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アメリカの住宅問題と三重県の地域活性化に関する取り組み

2018.10.19

インタビュアー:広報室

今回は人文学部 法律経済学科の豊福 裕二(とよふく ゆうじ)教授にインタビュー取材を行いました。

写真:豊福先生

-先生の研究内容を教えてください。

豊福ゼミでやっているのは地域に関することなのですが、もともとの専門は住宅問題です。私が大学院の頃はバブルがはじけた後くらいだったので、バブルという現象に関心がありました。なぜ土地がこんなに急激に値上がりするのか、その経済的背景を探るところから出発しました。土地の価格がどのように決まるのか、建物の価格がどう決まるのかを経済学、産業論の視点から考えることが私の専門になります。
バブルの時は建物の値段よりも土地の値段が高かったので、なぜ土地の価格がこんなに値上がりするのか、そこには金融の問題が関わってくるので、最初は金融と土地との関わりから研究を始めました。アメリカの住宅金融の仕組みや住宅、建物を供給するメーカーの構造などを研究し、最近はサブプライムローン問題が起こったので、サブプライムローン問題とその後のアメリカの住宅の問題を研究してきました。

講義では、アメリカとの比較で日本の住宅問題を「産業経済論各論」で取り扱っています。日本で住宅がどのように供給されているのか、住宅メーカーの業界構造やマンションディベロッパーの構造、日本の住宅金融の問題などを分析しています。アメリカと比較しながら日本の仕組みはどうなのか、アメリカの方が進んでいる部分、アメリカのサブプライムローン問題から何を学ぶのか、そのような形でアメリカと比較研究をしています。

また、ゼミにおいては、最初は三重県の住宅問題を取り上げていたのですが、バブルがはじけた後、2000年代は地価が下がり続けていました。その中で、三重県の問題というと価格の高騰よりも商店街の空き店舗問題や農村の耕作放棄地問題であり、土地が余って放置されていました。土地問題、住宅問題というよりも商店街をどう活性化していくのか、農業において継続的に利益を得られるように、どう活性化の仕組みを作っていくのかが課題となり、そのような問題意識から居住問題ということで地域の活性化をゼミでやり始めました。私の大学院時代に所属していたゼミが農業経済と地域経済だったので、それを活かしてゼミでは地域の活性化について取り組み始めました。

-アメリカと日本の住宅問題の大きな違いは何ですか。

写真:研究室

豊福そもそも土地の広さが違うので、アメリカには土地問題がありません。土地が値上がりすることがないので、地価が高騰するという問題がないということです。ただ、アメリカでは不動産、住宅の価格が高騰することはあります。日本では土地の値段がとても大事なので全国的な地価の調査があります。毎年、場所ごとの地価の変動について統一的な調査がありますが、アメリカにはそのような調査がないんです。アメリカでは、何も利用していない土地は価値がなく、土地の上に建物が建って不動産になると初めて価値を持つと考えられています。そのため、日本とアメリカでは土地と建物に対する考え方が全く違います。逆に共通している所はアメリカの住宅も日本と同じで木造住宅ということです。日本でいう2×4(ツーバイフォー)住宅がアメリカから入ってきた住宅なので、木造でつくる点では共通しているところです。
※2×4:2インチ×4インチの角材を使って家を建てる木造建築の工法のこと。

-中心市街地の活性化について、現在注目している場所はありますか。

豊福数年前に取り上げた桑名市の寺町通り商店街があるのですが、その商店街で行っている三八市という朝市は60年以上続いているユニークな取り組みで、三重県の中でも商店街組織として頑張っているところだと思います。教養教育のスタートアップセミナーの授業で地域の課題について取り上げていて、最初にビデオを観るのですがその中で、寺町通り商店街の振興組合の佐藤さんに来てもらって作った紹介ビデオを使っています。なかにはそれを参考に、商店街の活性化をテーマにするグループもあるようです。
※三八市:南北250mに渡る寺町通り商店街で3と8のつく日に開催されている朝一のこと。

-先生が研究をしている中で面白いと感じるのはどのような時ですか。

豊福サブプライムローン問題に関して、どのような原因で起こったのか核心に迫るようなデータを発見できると面白いですね。原因を実証できないといけないので、数字に基づいたデータを探して研究をしています。実証できる手掛かりになるデータを見つけたり、問題の核心が見えてくるのが面白いところです。基本的に行っているのは実証研究なので、客観的な資料に基づいて根拠を見つけ、背景を説明していきます。問題の背景について、その核心を見つけるところに面白さがあります。
ゼミで取り組んでいることについては、地域に出て行くと色々な人が色々な取り組みを工夫して行っていることが分かります。全く可能性がないように見えて、その中から手掛かりが見えてくるので、それを実際に見て知れて、考えることが面白いです。どうしたらその手掛かりを上手く活性化につなげることができるのかを学生と一緒に考えていくのは面白いです。

-今まで様々な研究をされてきたかと思いますが、1番印象に残っていることはありますか。

写真:豊福先生

豊福専門の話でいうと、サブプライムローン問題が起きる前からアメリカの住宅の金融について研究していて、サブプライムローン問題の前兆のようなものは知っていたのですが、それが大きな問題になったということが自分の中では大きいです。アメリカの一つの住宅問題が世界的な問題に発展したことが今の研究を本格的に行うきっかけになったので、自分にとっては転機になるような出来事でした。

ゼミについては、今まで色々な市町に行ったので、印象深いこともたくさんありました。例えば多気町に行った時に、地元で作った大豆を活かした六次産業化は活性化の取り組みとして面白いなと思います。多気町は旧勢和村と多気町が合併したのですが、旧勢和村に"まめや"という農村料理のバイキングのお店があります。旧勢和村には、立梅用水という用水路があり江戸時代の末期ごろに農地の灌漑用に水を引く目的で作られました。地域活性化の取り組みとして、その立梅用水の価値を見直そうということで、その用水の周りに皆でアジサイを植えました。何年か行っているうちにアジサイが見事に根付き、見ごたえのあるものになってきたので、そこで"あじさいまつり"が始まりました。そのイベントは今でも1年に1回、アジサイの最盛期6月頃に開催されています。アジサイの見ごろが終わったら切り取って持ち帰ることができます。それによって人がたくさん来るようになったのですが、地元にお金を落とす仕組みがありませんでした。そこで、地元の農家さんと協力して大豆を使ったおからや豆腐を使った農村レストラン"まめや"を始めました。このお店は豆腐をベースにしたバイキング料理でヘルシーな感じになります。そのお店が好評で、今では他にも新しいお店がいくつかできました。

立梅用水は西村彦左衛門という人が作ったのですが、最近では、その人の生家をカフェに改装して"ふるさとや"というお店をオープンしたりしています。また、まめやはおかげ横丁に出店もしています。
お店ができてから人が来るようになるには10年以上かかったのですが、今まで何もなかった農村地域に人が来る仕組みを作ったということは注目すべき成果だと思います。
この取り組みには色々な方が関わっているのですが、立梅用水の周りにアジサイを植え始めるようになった団体が今でも中心になっていて、多気町は地域のつながりがとても強いところだといえます。まめやを始めたのはもともと町役場に勤めていた女性なのですが、その方はそれまで地域の色々な活動に取り組んでいて、そこから何かできないかということで皆に協力してもらって取り組みを始めたそうです。

-他にも何か行っている取り組みはあるのでしょうか。

豊福用水に水量があれば発電できるので、立梅用水を活用して小水力発電を行ったりもしています。この発電機は、6年かけて安定供給を実現することができるようになり、防犯灯や低温庫に利用されています。また、トヨタから超小型電気自動車を借りて、サルの位置情報を発信するなどの獣害対策や、あじさいまつりでの乗車体験、防災対策などで活用しています。
旧勢和村と多気町が合併して多気町になりましたが、旧多気町は外から工場を誘致してくることで地域の活性化につなげており、かつてはシャープの工場を誘致してきたこともありました。現在は、菰野町にあるアクアイグニスを誘致する取り組みを行っています。多気町は"まごの店"という高校生レストランで有名で、そのまごの店を運営している相可高校の食物調理科がアクアイグニスのシェフの方のところに勉強に行っていました。そのつながりがあって、『食と農』としてアクアイグニスを誘致できないかということになりました。単にハイテクの工場を引っ張ってくるだけではなく、誘致によって多気町の農業の活性化につなげたいという思いが多気町にはあるようです。ただ、地元の生産者とどれほど連携できるかは大きな課題だとは思います。

-地域の活性化に必要なのは地域住民との協力なのでしょうか。

豊福それもそうなのですが、商店街の活性化についていえば、市と地元の人や商店街との連携が大切です。国の政策として、中心市街地活性化法があり、市の施策と商店街組織が上手くかみ合わないといけません。伊賀市の場合は、私が以前調査した時は、市の施策ははっきりとしているけれど商店街組織との連携がとれていないという問題を感じました。桑名の場合は、商店街組織が単独で頑張っていて、そこにあまり市の施策がリンクしていないという問題があります。地域の活性化には、その2つの連携をもっととらないといけないし、市だけが行っていてもダメで、地元の人や商店街組織がついてこないと難しいと思います。しかし、その2つの連携がうまくとれていないのが現状です。

-今後やっていきたい研究はありますか。

豊福住宅に関していうと、持ち家のリスクの問題に関心を持っています。持ち家のリスクには色々あるのですが、1つは、多額の住宅ローンを組んで返していかないといけないということです。しかし、その間にリストラなどがあって返せなくなるような時もあります。もう1つは、災害のリスクです。日本国内で色々な災害が頻発していますが、家で倒壊したり流されたりして家がなくなっても住宅ローンはなくなりません。災害に対する救済があり、例えば家が倒壊すると最大300万円の給付があるのですが、一部損壊や半壊だとないんです。半壊だと少しはあるのですが、一部損壊と認定されると全く給付がありません。家が傾いていて全く住めない状況でも家自体が壊れておらず、一部損壊になると全くお金をもらうことができません。しかし、その場合に住宅ローンがなくなるかというとなくならないんです。
個人責任ではないような自然災害で家を失ったとしてもそれを守ってくれる仕組みが日本にはないんです。アメリカでは住宅を手放すと住宅ローンを返さなくて良いケースもありますが、日本にはありません。これだけ災害が多くて地震が頻発している日本では家を持つことに対するリスクが全て自己責任となっています。地震保険に入って保険でまかなうにしても100%倒壊しても半額しか出ないんです。そう考えると日本は家を持つことのリスクがものすごく大きいといえます。住宅にまつわる色々なリスクがあり、住宅という商品が高額な商品であるにも関わらず、不可抗力で問題が起こった時にそれを保護するような仕組みがないということに問題意識を持っています。そのような日本の制度的な問題を追いかけて、政策提言できたらいいなと思っています。

地域のことに関しては、今までゼミで三重県の様々な地域に行きましたが、まだ行っていない地域もあり、それぞれの地域にはまだまだ可能性があるので、三重県の豊富な地域資源をどうしたら活性化につなげることができるのかを学生と一緒に考えていきたいです。地域で頑張っている人や企業があるので、上手く活性化につなげていけたらいいなと思います。今後は、三重県内の全ての地域に行ってみたいですね。

アメリカの住宅問題は最近どちらかというと金融の問題になっていますが、それはバブル経済から始まった私の問題意識でもあるので、それを専門に追いかけつつ、もう一つの専門として三重県の地域の問題についても考えていきたいですね。

研究者情報


写真:豊福先生

人文学部 法律経済学科

教授 豊福 裕二(Toyofuku,Yuji)

専門分野:土地・住宅経済論 住宅・居住問題

現在の研究課題:アメリカのサブプライムローン問題と住宅差し押さえ危機に関する研究

【参考】

人文学部HP https://www.human.mie-u.ac.jp/

教員紹介ページ(豊福 裕二) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1023.html