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消化器病疾患の病態解明を目指して 〜海外研究や育児から得る自己進化〜

2023.8. 2

インタビュアー:みえみえ学生広報室の学生

今回は医学部附属病院の江口暁子(えぐち あきこ)先生にインタビュー取材を行いました。今回のインタビュアーは、みえみえ学生広報室員(人文学部3年・辻悠花、教育学部3年・高村佳那)です。(インタビュー日時:2023年7月)

左から辻さん、江口先生、高村さん

-はじめに、先生の専門分野、研究テーマについて教えてください。

江口今は消化器内科を専門としています。また、消化器病の病態解明に加え、臓器相関を研究テーマとしています。
臓器相関とは、臓器間のつながりのことで、例えば肝臓が悪い時に、腎臓が悪くなったり、筋肉が減ったり、脳に炎症が起こったりする場合があげられます。この場合には、肝臓だけを見ていても、他の臓器が救えなくなります。そのため、体全体のことを考える臓器相関の研究は非常に重要だと考えています。

-研究者になった理由と消化器内科を選んだ理由を教えてください。

江口私は大学生の時には工学部でタンパク質の立体構造を解明する等のバイオ研究を行っていました。その後、「自分のやりたいことを頑張りなさい」という大学の先生の言葉を受けて、もともと希望していた医学を学ぶため医学系の大学院に進学し、研究者になりました。
研究者になってからは、遺伝子デリバリーを専門とした後、もっと人の目に見える役に立つことをしたいという自分の思いと世の中の必要とされていることを加味して、専門を消化器内科に変更しました。
私は工学部から医学部へ、遺伝子デリバリーから消化器内科へという「分野の変更」を経験しました。こうした変更の際に大事なのは、大きく方向を変える(「スイッチ」)のではなく、それまでに得た自分の知識を次の分野につなげる(「スライド」)ことです。私の場合は、遺伝子デリバリーで勉強した知識を使って肝臓の病気を治療するという風につなげていきました。また、今研究テーマとしている臓器相関もこの考え方を生かしたものになります。こうした経験から、「スイッチ」ではなく「スライド」という考え方は、柔軟に新しい分野に入っていくための一つの方法になると感じています。

-研究をしていく中で面白いと感じるのはどのような時ですか。

パソコンの画面に映した細胞

江口肉眼では見えない物質の動きを様々な方法で可視化して、どういったことが体の中で起こっているのかを明らかにできるところが研究をしていて面白いです。
例えば、風邪をひく一つにしてもいろんな原因があります。免疫が落ちている時もあればウイルスの力が強すぎる時もある、というように、病気の原因は一つの原因ではなく、複合的な要素がたくさんあります。研究では、例えば100の要素があったとしたら、その中のいくつかの蓋を開けていくことができる、というのが楽しいところだと思います。

-医者を目指している学生に期待していることは何ですか。

江口目の前の患者さんを治すだけでなく、研究にも興味を持ってほしいです。日々の臨床を通じて得られる法則や生じる疑問の裏には、必ずサイエンスがあります。患者さんに接する臨床医だけが感じられる事があり、その感覚を研究に活かすことで、患者さんの手元に届く新薬の開発や新規バイオマーカーの開発が可能になると感じています。ですから、医者を目指している学生さんには、早い時期に研究という視点を身につけてもらい、診療と研究という両面から医療に貢献してもらえることを願っています。
私は基礎研究者でありながら、臨床医局で臨床研究に携わっています。多くの医師の方から臨床での問題点を教えてもらいながら、私の専門である細胞や動物モデルを用いて病態メカニズムの解明を行っています。医者を目指していない学生さんでも、臨床の問題点を勉強しながら研究するという形式が可能だと思いますので、様々な可能性を試して欲しいと思います。

-11年間留学経験や国内外での研究発表をされていますが、日本と他国での研究に関する違いはありますか。

江口日本人は非常に真面目で能力も技術力も海外に負けないほど高いです。
その中で、研究に関しての海外との違いは『チーム力』です。
アメリカは臨床医が研究室を持っており、その下に基礎研究者がたくさんいます。その基礎研究者たちが臨床医が知っている「臨床の不思議」を解明するために取り組むというシステムがあります。また、アメリカでは、自分たちができないことを誰ができるか探し、互いに自分の成果を隠し事なしで見せ合い、この研究を一緒にしてほしいと伝えるという流れで、全く違う分野の専門家とつながり共同研究を始めることができます。非常にオープンで、できることとできないことの白黒がはっきりしているのでスピード感があります。
もう一つは『プレゼンテーション能力』の違いです。日本人のプレゼンテーションは真面目で誠実できっちりしていますが、相手に伝える発信力が少し低いと感じています。プレゼンは、相手に興味を持って聞いてもらえるのが一番です。アメリカ人は人に興味を持たせるプレゼンを行います。研究成果を知って欲しい、みんなの意見を欲しいというベースで、人の目を見て訴えかける自信に満ちあふれたプレゼンをすることで、多くの人を引き付け研究をさらに発展させることを可能にしています。また、プレゼンでは「つなぎ」を大切にすることが重要です。例えば「結果がA・B・Cで、まとめるとこうなります」という発表より、「Aという結果が出ました、Aと関連があると考えた経路を調べると、Bという結果が出ました」と発表すると、AとBのつながりが分かります。プレゼンをする時はこうしたつなぎを意識することで話のストーリーができ、最後まで興味を持って聞いてもらえます。

-女性に活躍の場が広がっていると感じることはありますか。

インタビューの様子

江口はい、あります。
日本は女性の登用率が低く、国や大学も対策を取っており、「女性枠」がたくさん作られています。教授選にしても女性限定応募が出てきて女性の活躍をサポートする場面が増えてきており、素晴らしいことだと感じています。しかし、日本はまだまだ女性を活躍させるために「女性限定」など"女性"という言葉を出さなければなりません。近い未来、「女性」「男性」と言われなくてもみんなが活躍できる状況になればいいなと思っているのですが、それにはやはり女性が家事や育児をしながら働ける環境の整備が必要です。また、自分自身としては、自らの努力も重要だと思っています。「女性限定」で選んでもらった時に、それに甘んじることなく、「女性だから選ばれた」と思われるより、「あの人だから選ばれた」と思ってもらえるように努力することは、私自身の中では非常に大切なことです。
このように、女性でも活躍していけることや、"女性だから"ではなくしっかりと仕事ができる人であると世の中の人が思ってくれれば、活躍してみたいと思う女性も増えるでしょうし、また、女性男性あまり関係なく女性を登用しても大丈夫であるという流れになってくると思います。

-私も先生のように将来仕事もしながら子育てもしたいと思いますが、両立できるか不安です。

江口確かに私も子どもを持つまでは両立について不安に思っていました。ですが、子どもが生まれて、限られた時間の中でするべきことに優先順位を付け、効率よく行動できるようになりました。子どもは授かりものなので、産むのにいい時期を考えてもその通りになりませんし、逆に産んで悪い時期などどこにもありません。今が忙しくて子どもを持つ自分の姿を想像できない方もいらっしゃると思いますが、絶対に両立できるので、新たな自分を見つける良い機会だと捉えポジティブに楽しんで欲しいです。

-子育てに関して予想しない出来事が起きて、思うように予定が進められないこともあると思います。スケジュール管理はどのように行なっていますか。

江口カレンダーには提出するものの期限や実験をする上での1週間で行う大枠を決めていますが、細かい日程は立てていないです。特に子どもが小さい時は子どもが中心になるので予定がずれることも多々あり、大枠で予定を立てて子どもの状態にあわせて仕事をこなしていました。また、子供が寝た後の時間を利用し、家で実験結果をまとめたり、論文を書いたりもしていました。子どもが大きくなり、学校などのルーティーンができてくると、日程が立てやすくなります。優先順位をつけて仕事を行うことで、できなかった仕事を次に回すことができるので、気楽になり、ストレス過多にならず日常生活をおくることができると思います。

-今後の目標や予定はありますか。

江口患者さんに一つでも役に立つことを1番のベースに置きながら、新しいことを見つけていける研究ができれば良いかなと思っています。その時に国内外の多くの人と一緒にチームを作りながら、物事をなし得ていくことを目標にしています。また、携わってくれている次世代の人に研究の楽しさや研究をする意義を感じてもらえるように、マネージメントの方も頑張っていきたいと思います。今後とも家庭・子育てと仕事の両立をしながら、社会に貢献していきたいです。


バイオ研究・・・
生物学に関連する科学的な研究や探求を意味し、バイオテクノロジー等の現代の技術を生かした生物学的なアプローチも含む研究。
例えば、遺伝子を改変して耐病性をもつ植物を作製したり、ワクチンや人工臓器を開発する研究がある。

遺伝子デリバリー・・・
外部から目的の遺伝子を生体内に導入することを意味し、この技術を応用して遺伝子治療やワクチン開発が行われる。


研究者情報


江口先生

医学部附属病院 バイオバンクセンター

准教授 江口 暁子(EGUCHI,Akiko)

専門分野:細胞生物学、分子生物学、肝臓、遺伝子デリバリー

現在の研究課題:
1.消化器病疾患におけるバイオマーカーの開発
2.慢性肝疾患における病態進行メカニズムの解明

【参考】

医学部附属病院HP https://www.hosp.mie-u.ac.jp/

医学系研究科HP https://www.medic.mie-u.ac.jp/

教員紹介ページ(江口 暁子) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/3104.html