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経済学で社会構造の設計図を描く

2015.6. 1

インタビュアー:広報室

人文学部法律経済学科現代経済コース企業経営履修プログラムの深井 英喜(ふかい ひでき)准教授にインタビュー取材を行いました。

写真:深井先生

-先生、こんにちは。はじめに先生の研究テーマを教えてください。

深井経済学の視点から「福祉国家論」や「所得分配論」の研究をしていて、そこから貧困問題や社会的排除問題などについて考えています。

-具体的にはどういったことを研究しているのでしょうか?

深井最近は社会的排除指標の研究をしています。「貧困」というと一般的には経済的に苦しい状況を思い浮かべますが、そのほかにも十分な教育や社会生活の機会を与えられないような状態を「貧困」とする考え方が発展してきています。そういう状態にある人たちが地域にどのくらい存在しているのか、どのような環境下で貧困が発生しているのか、またそういった調査・分析にもとづいて社会福祉をどのように計画すれば地域がより良くなるのかについて研究しています。

インタビュー風景

-調査・分析はどのように行うのですか?

深井色々な手法がありますが、私の研究でいうと平成23年度から、志摩市の地域福祉アドバイザーとして、市全体の約半数の世帯に対して生活状況や家族関係に関するアンケート調査を行いました。地域によっては同一の質問内容ではカバーできない場合もあるので、実際に現地に入り込みフィールドワークを行うこともあります。そうして集められたデータを統計学の手法を使って整理・分析します。手法としては多変量解析のさまざまな手法を使います。私のやっている調査のお手本としては、ノーベル経済学者のアマルティア・ セン(インド人の経済学者)のケイパビリティ理論を基礎に開発され、国連などでも使われている調査などが有名ですね。

-今回の調査からはどのようなことがわかってきたのでしょうか?

深井たとえば、ある集落で調査を行った時の話です。古い集落ですから近隣住民同士の関係性が強固であると予想していたところ、アンケートの「困ったときに誰を頼るか」といった質問に対して「近所の人を頼る」という回答が極端に少ない。不思議に思ったので、さらに突っ込んで調査を行うと、その集落では近隣住民や自治会が社会的ネットワークの核ではなく、小学校時代の同窓会が核であったことが分かりました。既成概念で地域をひとくくりにせず、その地域にあった調査をすることでその地域の「特色」 が見えてくるわけです。

インタビュー風景

-地域の特色がわかるとどういったことに役立てられるのですか?

深井三重県内でも特に南勢地域は高齢化が進み、独居世帯や空き家の増加、若年層の人口流出が問題となっています。高齢化率が60%を越えている集落もあります。離島も多いので食糧品が届かない、ゴミ袋すら買えない、訪問販売も十分でない、といった生活レベルの低下、つまり上で述べた「貧困」状態にまさに直面しています。今回の志摩市での調査・分析は『志摩市第二次地域福祉計画・地域福祉活動計画』(平成23年度~平成28年度)を実施するなかで反映されました。どの市町も限られた財源でどうしたらよいのかを悩んでいます。ベストな方法でやりくりするために地域の特色を知ることが、大前提になります。

-今後の研究の発展は?

深井現在は、医学部と共同して熊野市や津市の一部で調査をしたりすることもあります。また志摩市では、医学部・生物資源学部とも協力しています。医療は社会福祉にとって欠かせない要素ですし、本学の生物資源学部は志摩市の里海事業で地域経済に関する研究を展開しています。今後の展開としては、三重県唯一の総合大学として三重県内の全市町に共通した調査を実施し、比較分析することで地域の特色を探っていきたいですね。

-そんな先生の研究室では、学生たちはどのようなことが学べるのでしょう?

深井経済原論の研究室ですから学生たちはまず経済の基本理論を学びます。そこから各々が興味のある研究テーマ(社会保障や所得分配、雇用のあり方など)を設定し、学んだ理論を生かして答えを探し出していく感じですね。僕のゼミは学生たちに言わせると結構厳しいらしいですが(笑)、その分、皆しっかりした考え方を身に付けて卒業していっていると感じています。社会構造の分析に興味のある人は是非、講義を受けてみてください。

-最後に、「経済学」とはズバリどういう学問と位置付けられるとお考えでしょうか?またその役割を教えてください。

深井そうですね・・・。社会を私たちの生活を創る"機械"と考えると、法律学はその「取扱説明書」を考える学問であり、経済学はいうなれば「設計図」を考えるようなものです。取扱説明書は社会変化に合わせて修正していく必要がありますが、設計図があればそれにのっとって問題の解決の方向性を考えることができるでしょう。正しい設計図が出来てはじめて、社会をより良くする方法が模索できるわけです。地産品のブランド化や企業誘致等、地域を元気にする画期的なアイデアはたくさんありますが、まずは丁寧にその地域構造を理解してからこのようなアイデアを取り入れないと、結局財源の無駄遣いに終わる危険もあります。地域にあった働きかけをすることが重要です。このあたりに経済学の役割があるのでしょう。

写真:深井先生、研究室にて
写真:研究室のコーヒー、ミル、フィルター

-先生の研究室を訪れたら何か特典はありますか?

深井実家が喫茶店なのでコーヒーが好きです。美味しいコーヒーを御馳走しますよ(笑)。

-ありがとうございました。経済学の観点から地域づくりに貢献してくれることを期待しています。今後も頑張ってください!


【参考】
人文学部HP https://www.human.mie-u.ac.jp/
教員紹介ページ(深井英喜)http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1041.html