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両大戦間期におけるイギリスの東アジア外交政策と現代

2020.4.30

インタビュアー:広報室

今回は人文学部 法律経済学科の古瀬 啓之(ふるせ ひろゆき)准教授にインタビュー取材を行いました。


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-はじめに、古瀬先生の研究内容について教えてください。

古瀬研究対象はイギリスの東アジア政策です。1920年代の戦間期、ようするに第1次世界大戦と第2次世界大戦の間の時期を中心に研究しています。

-なぜそのテーマを研究しようと思われたのですか。

古瀬実は大学院に進学して研究者を志したとき、最初はナショナリズムなど別のテーマを研究しようと思っていました。しかし研究していくうちに、戦間期が現代につながるとても重要な時期であるということがわかってきて、このテーマを扱おうと決めました。なぜイギリスかというと、日本も含めて東アジアの近代以降の歴史はイギリスの影響がとても大きいからです。イギリスの政策がどのように東アジアに影響を与えたのかということに興味を持ったことが理由です。

-戦間期が重要な時期であるというのはどういうことですか?

古瀬戦間期である1920年代は非常に大きな戦争である第一次世界大戦が終わった後の時期になります。そして、それまでイギリスやフランスなどの列強諸国は東アジアの中心であった中国を分割支配していましたが、それをやめにして、「新しい関係を築こう」ということになった時期です。つまり、この時期は東アジアの秩序をめぐる国際関係・歴史の転換点になっていると言えます。東アジアに限らず、現代の国家間関係、国際関係の基礎ができた時期とも言えますね。現代の国家間関係のルーツを探るに当たってはこの時代のことを知っておくというのは重要なわけです。だからこの時代を研究するというのは、過去の研究であると同時に、現代そして未来の国際秩序をどうするかということを勉強することにもなるんですね。日本人ですとやっぱり第二次世界大戦「前」・「後」という区分で認識している人が多いと思うのですが、この第1次世界大戦が終わった後につくられた枠組みというのは世界のスタンダードになっているので、大昔の話だと思わず、意識して少し詳しく知っておくと、長期的なスパンで国家間関係や国際秩序の在り方、その重要性というのが分かるのではないかと思います。


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-研究の方法と、研究の中で面白いと思うのはどんなときか教えてください。

古瀬私の研究は史料をひたすら読み込んでいくことが基本になります。実証研究と言われるものですね。史料第一。イギリスに行って公文書館などで史料収集をすることもあります。当時の外交官たちの手書き史料もすべて現物で閲覧できるので、昔は苦労して何十万円もかけてイギリスに行ってコピーしたりメモをとったり、写真を撮ったりして集めてきました。ただ、この20年で史料収集の環境は劇的に変わって、いまやネットで見られてしまうという便利な時代になりましたね。どの研究にも言えることだとは思いますが、とにかく研究は史料が第一です。

 歴史をひとつひとつ紐解いていくという作業はもちろん面白いです。でも一番面白い瞬間といえば、すでに研究しつくされて、書籍化も沢山されてもう何もやることがないと思われていた部分で新しい事実を見つけたときでしょうか。歴史書というのはいろいろありますが、それらの本のもととなっている当時の政治家たちが書いた私文書、あるいは公文書などの一次史料などを読みながら事実関係を再確認していくと、そういうことがたまにあります。「この点は過去の研究で明らかになっているけど、ここは明らかになっていない」という部分があって、その明らかになっていない部分を突き詰めていくと新しい発見があったりします。しょっちゅうはないんですが(笑)宝探しみたいなものです。

-実際に先生が発見した新事実について教えてください。

古瀬細々としたものはいろいろあるのですが、一番大きなものといえば、イギリスの東アジア政策の方向性についての発見ですかね。かつてのイギリスは帝国主義政策を展開して植民地を沢山つくり、アジアやアフリカ諸国の富を収奪して帝国を維持するという政策が第一とされていて、そして20世紀に入って落ちぶれてくるときには、過去の栄光にすがってなんとかそれを維持しようという政策に傾倒したという風に言われていました。

 しかし史料を読むと、もちろんそういった部分もありますが、もっと前向きに、もっと先の利益のことを考えていたということが分かってきました。ようするに、獲得した利益をそのまま維持するという方向ではなく、獲得した利益を活かす方向で政策が考えられていたということです。それが解るまでは、イギリスの政策というのはどうせ昔の帝国を維持する、世界の覇権は渡さない、ということにのみ集中していたのだろうと思っていましたが、意外に東アジアに関しては支配的地位云々というより「フラットな関係を結んで、そして貿易をやりましょう」という考えだったようです。当時のイギリスは帝国主義というような言い方をされますが、そういう側面が見えてくるとその言い方が正しいのかわからなくなってきて、面白いものだなと思いました。人間は意識的にか無意識的にか、特定の枠組みを持って物事を見てしまうところがありますが、そこから外れて、視点を変えることができれば、新しい発見に至ることがあります。


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-では、面白いところとは逆に、研究をしていて難しいと思うのはどんなときですか。

古瀬難しい......そうだなあ、もう全部難しいですよね。外国語を扱うので、言葉の意味を正確に捉えられているのか、というところがあります。どの分野でも、外国語を扱う分野はそうだと思うのですが日本語に翻訳するとやっぱり意味がずれてきます。表しきれない単語が沢山出てきて。同じ英語で話していても、イギリス人の外交官たちと日本人の外交官たちでは微妙にずれているところがあるんです。例えば「cooperation」という単語。日本語でどういう意味かと聞けば、「"協調外交"の"協調"ですよね?」って言われます。でもイギリス人が使っている意味とは微妙に異なります。だから日本語でそのまま訳してもイギリス人が使っているその単語の考え方、表し方というのはそう簡単には再現できないという......。自分は正確にこの政治家たちの言葉を捉えられているのかどうか、ということを考えると、論文を書いた後もずっと何とも言えない気持ちになります。

 あとは、実証研究を経た上で、どういう国家間関係や国際関係の法則があるのかという理論的な話に繋げていくのは難しいところだと思っています。そしてそれをどう授業で教えていくのか。これもなかなか難しいですね。

-今後の目標はありますか。

古瀬まずは目の前の仕事をひとつずつやる、これに尽きます(笑)現在の研究対象は1920年代ですが、もっと後の、もっと深刻になってくる時代も対象にしていく予定はあります。東アジアでは日中戦争が起こって、その後は日米開戦もありますよね、そこになぜ至ったのかというところを。今の研究の延長線上です。東アジアにおける近代から現代への流れというものを自分なりに、まああくまでもイギリスの視点からということで、まとめられればいいかなと思っています。



研究者情報



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人文学部 法律経済学科

准教授 古瀬 啓之(Furuse,Hiroyuki)

専門分野: 外交史、外交構想、東アジア国際政治史

現在の研究課題: 両大戦間期におけるイギリスの東アジア政策

【参考】
人文学部HP https://www.human.mie-u.ac.jp/
教員紹介ページ(古瀬 啓之) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/2591.html