脳循環と認知症
医学系研究科・教授 冨本 秀和
頭の血のめぐりが悪いと呆けやすいの?
脳は全身のコントロールセンターです。脳の重さは成人男性で1400gです。これは体重の2%程度に過ぎません。その一方で、酸素は全身の20%、循環血液量の15%を消費しています。他の臓器に比べると数倍以上の大喰らいのため、酸素とエネルギー代謝の供給が途絶えると、直ちに機能障害が生じます。
脳循環不全には急性障害と慢性障害がある
脳の神経細胞は、血液から酸素やエネルギーの供給を受けています。このため、血液循環が急に遮断されると神経細胞は死に至ります。 これが脳梗塞と呼ばれる状態で、手足の麻痺や言語障害などが起こります。一方、3-4割程度の軽い脳循環の低下が生じるとどうなるのでしょうか。神経細胞は死なないまでも徐々に疲弊して情報伝達機能の低下が生じ、認知機能障害を発症します。つまり、急激な脳循環の障害では脳梗塞を発症し、慢性的な循環障害では緩徐(かんじょ)に認知症に至るわけです。
慢性脳低灌流モデル
当講座では脳循環が原因となる認知症の研究に幅広く利用できる「慢性脳低灌流(まんせいのうていかんりゅう)※モデル動物」(以下「BCASモデル」という)を作成しました。BCASモデルはマウスの両側頸動脈を手術で狭窄させ作成します。両側頸動脈の脳血流が7割程度に低下しても症状はすぐには現れませんが、時間が経つと脳萎縮、認知機能低下が徐々に生じます(下例A)。また、慢性脳低灌流はアルツハイマー病の原因となるアミロイドβ、リン酸化タウなどの異常タンパク質の凝集を悪化させることもわかっています(下例B)。このように、慢性脳低灌流は認知機能低下に深く関与することが考えられます。
※慢性脳低灌流:慢性的な循環障害による脳血流の低下。
【この記事は『三重大X(えっくす)vol.44』(2021年1月発行)から抜粋したものです】