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小さな魚、大きな力
-ヒト疾患モデルとしてのゼブラフィッシュ-

2022.12.26

小さな魚、大きな力
-ヒト疾患モデルとしてのゼブラフィッシュ-

地域イノベーション学研究科・特任講師 臧 黎清

臧特任講師の写真

ゼブラフィッシュとは?

ゼブラフィッシュは、インド原産の体長3~5cmほどの小型熱帯魚です。1970年代から実験動物として扱おうと提案されて以来、環境科学・発生学・遺伝学などの分野において幅広く用いられています。近年、医学研究での病態生理研究や創薬開発での利用が急速に拡大しているため世界的に注目されています。

図:ゼブラフィッシュのモデル動物としての主な特長

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ヒト疾患モデル動物としてのゼブラフィッシュ

ヒト疾患モデル動物とは、人間の病気と同様な症状が起こるように作られた実験動物です。私はゼブラフィッシュを用いてヒト疾患モデルを構築して、病因病態解析、創薬や遺伝子治療※2へのアプローチなどを研究しています。これまでに幾つかのモデルの作製が成功しましたが、一番歴史が長いのは、肥満モデルです。

2010年、私たちは人間と同様に体重が増え、血中脂質が上昇、脂肪肝または内臓脂肪の蓄積などの症状を表す肥満モデルゼブラフィッシュを開発しました。肥満患者に対する基本治療方針は運動と食事療法ですが、続けることが困難な場合が多いため、保健機能食品の併用や単独摂取により肥満の予防や治療に繋がる効果が期待されています。ゼブラフィッシュ肥満モデルを用いて、アオサやゆずなど50種類以上の天然物・抽出物の抗肥満効果や作用機序を評価して、抗肥満保健機能食品の開発に科学的根拠に基づいたターゲットを提供しています。

※2:遺伝子の異常により引き起こした細胞の欠陥を修正することで病気を治療する手法

図:肥満モデルゼブラフィッシュ

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他の疾患モデルや応用

私は肥満モデルの他に、2型糖尿病、糖尿病性腎症、骨粗鬆症や創傷治癒などの疾患モデルを用いて研究を行っています。肥満は進行すると糖尿病が発症するリスクが高いと証明されています。私達は肥満の誘導方法を工夫して、高血糖とインスリン抵抗性※3を呈する2型糖尿病モデルの作製を成功しました。その応用の一つ、糖尿病では発現が上昇する遺伝子を見つけ、この遺伝子を人工的に抑制することで糖尿病を改善したため、今後の糖尿病遺伝子治療にターゲットを提供しました。また、ゼブラフィッシュがヒトと同様に、糖尿病がさらに進行すると、糸球体が障害を起こし、蛋白尿を漏れ出す糖尿病性腎症にもなります。只今、このモデルを用いてゲノム編集技術※4により、遺伝子治療ターゲットを探索中です。

※3:膵臓からインスリンは十分な量が作られていても効果を発揮できない状態
※4:ゲノム上で特定の遺伝子を改変する(欠失や挿入)技術

図:ゲノム編集

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.45』(2021年12月発行)から抜粋したものです】