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海の中の小さな生き物たちは何を食べているのか?
珪藻と小型無脊椎動物の被食-捕食関係

2023.9. 5

生物資源学研究科・助教 伯耆 匠二

伯耆匠二教授の写真

海の生態系を支える多様な珪藻(けいそう)

私が注目しているのは、珪藻と呼ばれるガラス質の殻を持つ微細藻類と、それを食べる小さな動物の食う―食われるの関係です。珪藻は、水中を漂う「浮遊珪藻」と海底や海藻などにくっつく「付着珪藻」に大別できますが、そのいずれもが、小さな貝や甲殻類をはじめとする様々な動物の餌となることで海の生態系を支えています。その一方で、珪藻の多くの種は、これらの動物たちに簡単に食べられないための様々な工夫(被食防御戦術)を進化させてきました。これらの多様な戦術で身を守る珪藻の中から、動物たちはどのような珪藻を餌として利用しているのでしょうか?

海の生態系を支える多様な珪藻(けいそう)

海の中のアサリはどんな珪藻を食べているのか?

海の中のアサリはどんな珪藻を食べているのか?

実は、大人のアサリと赤ちゃんのアサリとでは餌として利用できる珪藻の種類が大きく異なります。アサリの赤ちゃんは水を濾過する力が弱く、口も小さいため、大きな浮遊珪藻を効率的に食べることができず、主に海底の砂にくっつく小さな底生珪藻を舐めとって食べています。ところが、底生珪藻の多くは堅い殻を持っているため、ほとんどが破壊されずに生きたまま排泄されてしまいます。一方、殻長数mm以上に育った子どもや大人のアサリは、大きな浮遊珪藻も効率的に食べることができ、堅い殻を持つ底生珪藻も消化管の中で粉々に破壊して消化できます。

ワレカラ類の摂餌戦略

ワレカラ類は、海藻などに掴まって暮らすヒョロリと細長い甲殻類 のなかまです。ワレカラ類の多くは海藻表面の付着珪藻を口で削り 取って食べるほか、水中に漂う浮遊珪藻を毛の生えた触角で濾し取って食べることもできます。これまでの研究から、ワレカラの種間で触角の発達の程度が異なっていること、そして、触角の発達している種ほど浮遊珪藻をたくさん食べていることが明らかになっています。

このように、動物が餌として利用できる珪藻の種類は、その動物の摂餌戦略(摂餌行動、摂餌器官の形、消化能力など)によって異なります。このような珪藻と動物の食う―食われるの戦いの積み重ねが、多様で複雑な海の生態系を形作る一因となっているのかもしれません。

ワレカラ類の摂餌戦略

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.46』(2022年12月発行)から抜粋したものです】