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パプアニューギニアの貝殻貨幣からお金の未来を考える

2020.2.28

パプアニューギニアの貝殻貨幣からお金の未来を考える

人文学部・准教授 深田 淳太郎

深田准教授の写真

社会学第四資料室にて

貝貨(ばいか)のフィールドワークへ

「貝貨(ばいか)が法定通貨になる」。この新聞記事を読んで私はパプアニューギニアの東ニューブリテン州に向かいました。私の専門は文化人類学です。異文化でのフィールドワークを通して、私たち自身のあたりまえの生活がどのように成り立っているのかを考え直す学問です。私は村に通算2年半住み込み、現地の言葉を学びながら、貝貨(ばいか)の調査を行いました。

地図:東ニューブリテン州

貝貨(ばいか)と共にある人々の生活

タブと呼ばれる貝貨(ばいか)は、東ニューブリテン州のラバウルに暮らすトーライ人が長年使ってきた貨幣です。結婚する際の結納金や土地の売買、その他さまざまな儀礼で用いられ、また円環状に束ねるとその所有者の威信をあらわす宝物にもなります。まさに伝統的な貨幣なのですが、同時に日常的なモノの売買でも用いられ、先述の新聞記事にあるように近年では政府がお金として公認するまでになっているのです。

写真:貨幣として使われるタブ

使われ続ける貝貨(ばいか)

間違えないで欲しいのは、貝貨は彼らが遅れているから「まだ」使われているのではないということです。この想定の背後には、経済が発展すれば貝貨はいずれ消えるという、単純な進化論的図式があります。ですが、実際にはラバウルは19世紀から植民地の中心都市であり、トーライ人は植民地行政府や国家が発行する法定通貨を使いながら、同時に100年以上にわたって貝貨(ばいか)も使い続けてきたのです。

写真:タブをつくるトーライ人

タブ作りを手伝う深田先生

異文化から人間社会を考える

写真:宝物になる円環状のタブ

2001年には、オーストラリアのコンサル会社が貝殻貨幣の法定通貨化に向けた調査を実施しています。実は貝貨(ばいか)は、国家権威によらない独自の価値を生み出し、人々の間の交換を促進するシステムとして、インターネット技術を利用した仮想通貨などと同じく、これからの時代の新しい貨幣のかたちのひとつとして注目されているのです。異文化の伝統文化の独自性や私たちとの違いを見極めながら、同時に私たちとつながる点を見いだし、より普遍的な人間社会について考えることが文化人類学の大きな魅力であると言えるでしょう。

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.42』(2019年6月発行)から抜粋したものです】