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海女漁から人と社会と自然のつながりを考える

2024.4.25

人文学部・講師 吉村 真衣

吉村講師の写真

「息を止めてする仕事なんて他にない」

2017年から海女漁に関する研究を始め、三重県鳥羽志摩地域を中心に、全国の海女さんに会ってきました。いくつもの印象的な光景や言葉がありましたが、そのうちの1つがこのタイトルです。普段私たちは息をするのが当たり前です。しかし海女さんたちは、労働という重要な場で息を止めるのです。みなさんは海女漁にどんなイメージがありますか?この言葉からは、命をかけて海中で働く誇りや、過去に「きつい仕事」「物珍しい人たち」と扱われた経験など、様々な感情や記憶が込められているように思います。

三重大学のイベントでトークをする海女さん

海女をめぐる社会的な価値づけ

私の専門は社会学です。地域社会で海女漁がどのように成り立っているかを、自然環境や社会経済環境との関わりから研究してきました。テーマの1つが、近年海女漁が「文化遺産」として扱われていることです。地元ではたくさんある漁業の1つという位置づけで、衰退の兆しさえありましたが、博物館や研究者によって「文化的に価値がある」ことが発見され、文化財として保存振興を目指しています。このように、社会において特定の対象に多様な主体が価値づけを行い、関わっていく、そのダイナミクスを解き明かしています。

昭和期の海女さん

自然と人のかかわりを考える

海女さんの話はいつもとても刺激的です。海女さんが捕ろうとするのを察知して身を守るアワビとの戦い、アワビを狙う他の魚との海中での戦いなど。さらに、潜る深さや狙う獲物の種類など、効率よくたくさん捕るための様々な戦略が、海という自然環境と海女さん一人ひとりの身体のつくりとの相互関係から多様に練られています。既に述べた「文化遺産」はいわば陸(オカ)での現象ですが、最近は海女さんの語りに触発されて、海女漁から見えてくる、人と海の豊かな関係性を明らかにしようと挑戦しています。

海女さんが捕ったアワビと海女漁の漁場

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.48』(2023年12月発行)から抜粋したものです】