形
        ナノファイバー化木材の利活用
        陶磁器素材や鉄鋼スラグへのセルロース素材の添加
        木材の半炭化、炭化による機能化

【参考】

生物資源学部HP  https://www.bio.mie-u.ac.jp/

研究室HP  https://www.bio.mie-u.ac.jp/kankyo/shinrin/lab5/index.html

教員紹介ページ(野中 寛) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1143.html