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生物の力をエネルギーに!
 〜新たな産業の創出を目指して〜

2015.6. 1

生物の力をエネルギーに!  ~新たな産業の創出を目指して~

生物資源学研究科・教授 木村 哲哉

木村教授の写真

望まれるのは水素社会

将来は炭素を含まない水素を主たるエネルギー源とする水素社会が展望されてきましたが、燃料電池車が販売されるようになってから、急に私たちに身近になってきました。燃料電池のエネルギー効率はガソリン車よりも高いと考えられ、有害物排出量もほとんどゼロであることから、世界における炭酸ガス排出の大きなウエートを占めるガソリン車からの環境負荷の抑制に大きな効果が期待されます。しかし水素ガスの工業生産は現在のところ主に天然ガスなどの化石燃料を原料として製造されるものがほとんどです。化石燃料に対する依存度を下げ、環境への負荷を減らすには、自然エネルギーを利用した水素の生産技術の開発と普及が重要です。

説明図:ガソリン車と燃料電池車の違い

植物バイオマスの利用

私は生物資源学部に所属する「生物屋」ですので、自然エネルギーのなかでもバイオマス、特にセルロースから微生物や酵素反応を利用して水素を生産することを考えています。植物バイオマスとは植物が光合成により炭酸ガスと水を固定し、単糖類の重合体として太陽エネルギーを多量に蓄積したものです。近年、トウモロコシやサトウキビからのバイオエタノールの生産が食糧価格の高騰につながったことは記憶に新しいと思います。可食性のでんぷんは人類の食料や家畜飼料として高度に利用されていますが、途上国の経済発展にともないその不足が危惧されています。これに対し、セルロースを主成分とする植物細胞壁は、哺乳類の消化酵素では分解できないため、稲ワラ、木片などのセルロース性廃棄物はこれまで環境中に放置されてきました。

説明図:植物バイオマスとは・・・

嫌気性細菌による水素ガス生産とバイオテクノロジー

セルロースなどの難分解性バイオマスを分解する微生物に、土壌などに生息する嫌気性細菌が知られています。これらは培養が困難とみなされ研究が遅れていましたが、嫌気性細菌の中にはバイオマスを効率的に分解したり、水素ガスを生産する優れた性質を持つものがいます。これらを応用すれば、環境に負荷をかけることなくバイオマスを分解し、水素エネルギーとして回収できることは容易に想像できます。微生物による分解は、現代の工業社会を支えてきた工学的な視点からすれば速度が遅いことがネックとなります。そこで、遺伝子工学や代謝工学を駆使してセルロース分解能や水素生産能を向上させた高機能な嫌気性細菌を育種し、植物繊維をより効率的に水素ガスへ変換する研究を行っています。一方で、植物をエネルギーのためにどんどん刈り取ってしまったら、かえって炭酸ガスの増加を招きます。そこで、バイオマスを効率よく生産する植物を育種するための植物バイオテクノロジーにも取り組んでいます。バイオマス生産用植物を栽培し、これを使って水素を生産する新産業創出が究極の目標です。

説明図:水素ガスができるまで

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.33』(2015年1月発行)から抜粋したものです】