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美術・絵画の面白さに触れる
心に響け 美術の世界

2023.9. 5

教育学部・教授 関 俊一

関教授の写真

研究内容の概要「古典絵画技法とアクリル表現」

絵画表現の中で西洋古典絵画技法に興味を抱き、研究と制作を続けてきました。巨匠達の制作プロセスや作品への効果を考え、自ら試し理解することがとても重要な学びになります。印象派以前の制作プロセスでは、概ね始めに大まかな明暗で描き、後に有彩色の透明色をグレーズする方法がとられていました。私が絵画制作で試みているのは、どんな色彩でも容易に手に入る今だからこそ、よりグレーズによる効果が発揮できるのではと思い、画面の中で対象のモチーフが輝いて見えるような表現を目指しています。現代はダビンチやフェルメールの時代には無かった顔料があるのです。グレーズによる発色効果は科学的根拠に基づいており、グレーズによる透明色を透過した光が下地のホワイトに反射することによりモチーフの色彩が輝き浮き上がって見えてくるのです。

古典絵画技法
アクリル表現

アクリル表現では、アクリルエマルジョンという水性なのに乾くと耐水性になる特徴を持つアクリル絵具を使用した絵画表現の研究を行っています。アクリル絵具の補助剤としてメディウムという多種のアクリルエマルジョンがあり、それぞれ独特なマチエール(絵肌の変化)を作るために使われ、マチエールや質感を重視した絵画表現も試みています。

絵画の授業「グリザイユと混合技法」

絵画の授業では2年次の前期に油彩による"グリザイユ"という古典絵画技法の一つを学びます。グリザイユとはモノトーンで仕上げたグレーの下地に有彩色をグレーズ(透明色を上から塗る技法)して仕上げます。有名な作家ではフェルメールなどがいます。グレーズする色を古典的なクリムソンレーキ(赤)イエローオーカー(黄)ウルトラマリン(青)の三色で仕上げると古典的な雰囲気が出ます。

古典絵画技法

絵画の授業では2年次の後期に混合技法(ミクストメディア)を学びます。アクリルエマルジョンという水性なのに乾くと耐水性になる性質の展色剤を使用したアクリル絵の具やメディウムといった補助材を使用し"痕跡"をテーマに実物と同サイズで本物そっくりな質感表現をしていきます。アクリル絵具のアクリルガッシュは不透明な均一な平面が塗りやすく発色の良さや扱いの便利さから学校の教材としてよく使われるようになりました。

混合技法(ミクストメディア)

身近な素材でできる実践
「紙切りで昆虫を作る・アルミホイルによる造形」

アルミホイルによる造形

小学校教員免許取得のための授業として、私が他のコースの学生と関わる小学校専門生活と小学校専門美術の授業があります。

小学校専門生活の授業では、実際に児童が学べる内容として、ハサミと紙を使った"紙切で昆虫をつくる"を実践しています。過去には小学校での夏休みの図工教室や三重県の高校生を対象としたサマーセミナーでも同じ内容で紙切りについて指導したことがあり、楽しみながら昆虫の形を学べると好評を得ています。紙を半分に折って切っていくわけですが、ハサミの使い方を説明し、私が実際に蝶を切って見せます。ポイントとして紙を持つ手の動かし方とハサミを持つ手の動かし方を見せます。始めは半分に折った紙に昆虫の半分の図形を下描きさせ、蝶→トンボ→甲虫へと難易度に配慮し進めていきますが、最終的には小学生も十分それなりの形に切れています。左右対称の形(シンメトリー)は、折った紙を開く時のワクワク感が楽しいようです。

、アルミホイルを使用した造形

小学校専門美術の授業では、コロナ禍で授業形態がオンラインとなり、受講生が家庭などでも用意しやすい素材を考えたところ、アルミホイルを使用した造形が目に止まりました。ネットにあったのはダンゴムシや恐竜のディメトロドンが秀逸で、作り方を考えながら実際にパーツを作り進行を考えました。アルミホイルは切ったり丸めたりが容易で立体にしやすい素材です。簡単なモチーフとして始めにクモを作りましたが、参加者はオンラインでも作品として立派に仕上げることができました。更に魅力的な生き物などモチーフとして面白いものがあれば今後も利用したいと思います。

魚の絵

私は魚が好きで、学生時代から魚の絵をよく描いていました。東京都の葛西臨海水族園のポスターのイラストや展示水槽の種ラベルイラストの仕事に携わることがあり、魚の描き方について学んだ機会があります。図形的な印象(プロポーション)や仕組み、各部位の数など、その種類ごとの決まり事の特徴があります。水槽に泳ぐ魚自体を毎日観察されている飼育の担当者からの指示もあり、1点仕上げるのに大変な労力を必要としました。そこで培った知識と方法を基に三重大学教育学部の研究紀要として、"魚"を描く―魚の科学的な描き方・必須要素の線と図形・表現のポイント― にまとめることができました。

葛西臨海水族園ポスター

最近の研究「絵本の作成」

絵本ホホジロザメ

私が描いた葛西臨海水族園での仕事を目にした出版社から連絡があり、"ホホジロザメ"の絵本のイラストを描くことになりました。絵本は作家の表現が絵本自体に大きく影響することもありますが、私に期待されたのは科学的根拠に基づく正確さや臨場感だったと思います。文章から画面をイメージし、絵本全体の流れ、展開を考えながら多くのラフスケッチを描きました。各ページでこれはというものを出版社の担当者と検討し、本画制作に入りましたが、初めから最後までほぼお任せで思うように描けました。私自身、海との関係も深く、魚釣りやシュノーケリングなど魚を含め海が好きなこともイメージを膨らませる上で大いに役立ったと感じています。

絵本ホホジロザメ

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.46』(2022年12月発行)から抜粋したものです】