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機械工学の考え方で腰痛を治す

2023.10.24

工学研究科・助教 馬場 創太郎

馬場先生の写真

工学部で医学の研究?

生体システム工学研究室のメンバー

みなさんの中にも腰痛に悩んでいる方々も多いかと思います。疾患の起こりやすい脊椎部分ですが、さらに症状が悪化すると、整形外科手術による障害部分の除去や変形した脊椎の整復が必要になってきます。手術の時に患部の状態や手術で骨を削ったことにより脊椎が不安定になる場合に脊椎インプラント固定が使われます。

脊椎固定術は有効な手法である一方で、金属製のためにヒトの骨や椎間板よりも剛性が高いことが原因となり、固定部分の骨が弱くなったり、周囲の脊椎の負担が増加する問題が起こる場合があります。

私はこうした課題に対して、工学分野で構造物の設計や加工に応用されている力学の考え方を、人間の構造部品である脊椎に適用することに取り組んでいます。

みえジビエを活用!力学試験

6軸材料試験機を使用した研究の様子

実際の手術を模擬した脊椎固定を施したシカの脊椎の力学試験を通して、これまで医師らの経験や勘に頼っていた脊椎手術や固定術の効果を定量的に評価する研究に取り組んでいます。

脊椎の変形挙動を調査するために、動物脊椎を用いた力学試験を行っています。動物脊椎は三重県で、獣害対策の一環で狩猟されたシカを使っています。これにより、ジビエ料理としてほとんど食用にならない脊椎部分を有効活用することにも貢献しています。

様々な方向に曲げたり回旋したりするといった、人間の身体の複雑な動きを再現した力学試験を行うために、特別に開発された6軸材料試験機を使って力学試験を行っています。得られた研究成果を元に新型のインプラント開発のアイデアを試したりもしています。

世界で唯一の脊椎力学実験の実現

6軸材料試験機を使用した研究の様子

これまで国内の整形外科医と協力して研究に取り組んできましたが、最近はタイのコンケン大学病院との国際共同研究をはじめました。日本国内では動物の脊椎しか使えませんが、タイではヒトの脊椎を使った力学試験を準備しています。2022年の夏休みにコンケン大学の研究拠点に新型の6軸材料試験機を設置しました。これによって世界で唯一の、ヒト脊椎を使った脊椎手術に対する力学試験が行える環境が整いました。

今後は定期的にタイを訪れて、国内外の研究者と共同で研究を進めていきます。

コンケン大学の研究者とともに

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.47』(2023年7月発行)から抜粋したものです】