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人間、好きな道によって世界を切り拓いてゆく(坂本龍馬の言葉)

2023.4. 5

インタビュアー:みえみえ学生広報室の学生

今回は、令和3年度から三重大学第13代学長を務める伊藤正明(いとう まさあき)学長にインタビュー取材を行いました。今回のインタビュアーは、みえみえ学生広報室の工学部4年 池田達哉、人文学部2年 辻悠花です。(インタビュー日時:2023年3月)

伊藤学長(写真中央)、池田さん(写真右)、辻さん(写真左)

-学長になられた経緯を教えてください。

学長私が中学3年生の時にアポロ11号が月へ着陸しました。1969年7月、アメリカの宇宙船アポロ11号がケネディ宇宙センターから打ち上げられ、人類が初めて月へと降り立ち、地球に月の石を持ち帰ることに成功した歴史に残る大プロジェクトでした。その影響もあり、高校生の頃は宇宙工学への憧れを抱いていて、速く動く機械の設計をしたいという思いがありました。しかし、両親に進路について相談したところ、家から通うことができる三重大学の医学部を勧められました。これが三重大学に入学することになるきっかけと言えば、きっかけでしょうか。

大学を卒業し、当時の医学部の第一内科に入局し、卒業直後に病院の開業を意識してスムーズに学位取得のできる博士課程への進学も考えましたが、様々な理由から断念しました。その後、附属病院や関連施設で診療に励み、その後、最終的に研究の道へと進むことになりました。研究に進むきっかけとなったのは、教室の上司に「基礎医学の研究をしてみたい」と相談をしたことがきっかけで、薬理学という基礎医学で2年間研究を行うことができました。その際に学んだ重要なことは、三重大学でも世界一流の研究ができるということです。実際にその研究室では、自然科学で有名な国際的週刊科学ジャーナルである『ネイチャー』という総合学術誌に載るような研究をいくつも出していました。このような環境で研究を始め、進めてみると、研究の面白さに気づくことができました。研究とは「課題解決」です。すなわち、分かっている現象と異なる現象が存在したり、また真実と思われていることや学説が実はそうでないことがたくさん存在します。これらの真理の探究を目的とし、仮説を立て、それを実証してその結果を世の中の報告する一連の活動が研究です。ある真実が明らかになるとその先にさらに新たな疑問、課題が出てきます。研究はこれら課題解決の連続した活動とも言えます。こうした研究を2年間続け、医学博士の学位をいただきました。

その後、周りの方々からの推薦でアメリカのアリゾナ大学に留学し、留学先の教授から、本物のサイエンスを教えてもらいました。留学と帰国後の研究で、3つの新規タンパク質を発見することもでき、アメリカ科学振興協会により発行されている学術雑誌『サイエンス』へも発表することができました。これら一連の研究は本当に面白かったです。
そして、研究を進めていくうちに大学が私の活躍の場所となりました。その時々で担当させていただく仕事の面白さを感じながら、医学系研究科の循環器内科・腎臓内科の教授や、附属病院長としても働きました。そして、同じ志で仕事に取り組む方々から、学長となることを勧められ、三重大学の未来を拓き、個性を尊重しながら世界へ羽ばたく大学にしたいと思い、現在に至ります。

このように、自分が100%やりたいことをしてきたわけではなく、半分は自分の意思、もう半分は周りの意見という感じでした。「何でもせよ」の精神で、周りから勧められたことであっても面白さを探し出し、楽しみを見つけながら一生懸命してきたことが、今の仕事へと繋がったのだと思っています。

-普段学生には見えにくい学長の仕事は、どのようなものですか。

伊藤学長

学長大学内における「最終決定」「意見の調整」が主な仕事です。その上で、「具体的な夢をみんなに持ってもらう」という役目も担っています。大学の方向性を決めたり具体的な組織作りをしたりも大切な仕事の1つではありますが、『具体性のある夢を皆さんに話しながら一緒に活動を続けていく。みんなが活躍し、力を発揮できるような環境を整備する』という役目が学長として最も重要な仕事だと思っています。

-私は今大学2年生で、ちょうど学生時代の折り返し地点にいます。学生時代にするべきことは何だと思いますか。

学長遊びでも勉強でも、自分のやりたいことに挑戦すべきです。その上で、漠然とでもいいので、目的を持ちながら行動すると、さらに面白いと感じられるはずです。学生時代は、やりたいことをする時間を充分にとることができます。興味のある物事に対してよくご存知であったり、専門として研究をされている先生は必ずいます。学部を越え、他の学部の先生のお力も借りながらやりたいことをして、自分で自分の人生を楽しくしていってほしいと思います。常に受け身でいるのではなく、積極的に動き、面白さを見つけていってほしいですね。

みなさんは、素晴らしい才能を必ず持っています。なかなかうまくいかないのが現実だったりもしますが、やりたいことをしていたら、それが仕事になるといった場合もあります。その事実に気づき、現状に満足せず、アクティブに動くことは、きっと自分の人生を好転させていくのでないかと思います。それが、社会を良くすることにも繋がるといっても、過言ではないでしょう。「さらに前へ!もっともっと遠くをめざす」といったハングリー精神を持って、ぜひやりたいことをやってほしいです。

-三重大学の教育の軸は「4つの力」を備えた人材の育成であると思います。4つの力それぞれについて、伊藤学長のお考えを教えてください。

学長一番初めに大切にすることは、感じる力です。感じる力は考える力、コミュニケーション力、生きる力のベースになっています。
例えば、私の内科医という経験から言うと、内科はドアが開いたらすぐに患者さんのことが分かります。患者さんの顔から状態を読み取っているわけです。感じる力は、個人が正確に行動するために、最初に必要となる非常に大事な力なのです。

-感じる力を成長させるには、どのような経験をすべきですか。

伊藤学長

学長色々な人や物事に触れコミュニケーションを取ることが重要です。感じる力は重要な力ですが、難しい力でもあり、意図せぬところでずれてしまうことがあります。そのため、コミュニケーションを通して、全体(会話など)の流れをしっかり掴む練習も必要ではないかと思います。
そういう意味では、コロナ禍でのオンライン授業が長期期間にわたったことは、少し残念だったかもしれません。それぞれの表情が立体的に見えず、分かりにくいと感じる部分があったことでしょう。

-今後、授業形態も含めて、三重大学の教育方針、大学としての在り方はどのように変わっていきますか。

学長そこは、今まさに、いろいろな先生方と相談しています。どこからでも参加でき、時間が調整できるという面では、オンライン授業は有効ではありましたが、教育の本質は対面による距離感が大事だと思っています。例えば、何かを頼む時、オンラインだけでは、なかなかOKをしてもらえないですよね。対面による取組を重視しながらも、オンラインによる併用という形式で、それぞれの持つ良い特徴を合わせ、みなさんの学習効果の向上を図ります。これからは、どのような点に留意して授業を行っていくのか、また、少人数制の授業や課題解決のトレーニング型の授業の実施などを拡大していこうと検討しています。
大学は歴史的に教育と研究を発展させることを使命としてきましたが、現在、大学に期待される役割も変わりつつあり、大学の社会貢献について強調されてきています。大学が、地域社会へ、経済社会へ、国際社会へと社会全体の発展に寄与することが求められているのです。これまでの教育や研究も長期的に見れば社会貢献に繋がってはいますが、それに加えて、学生のみなさんとともに直接的にかかわり貢献するという新しい役割も求められるようになってきています。学生のみなさん、地域のみなさん、企業や自治体のみなさんとともに、未来を拓く活動を行う、それは地域に根ざすものから、世界に誇れるものまで、人間社会と自然との共生やそのための調和、だれもがともによりよく生きるための社会を共創し、努力し続けること。難しく聞こえると思いますが・・・
三重大学においての基本理念や目標として、これらを掲げています。

-人との繋がりは大切で、これは感じる力の成長にも繋がっていくことがよくわかりました。学外では、今後大学と地域をどのように繋げたいと考えておられますか。

インタビューの様子

学長私は学長という立場から、いろいろな組織の皆様と出会い、ともにその仕事に取り組む機会に恵まれていますが、学生であれば、例えば、ボランティア活動あるいはインターンシップなど活用できることがたくさんあります。社会とも触れながら大学で学ぶ、それを経て社会で生きる力を獲得していってください。たくさんのチャンスを逃さず、学生さんには主体的に学んでほしいです。大学から何を引き出し、成長するかを考えてください。学ぶためのツールが大学にはたくさんあります。そのために必要な準備や環境を考えるのが我々教員の仕事です。講義を受けて勉強するというスタイルから脱却し、どんどん教員の力を借り、多くの知識を吸収し、多くのかけがえないチャンスをつかむための能力を養うように心がけてください。


-最後に、学生へのメッセージをお願いします。

学長この世の中、もっともっと面白く生きられます。まず。大事なのは健康。健康だったら全てのものはまず解決します。自分の人生を楽しくする力を皆さんが既に持っていると思うので、その力をいかに自分らしくカスタマイズしていくのか、勉強や遊び、なんでも良いから自分で考えてみてください。
基本的には、どれも面白いと思います。自分的にどうなのかな?ということも、やっているうちに面白くなります。チャンスは絶対みんなにある。そのチャンスはいつ来るかは分からない。来たチャンスを掴むか、掴めないか、これは自分で感じるしかないです。みなさんが取り組んでいる4つの力のひとつですね。
例えば、仕事でも何でも、何かを頼まれた時、基本的には、断らないようにしてやってみてください。困難な場合は、周囲に助けを求めたらいい。その時の繋がりは、きっと次の発展的な繋がりへと続きます。そうすると、ノーと言う人よりもイエスと言う人の方が確実に仕事でも何でも面白く感じられる。断ったら、チャンスは狭くなる、そんな風に、私は思っています。すでにそう考え取り組んでいる方もみえるでしょう。「自分はこんなこと考え、取り組んでいる」という声をたくさん聞かせていただけることを期待しています。


今回のインタビュアー
池田さん:令和5年3月24日に卒業されました
辻さん:人文学部3年(令和5年4月現在)