人に優しい機械を目指して

2015.7.28

インタビュアー:広報室

今回は工学研究科 機械工学専攻の池浦 良淳(いけうら りょうじゅん)教授にインタビュー取材を行いました。

top201506Rナビインタビュー(池浦先生)

―早速ですが、池浦先生の研究テーマを教えてください。

池浦私は機械工学科なので機械を扱う研究をしていますが、人と機械が様々に交わる今の世の中で、「人に優しい機械をつくる」というのが私の研究テーマです。主に機械制御という分野でソフトウェアの研究がメインとなりますが、ハードを作ったりもしています。

―今、具体的に取り掛かっているものはどのようなものなりますか?

池浦ひとつは自動車に関連するもので、ドライバーの運転をアシストするシステムをつくっています。近頃ではカメラや赤外線などを使って障害物を認識する自動ブレーキシステムなどが有名ですね。もうひとつは、工場の中などで重たいものを動かす時に使うパワーアシストシステムです。ロボットが重たいものを持って、人の動作に沿うように一緒に持ち運ぶものです。どちらも人の動作が主体として、その上で技術や力をアシストする装置をつくっています。

―ではまずドライバーアシストシステムからお聞きしたいのですが・・・

池浦実はその話はまだできないんです。他大学と大手自動車メーカーと共同で進めているプロジェクトなので、内容はまだ秘密ということで(笑)プロジェクトがうまく行けば私の作ったシステムが実車に搭載されますので、お話できる時まで待っていただければと思います。

―プロジェクトの成功を楽しみに待ちたいと思います。ではパワーアシストシステムについて教えていただいても良いでしょうか?

池浦これは以前にある企業さんと共同で開発し、実際に工場でも稼動しているものですが、重量のある部品をスムースに運ぶことができるアシスト装置です。

池浦人力での重量物取扱い作業は体重の約40%以下となるようにと厚労省の指針でも示されていて、それ以上の重量での作業を行っているとほとんどが腰を痛めてしまいます。ですが、こういった装置を使ってアシストすることでその作業が可能になります。工場では20kg~30kgのものを運ぶのに使われていますが、使用者の体感重量はほぼゼロです。また、通常はリフトのようなもので上にだけ持ち上げるものが多いのですが、動画では少しわかりにくいですが、この装置は上下左右、全方位へのアシストができ、人が思うように自由に動かすことを可能にしました。

パワーアシスト装置

―複雑な動きへの対応が可能なようですが、どのような原理で人の動きに合わせてアシストを行っているのでしょうか?

池浦これは「慣性力」、「粘性力」といった機械インピーダンスと「重力」の制御によって行っています。動きに対する抵抗力、といったところでしょうか。まず「重力」は重さの制御で、センサーで重量を計測し、力を逆方向に掛けることで「重量」へのアシストを行います。
 「慣性力」は動きの制御です。「慣性力」は止まっているものは止まり続け、動いているものは動き続けようとする、「物が現在の運動を保持する力」のことで、例えば、台車で重い物を運ぶとき、動かし始めや止める時は一段と力が要りますよね。その正体が「慣性力」で、これは「質量×加速度」で表すことができます。この質量を見かけ上、小さくなるようにアシストを行うことで「慣性力」を小さくして抵抗を抑えています。
 最後に「粘性力」ですが、これは水や油の中で手を動かしたときに感じる抵抗で、「物をその場に留めようとする力」です。「重力」、「慣性力」に対しては、測定値に対して一定の力を掛けて制御を行っていますが、「粘性力」に対しては可変インピーダンス制御を行っています。

インタビュー風景

―「可変インピーダンス制御」とはどういうものなのでしょうか?

池浦センサーで人の動きを測定し、人の動きに合わせて柔軟に粘性力を変化させています。通常、粘性力は空気中ではゼロに等しいものですが、これでは物体が安定しません。そこで、速く動かしたいときは小さく、物体をある位置へ止めたいときには大きくなるように粘性力を制御することで、速く動かすときの抵抗を抑え、止めるときも空中でも安定して静止させることができるようになります。
 この可変インピーダンス制御という方式は、「人間同士の協調」を基に独自に研究を行い、世界で初めて実用に成功しました。機械にばかり目をむけるのではなく、人に人が作業のアシストを行うとき、体の中でどのようにインピーダンスが働いているのか解析を行いました。そこで人は協調のためにインピーダンスを変化させて動いていることがわかり、それを分析・応用することで、スムースで違和感の無いアシストが可能になりました。人の動きの解析はとても複雑で実用までに10年以上掛かりましたが、その甲斐あってかこの分野の第一人者として講演を頼まれることも多くなりました。

溶接アシスト装置

―先生は世界的なパイオニアだったのですね。不勉強で申し訳ありません・・・。ところで、最近では装着型のアシストスーツなどの開発も進められていますが、その方面の研究もされているのでしょうか?

池浦もちろん装着型のアシスト装置も開発しています。右の写真は、先ほどのものと比べると簡易な装置ですが、以前に開発した造船所の溶接作業用のアシスト装置です。造船所では作るものの規模が自動車とは大きく違うため、現状では機械化が不可能で、そのほとんどが人力作業となります。とりわけ、溶接作業がその多くを占めるのですが、例えば甲板の溶接を行う場合はずっと腕を上げたままの姿勢で固定され、体に負担の大きい状態での作業を強いられます。それを解消するための角度を自由に変えられる肘置きのような装置となっています。メインの機構はラチェットを使った簡易なつくりとなっていますが、固定したアームのしなり具合や装着時の着心地など、実際に現場の職人さんと様々な部分で調整を行っています。
 スーツのような派手さはありませんが、使用方法を限定できるのであれば特別なものである必要はありません。できる限りコストと重量を抑えながら、作業時に違和感が生じないよう行動の制限を最小限にしつつ、必要な機能を満たすことが大切だと思います。実は、現在新たに開発を進めているものがあるのですが・・・、これもまだ秘密ということで(笑)

―秘密が盛り沢山ですね(笑)では今回聞くことができなかったお話はぜひ追って取材をさせてもらいたいと思います。
最後に、先生が研究に込める想いなどをお聞かせいただけますか?

池浦あまり大きな声では言える話ではありませんが、今開発を進めている装置の一つは、現場の人から「使わないねぇ」と言われたりしています。それは、負担や効率が明らかに改善するにも関わらず、です。結局、どれだけ高性能でも、使ってみて「しっくりくる」ものでないと人には受け入れてもらえないんです。目に映りやすい数字や性能ばかりを追い求めるのではなく、多くの人に使ってもらい役に立てるように、使う人の感性や心に響く、そういう機械をつくっていきたいと思います。

池浦教授近影

工学研究科 機械工学専攻 量子・電子機械講座
教授 池浦 良淳(Ikeura, Ryojun)

専門分野:機械工学、制御工学、ロボット工学、人間工学
現在の研究課題:
・介護用ロボットの開発 ・造船における溶接支援装置の開発
・産業用パワーアシスト装置の開発 ・金型射出成形機の射出制御
・受動要素を用いた高出力アクチュエータシステムの開発
・人間とロボットの協調制御 ・人間の腕のインピーダンス特性解析
・電車ブレーキ装置の操作性評価 ・物体の運搬における感性評価

【参考】
工学研究科HP http://www.eng.mie-u.ac.jp/
教員紹介ページ(池浦良淳) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1409.html