人文学部・教授 上井 長十

民法とは
民法は財産や家族といった日常生活の根幹に関するルールを定めた法律です。私は学部の講義では、主に取引や物の管理といったような財産に関することを話しています。民法の条文は非常に抽象的で一回読んだだけではその内容を理解することがとても難しいです。日々の日常生活はそれほど単純なものではないわけですが、わずか(?)千条程度にルールを凝縮して「民法典」という法律が成り立っています。条文の数を増やせばわかりやすくなるのではないかと思われるかもしれませんが、そこが難しいところです。抽象的な文言をどのようにルールとして具体化するべきか、―このことを条文解釈といいます―、その醍醐味を学生に伝えることに努めています。

民法が想定する人間像とは?
ひとたび契約を結ぶと、その取引に拘束されます。あとになってこの契約はなかったことにしてほしいとは原則として言えません。損得勘定をしたうえで自らその取引をしようと決めたのであるから後戻りはできないとか、契約相手の信頼を裏切ることはできないとか、その根拠づけにはさまざまなアプローチがあります。人間は合理的な判断をするものだと捉えるのか、それとも、例えば消費者と企業とでは情報量や交渉力において差があるように、実際の取引では必ずしもそのような能力を兼ね備えているわけではないことを前提とするのか。民法は日常生活のあらゆる場面、あらゆる立場の人間を対象としますが、民法が想定する人間像の捉え方の違いは、前に触れた条文解釈において微妙な考え方の違いが生じてきます。借地借家法だとか、消費者契約法だとか、様々な「特別ルール」があります。これらも日常生活に関する法です。民法とこれら特別法の関係を考えてみましょう。

民法の社会的意義
私は、私人間の契約関係に対する司法的介入のあり方について研究を遂行しています。個人の自由な活動(私的自治)を保障する一方で、契約内容の公正さが取引をするうえで各個人には求められていると考えます。契約自由や私的所有の自由は、民法が掲げる根本原理ですが、社会の一員としての個人にどのような行為規範が求められるのかを学生とともに考えています。

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.50』(2025年10月発行)から抜粋したものです】