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創造は、より良き睡眠。

2023.9. 6

インタビュアー:みえみえ学生広報室の学生

今回は教育学部美術教育講座の岡田 博明(おかだ ひろあき)先生にインタビュー取材を行いました。今回のインタビュアーは、みえみえ学生広報室員(教育学部3年・加藤ひろな、教育学部3年・高村佳那)です。(インタビュー日時:2023年7月)

岡田先生

-はじめに、岡田先生の専門分野・研究テーマを教えてください。

岡田研究テーマは「デザインにおける描画装飾の研究」です。主に続けていることは、日本画の材料を使った描画装飾の研究です。また、経験の無い仕事の依頼が来た時にはその依頼に必要な研究を行っています。以前はホスピタルアートの仕事を行ったのですが、今まで経験したことがなかったので、ホスピタルアートについて研究を行ってから、仕事を進めていきました。そのため、"仕事がくる=新しい研究テーマ"となることもあります。

-研究をしていく中で面白いと感じるのはどのような時ですか。

岡田描画装飾の研究では、様々なところに取材に行き、インスピレーションを得てから制作をします。取材ではスケッチをしたり、写真を撮ったりしているのですが、取材後すぐに制作するのではなく、2〜3年後に制作しています。そうすることによって、取材の時に"綺麗""すごい"と思ったものでも、2〜3年の間で色々なものが抜け落ちて自分の印象に残ったものだけが残っていくので、それをテーマに制作を始めます。同じモチーフの取材に行っても、行くたびに最後に残るものが違っているので、同じものを見ていてもその時の気分や気候などで一番印象的と思うものが変化するところが面白いと感じます。

-この桜も実際に見に行かれて印象に残ったものを描かれているのですか。

岡田先生と桜の絵

岡田そうですね。これもメインの場所が実際にあるのですが、そのまま描くのではなく、いくつかのイメージを組み合わせた作品になっています。この絵を描く時に印象的だったところは、水面に桜がたくさん散って、文様が出来上がっていくところです。実際に、桜が重みで垂れ下がり、水の中に入ってまた出てくるところがありますが、見たそのまま描いているわけではありません。写実ではありますが、良いと思ったものを組み合わせて、構図を作っていく、というように絵を描いています。


-名刺のデザインのポイントや込められた思いを教えてください。

名刺のデザインが印刷された資料

岡田名刺って、いただいても何年かで職種や肩書きが変わってしまうじゃないですか。そこで、名刺ってなんだろうと思った時に、「自分を誰かにわかりやすく知ってもらうためのもの」だと考えました。デザインをするときはいつもその案件の根底にあるものまで遡って考えます。
そして、教員や医者にとっては、肩書きよりも研究テーマの方が大切になってくるのではないかと考えました。相手に自分の研究テーマなどを知ってもらうことが重要で、それが大学ならではだと思い、従来のように肩書きを一番上ではなく、小さく右下に入れるというデザインに変更しました。(もちろん大学でしか出来ないと思いますが)
また、できるだけシンプルなデザインにしたいと考えて、表には名前、三重大学のマーク、三重大学の理念でもある三翠(空(御空)の翠、海(波)の翠、山(森、樹)の翠)と三重県の成り立ちを表すために3本の折れた線のみで構成しました。
線や裏面に使われている3色は、"青色"が理性的な色なので教員、"緑色"は安心感を与える色なので職員、"黄色"は元気が出る色なので医療関係者に使ってもらいたいと考え、見ただけで色によって職域がわかるようになっています。(補足ですが白は学生を表し、この4色で三重大学が構成されています)

-たくさん意味が込められているのですね。

岡田そうですね。最終的に美しいことはもちろん大切ですが、デザインで一番初めに大切にするべきことは『コンセプトが込められていること』だと思います。ですので、今回はコンセプトを明確にし、それをどう表すかを重要視して名刺を制作しました。

-先生にとって「デザインすること」とは何ですか。

岡田「睡眠」ですね。少し説明が必要になるのですが、僕にとってデザインとは「睡眠」です。なぜ自分が表現するという創作活動を睡眠と捉えているかというと、人間がより良く生きていく上で一番必要なものが睡眠だと思うからです。つまり、デザインとは人がより良く生きていくために必要なものであるし、自分が作品を提供するということも、作品によってより良い生活が送れるようにという願いがこもっていることから、他者により良い睡眠を提供するようなものだと考えています。そのため私は自分の持ち物にもこだわりがあって、自分がより良い睡眠が取れることを考えて、そういったものを手にするようにしています。良い睡眠をとった方が、体に良いでしょう。

-デザインの依頼を受けて、制作するまでのプロセスを教えてください。

インタビューの様子

岡田まず取材から始めます。依頼者の要望に合い、かつ自分で納得のできるものを求めて、あちこちに取材に行ったり、資料を徹底的に調べたりします。その段階で、ある程度イメージの発想が湧いてくるので、今度は出来上がった発想を理論で固めていきます。そこで要望と発想が合っていることを確認したら、次はイメージジャンプを待ちます。発想した段階のアイデアは非常に柔らかいのですが、それを機能的であるかとか理論で固めてしまうと、硬くなって面白くなくなってくるんですよ。なので、そこまでデザインしたものを自分で一旦壊して、その上でもう一度イメージが湧くのを待ちます。このイメージジャンプを待つ時間に、僕は多くの時間を割きますね。自分の構築したものを捨てることを厭わない、そういうプロセスを経ています。

-美術の分野に興味を持ち始めたきっかけはなんですか。

岡田小学生の頃に出会った教育実習の先生がきっかけです。その先生は、子どもが好きだと言ったキャラクターの絵をいとも簡単にスラスラと描いてしまったんですね。それにすごく驚いて、いいなと思ったのが、僕が美術に興味を持つようになったきっかけです。

-今の自分を形作る上でためになったと思うことはありますか。

岡田高校での完全に自然の中での3年間の暮らしは非常に大きかったです。あとは、大学時代に出会った師匠に恵まれたことも良かったです。師匠は僕と同じく、デザイン科であるのに絵を描いていた人です。芸術にはなんの境目もなくて、美術は全部が繋がっているから、デザインじゃないといけない、絵画じゃないといけない、とカテゴライズして自分の表現に制限をかける必要がないことをそこで知ることができました。

-今後の目標や予定を教えてください。

岡田目標は、最終的に自分の納得している作品を描くということです。ですが作品は完成した瞬間に過去のものになり、終わりがないので、死ぬまで絵を描き続けることになると思います。また、今後も展覧会を続けていきたいです。


研究者情報


岡田先生

教育学部 美術教育講座

教授 岡田 博明(OKADA,Hiroaki)

専門分野:コンピューターによるグラフィックデザイン、デザインの基礎的造形研究 
     主として描画装飾

現在の研究課題:デザインの基礎研究、及び日本画材と樹脂画材によるミクストメディア
        技法の研究とそれを活用した描画装飾作品の制作

【参考】

教育学部HP https://www.edu.mie-u.ac.jp/

教員紹介ページ(岡田 博明) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1453.html