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植物の不思議を解き明かす~品種改良のための遺伝子研究~

2022.12.23

植物の不思議を解き明かす
~品種改良のための遺伝子研究~

                                生物資源学研究科・准教授 諏訪部 圭太

(現 地域イノベーション学研究科・生物資源学部 教授)

諏訪部准教授の写真

食料生産を支えるための生物学(農学)

植物が持つ様々な性質は遺伝子によってコントロールされています。我々人間が食べている米や野菜などの植物をよりよく改良するためには、まず最初に人間が植物を理解しなくてはいけません。私の研究は、分子(遺伝子)レベルで植物を調べ、どんな性質がどんな遺伝子によってコントロールされているか解明することです。特に注目しているのは、「花が咲いてタネができるまで」の分子メカニズムです。

写真:シロイズナ、顕微鏡

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たった1個の遺伝子の違いが植物の運命を変える

植物はどうやって絶滅せずに繁栄しながら子孫(タネ)を残しているのでしょうか?その謎を解くヒントのひとつが自家不和合性です。自家不和合性は、雌しべが花粉を選別し、同じ種類の別の個体の花粉だけを受け入れてタネを作るメカニズムです。これにより植物は遺伝的多様性を保つことができています。植物研究のモデル生物であるシロイヌナズナは、進化の過程で自家不和合性を失っています。その理由は何か?答えはゲノム(生き物が生きていくために必要な遺伝子のセット)に隠されていました。今から約41万年前の氷河期にヨーロッパ中央部で起きたたった1つの花粉遺伝子の突然変異に原因があることを突き止め、その変異を修復することでシロイヌナズナを自家不和合性に逆進化させることに成功しました。この結果は、ダーウィンが 1876 年に提唱した「交配相手が少ない条件下では自殖が繁殖に有利な性質となる」という説を裏付けるものです。

図:シロイヌナズナの自殖性への進化と他殖性への人為的逆進化

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不思議はまだまだいっぱいある

ようやくひとつの謎を解くことができました。でもまだまだ植物には謎がいっぱいあります。「どうやって自分の花粉を拒否しているのか?」「正しくタネを作るためには何がどうやってそれをコントロールしているのか?」など、わからないことは山積みです。これらをひとつずつ明らかにすることが、大学で勉強や研究をする目的であり醍醐味です。それと同時に、この知の蓄積が我々人間の植物への理解を深め、よりよい米や野菜を作り出す品種改良の源になります。おいしいご飯を食べ続けることができるよう、これからも基礎研究に邁進します。

えつくすくん

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.44』(2021年1月発行)から抜粋したものです】