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ホリスティックな目線から地域の特性を活かす景観設計

2016.12. 2

インタビュアー:広報室

今回は、教養教育機構の大野 研(おおの けん)教授にインタビュー取材を行いました。

写真:大野先生

-大野先生の専門は景観設計と伺いましたが、そもそも「景観」とは何なのでしょうか。

大野景観の定義は誤解されていることが多いですが、人間が知覚、つまり、感じることができる空間のことです。例えば、いい香りがするといい気分になれる、など、樹のにおいや川のせせらぎの音なども景観に影響を与えます。近頃は、景観生態学が必要とされてきていて、2013年から新たに講義も始めました。生態学は池や森など、わりと狭いところに焦点があたりますが、とんぼはヤゴの時は水辺に、成虫になると森に移ったりします。この点から森と水辺がどちらも大切なことがわかりますね。このような大きな空間も景観といいます。

-とてもスケールが大きいですね。どんなことに取り組んでいるんでしょうか。

大野地域のアイデンティティを活かした景観づくりに取り組んでいます。行政的に景観づくりを行うと、地域の特性が活かしきれない場合があります。昨年、学生の卒業論文で津の景観特徴マップをつくりましたが、津はとても広く、特徴的な地域が多くありました。行政としては「津市」と大きなくくりになりますが、市としてよりも、その地域地域の特徴にあった政策をとったほうが良いと思います。景観の特徴は何で決まると思いますか?その地域の地形や植物(自然条件)、歴史などです。地形や植物によって農業が発展したり、首都がおかれてお寺ができたりするなど、自然の特徴を無視して歴史が進んできたわけではありません。景観は自然と人間がお互い影響しあってできるものです。農地にむいた地域だからといって森を削ってすべて農地にしたら、それも問題です。その辺をバランスよく設計することが大事です。

-景観と一言で言ってしまうと簡単ですが、色々なものが関わっているんですね。

大野そうですね。冒頭で、景観生態学が必要とされていると言ったのは、生き物はとても難しいからなんです。生き物が「見つかった!」と情報があって、現地に調べに行ってもいたり、いなかったりします。最近では、獣害被害のある地域で鹿の数を糞の数を数える方法で調べていますが、しっかり調べてもそれが正確な鹿の数にはなかなか繋がりにくいです。保護対策、獣害対策などによる効果を示したいですが、示すことができません。このようなことで、効果のある対策がはっきりしませんが、保全に関しては、景観を守ればそこに住む生き物が絶えることは無いはずです。昨今は、絶滅危惧種だけ保護するという風潮ではなくなってきました。なぜなら、絶滅危惧種も景観に頼って生きているからです。絶滅危惧種が食べていた生き物もあれば、絶滅危惧種を食べていた生き物もある。そのように影響し合っているバランスがあるので、壊さないために景観を守る必要があります。生き物の専門ではないので、生き物は苦手なんですが(笑)、文献を読んだりして、景観特徴を分析しています。

-どんなことがきっかけで景観に興味をもたれたのでしょうか。

大野もともとは土の堤防の中の水の流れを研究していました。農業用のため池などの堤防ですね。土の中は規則正しく水が流れているわけではなく、土のゆるいところを流れているんです。その研究を進めていくうちに、隙間やゆるいところを見つけることが大事なのだとわかりました。岩の中も隙間の亀裂にそって水が流れます。岩に入る亀裂を写真などでながめると、自然の川が流れているような様子でした。その頃、どんどん川を直線化する整備が行われていました。昔ながらの自然の川はぐねぐねと曲がっていて、曲がり角で氾濫しやすかったからです。直線化され、川から海へ速く流れるようになったことで、そこからまた違う問題がでてきました。速く流れる川には生き物が住めないんです。例えば、川の生き物でも流れが速いと卵が産める場所がありません。昔の曲がった川は、所々に淀んだり水が溜まったりする流れの弱い所があり、そこが生き物たちの住む所でした。そのようなことで、直線化されている川を曲がった自然の川に戻そうとなっています。そこで、参考になったのが、岩の中の亀裂でした。その亀裂のように脇道つくったり、曲り道をつくったり。河川景観も、もちろん大事で、曲がり方も景観に影響します。それがきっかけで景観設計について研究を始めました。

-今まで色々な取り組みをされてきたと思いますが、一番印象に残っていることはどんなことですか。

写真:大野先生

大野伊勢神宮の式年遷宮が行われる際、伊勢自動車道の道路景観を整えたいと相談がありました。道路の景観には道路外景観と道路内景観があり、普段は道路外景観を重視していますが、この時は道路内景観を整えることとなりました。委員会を発足させ、議論を重ねたところ、伊勢自動車道は現代の参宮道路と言えますが、伊勢神宮を想像させるものが全くないという話が出ました。では、伊勢神宮をイメージさせる看板を立てようという話しになり、10kmおきに「伊勢神宮まで何km」という茶色い看板を設置しました。デザインにもこだわりました。スペインのサンチャゴデコンポステーラの巡礼者のホタテ貝のような象徴をマークにしたかったので、実は"ひしゃく"にしたかったのですが、"ひしゃく"の象徴はあまり知られていないということで却下され(笑)、最終的に鳥居のマークになりました。他にも、伊勢神宮のイメージは何かと考え、インターの降り口に神宮林からひろった種から育てた神宮杉を植えました。紀勢自動車道でも同じように看板が立てられましたし、この景観づくりはなかなか好評だったようです。伊勢自動車道を通る際は、ぜひ気にして見ていただきたいですね。

-看板を見て、だんだんと近づいてくる伊勢神宮にわくわくしそうですね。今度はどんなことに力を入れられるのでしょう。

大野村づくりの表彰事業などで、ある地域がモデル地区として紹介されたりされますが、必ずしもそれが他の地域に当てはまるわけではありません。地域にはアイデンティティがあってそれを各々で認識し、景観の魅力を活かした地域になってほしいです。景観はファッションやお化粧のようなものだと考えています。なくても生活に不自由しないと思われますが、ファッションやお化粧などを通して人はアイデンティティを表現します。また、安全・安心ならそれで全てが良いというわけではありません。安全・安心な核シェルターに食べ物や綺麗な空気が運ばれ、そこで一生過ごして生きがいや幸せを感じられるでしょうか。例えば、お金を稼ぐのは幸せになりたいからですよね。あくまで手段であって目的になってはいけません。幸せを感じれる魅力ある地域をつくっていきたいです。津に来た時に「県庁所在地きたのに空がものすごく広い!」と思いました。津駅前に高い建物が建ってきていますが、空の広いイメージをずっと守れればと思っています。三重大学としてはやはり「海」ですね。せっかく三重大学にいても海がみえない場所が多いことが残念です。三重大学や津にきたら広い空や海のイメージを持ってもらえるような景観づくりをしていきたいです。

写真:大野先生

-未来の研究者にメッセージをお願いします!

大野日本における研究は「狭く深くする」ことが多いと思います。景観設計もそうですが、どんなこともホリスティックに考えることも大事です。Human Well-Beingという言葉がありますが、なにが幸せかということを考え、総合的に判断するという感覚を持っていてほしいです。

-大野先生の趣味はキャンプと伺いましたが、先生の幸せはキャンプをしている時ですか?

大野キャンプですか?結構つらいですよ(笑)。農家民宿で好きな本を読みながらゴロゴロ過ごすことが好きです。

研究者情報


写真:大野先生

 教養教育機構
 教授 大野 研(Ohno, Ken)

 専門分野:景観設計
 現在の研究課題:生態系豊かな景観設計

【参考】
 教養教育機構HP https://www.ars.mie-u.ac.jp/
 教員紹介ページ(大野 研) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1627.html

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