微生物の価値の探索~ガン細胞の増殖を抑制する微生物の研究~

2019.8.19

インタビュアー:広報室

今回は教育学部 理科教育コースの市川 俊輔 (いちかわ しゅんすけ)講師にインタビュー取材を行いました。

20190805_研究室探訪市川先生 (3)_R

-先生の研究内容について教えてください。

20190805_微生物機能の応用例_R

市川大学院生の時より、三重大学生物資源学研究科の苅田修一先生のもとで微生物について学び、社会に応用できるような研究がしたいと考えていました。例えば、土の中や牛の胃の中の微生物が植物を分解する仕組みを学んで、バイオ燃料を生産する技術に用いることができないか、研究していました。
現在は微生物の価値についてもっと探索したいと思い新たな研究課題についても取り組み始めました。例えば、食品やお酒、土壌の浄化や水質浄化、牛のふんや生ごみなど栄養のあるものを分解して肥料にする堆肥化など、微生物には様々な利用価値があります。微生物には薬のもととなる物質を出すものもいます。これらに活用できる微生物をまだまだ探索できるのではないかと考えて研究しています。

-微生物について研究しようと思ったきっかけを教えてください。

市川きっかけは大学生の時の授業などで、微生物学の知見が広く社会に利用されていることを知ったことです。研究室での成果によって、バイオエタノールの技術などに役立てるかもしれないと考えて、夢中で研究しました。微生物の特徴を知るために、遺伝子や酵素の機能や、生産される物質などを調べることがありますが、それが自分の手元の実験でできることがとても楽しくて、ハマりました。

-微生物にはたくさんの種類があるかと思うのですが、どういった微生物を対象に研究をされているのですか。

市川パンなどに生えるカビや、傘をつくるキノコなどは、肉眼で確認できる身近な微生物です。私は細菌(バクテリア)を対象とすることが多いです。細菌は1mmの1/1000程度の小さな生物で目に見えませんが、例えば納豆やヨーグルトなどの発酵食品にたくさん存在しています。地球上には多様な細菌がいて、かつまだ特徴がよくわからないものが大部分であり、その中から価値のあるものを探索できるのではと考えています。

-どのような方法で目に見えない微生物を研究しているのでしょうか。

市川環境中には多様な微生物が混在しています。微生物の特徴を知るには、1種類の微生物を取り出す必要があります。まずシャーレ(実験で用いられる平皿)中で、微生物の成長に必要な栄養素を含む溶液を寒天で固めておきます。これを寒天培地といいます。その上に微生物を含む試料(たとえば土など)を伸ばします。そうすると、微生物が寒天培地の上で栄養を食べて増殖していきます。目に見えない微生物が細胞分裂をしていき、目に見えるサイズの大きさの塊になります。その微生物をピックアップして、栄養素を含む溶液の中で育てます。この方法で1種類の微生物を取り出して、その特徴を研究することができます。
世界中にはさまざまな微生物を研究したいと考えている人がたくさんいます。例えばアース・マイクロバイオーム・プロジェクトという活動では、地球上のどのような環境にどんな微生物がいるのか、世界中の研究者たちが調べています。このプロジェクトを含めた多くの研究成果によって、微生物を取り出す技術や、環境中の微生物をそのまま調べる技術が向上してきており、微生物を探索できる可能性が広がっています。

-クラウドファンディング事業である「三重県土壌からの"ガン細胞"増殖抑制微生物の探索プロジェクト」について教えてください。

市川土壌1gには100万種類もの微生物がいると言われています。先ほど話した寒天培地の上は特殊な環境なので、環境中から取り出せる微生物はかなり少なく、1%以下であるとも言われています。土の中では生存できても、本来一緒にいる微生物と分けられてしまうと育たなかったり、細胞分裂がゆっくりで目に見えるほど大きな塊にならなかったりします。現在、土の中にいる一部の微生物しか取り出せていないため、ほとんどの微生物を探索できていない状況にあります。そのため適切な方法を考えて、未探索の微生物からガン細胞の増殖を抑制するなど、良い特徴のあるものを見つけたいと考えています。
三重県は北から南までさまざまな気象条件や土壌環境を有しています。100年ほど前には、南方熊楠という研究者が紀伊半島中を歩いて多くの微生物を見つけて報告しました。もしかしたら三重県地域は、微生物を探索するのに適しているかもしれません。

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シャーレの上ではガン細胞の増殖を抑制できたとしても体の中のガンを抑制できるかどうかはわかりません。今回のプロジェクトでは、主に三重大学医学系研究科の島田康人先生に協力いただいて、ゼブラフィッシュを使った研究をしています。島田先生はゼブラフィッシュを用いて、ガン細胞の増殖を抑える薬のもとを探すことを得意としています。ゼブラフィッシュは価格が安くて、体が透けているため体内の状況を見やすく、多数のサンプルを検証できるので、今回のプロジェクトに向いています。

-研究をしていく中で面白いと感じるのはどのような時ですか。

市川研究をする上で、まずは事実を元にして予想(仮説)を立てます。この段階では、ああではないか、こうではないかと、自由に発想することができるので、夢を考えているようで楽しいです。その後、その仮説が正しいかどうか検証します。仮説通りの結果が得られると、やっぱりそうだったんだととても感動しますが、実際は仮説通りでないことが多いです。また別の仮説を考えて検証することを繰り返すことで、自分たちが当初考えていなかった新しい事実がわかります。わかった事実が意外なものだった時、また驚きや感動があります。

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今回のガン細胞の増殖抑制する微生物を探索する研究は、「上手くいくかわからないけれど試しにやってみよう!」というところからスタートしています。今回の研究では、三重県の土壌サンプルを集めて研究をしています。温暖で降水量の多い地域の土壌には、多様な微生物存在し、ガン細胞の増殖を抑える微生物が見つかりやすいかもしれないという予想がありましたが、どうやらそういう傾向があるようで、面白いなと感じました。

-今後の目標を教えてください。

市川今回の研究を通して見つかってきた微生物がどのような物質を出しているのか、その物質がガン細胞の増殖をどのように抑えているのか、明らかにしたいと考えています。また、微生物を育てる方法や取り出す方法をさらに検討することで、まだ特徴が分かっていない微生物を研究したいと考えています。

三重大学振興基金クラウドファンディング事業「三重県土壌からの"ガン細胞"増殖抑制微生物の探索プロジェクト」について、支援の受付を行っております。
高齢化社会が進行する中、最も多い死因であるガンの抑制について研究を進めることで、人々の健康に貢献できるようにしたいと思います。皆様のご支援をお願いいたします。
http://www.mie-u.ac.jp/topics/university/2019/08/1-2.html

研究者情報


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教育学部 理科教育コース

講師 市川 俊輔(Ichikawa Shunsuke)

専門分野:生化学、生物工学、応用微生物学、酵素工学

現在の研究課題:土壌細菌のセルロース系バイオマス分解機構とその応用
        複合微生物培養制御と生理活性物質探索

【参考】
教育学部HP http://www.edu.mie-u.ac.jp/

教員紹介ページ(市川 俊輔) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/3085.html

次世代創薬・ゼブラフィッシュスクリーニングセンター http://cancer-zebrafish.mie-u.ac.jp/