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肝臓の未来を拓く:脂肪肝 研究の最新トピックス

2023.10.24

医学系研究科・教授 中川 勇人

中川教授の写真

増加する脂肪肝

現代社会の生活スタイルや食事習慣、運動不足などによって、脂肪肝の頻度が増加しています。現在健診受診者の約20%に脂肪肝があり、肥満やメタボリック症候群を持っている人では、その頻度がさらに上昇します。脂肪肝のうち約10%が肝臓に炎症を伴うNASHと呼ばれる病態で、将来肝硬変や肝臓がんに進行するリスクがあります。脂肪肝は自覚症状がほとんどないため、気がつかないうちに静かに病気が進行してしまう怖い病気です。

年別グラフ:脂肪肝の割合

脂肪肝に対する直接的な治療薬はまだない

図:脂肪肝、肝炎、肝硬変、肝癌

脂肪肝に対する治療の基本は、食事運動療法など生活習慣の改善によって体重を減らすことです。ただ生活習慣の改善だけではよくならない人もいますし、あまり太っていない人やすでに肝硬変まで進行してしまっている人では、その効果は限定的です。その場合治療薬が必要となりますが、脂肪肝に対する直接的な治療薬はまだ開発途上で、保険承認されている薬剤はありません。また国内だけでも約2000万人いる脂肪肝の方の中で、どういう人が将来病気が進みやすいのかについてもまだよくわかっていません。

脂肪肝患者さんの個々の病態に合わせたアプローチ

脂肪肝の正確な病状評価のためには肝臓の組織を針で採取する「肝生検」を行います。現在私たちは肝生検検体の一部からRNAを抽出して網羅的に遺伝子発現を調べ、脂肪肝の病態を細分化するとともに、個々の病態に応じた治療薬を選択する"プレシジョンメディシン(精密医療)"の開発を行っています。それによって将来病気が進行する可能性が高い患者さんを絞り込むと同時に、適切な薬物療法を行うことが可能となります。さらに、病理AIや血液で肝臓の病態を予測できる手法の開発も行っていて、実際一部は実現が期待できそうです。

中川教授の写真
消化器・肝臓内科のメンバー
脂肪肝に対するプレシジョンメディシン

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.47』(2023年7月発行)から抜粋したものです】