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日本におけるよい医療面接

2016.4. 1

インタビュアー:広報室

今回は、大学院医学系研究科臨床医学系講座家庭医療学分野・教授、医学部附属病院総合診療科・科長の竹村洋典(たけむら ようすけ)教授にインタビュー取材を行いました。

写真:竹村先生

―なぜ医者の道を選ばれたのでしょうか?

竹村高校生の時に、自分の進路を決定するのは難しく、最初は早稲田大学の理工学部に入学しました。しかし、無機質なことに気性があわず、もっと人間臭い環境で、人の面白さに触れ、人のために役に立ちたいと思い、医学部を目指しました。

―その中でも総合診療科医ですが?

ここで少し言葉の整理をしますが、日本では「総合診療医」で、世界では「家庭医」と呼ばれています。そうそう、総合診療医を目指したのは、やはり、私の気持ちの根底にある「人間臭さ」がこの診療科にはあるからでしょう。あと、日本ではほぼ前人未到の分野であったことも理由かもしれません。
患者さんは、不安を抱えながら診察に来られます。やっと辿り着いた診察室で、その患者さんが診察に満足しなければ、その方は他の医者にかかり、満足できるまでいろいろな医者にかかり続けるかもしれません。それはいけない。私は、患者さんの話を聞かせていただき、そのニーズを知り、パターン化できない個々の患者さんの事例にあった情報を提供し、患者さんのニーズと医者としての見解に「合点」があい、お互いに納得して満足してもらいたいのです。
例えば、数日間、咳をしている患者さんが来られたとします。医者は、風邪と診断するとします。しかし、患者さんは、大学病院に来ているのですから、「もしかしたら、肺炎では・・・?」「家族に結核患者がいるから、結核では・・・?」と不安に思って来ているのかもしれません。その場合、患者さんは、X線写真を撮り肺に影がないかどうかなどの検査をしてほしいのかもしれせん。つまり、この患者さんのニーズは、X線撮影なのです。このニーズを医師が聞き出さなければ、患者さんはずっといろいろな病院を訪れることになります。患者さんにただ迎合するのではなく、患者さんと医者が一緒に解決に向けてあゆみより、お互いに合点があるように納得できたときに満足できます。患者中心でお互いに満足できるようにするのが総合診療医の役割です。

―竹村先生の研究テーマには、「日本におけるよい医療面接とは」と「人材育成」が含まれています。まず、「日本におけるよい医療面接とは」について、教えてください。

竹村例えば患者を満足される医療面接を明らかにするために、総合診療科外来での診療をビデオ録画して、患者さんには患者満足度調査票の回答を依頼して満足度を測定し、患者満足度を向上させるような医療面接を明らかにする調査しました。これによると、「反映」と「是認」の使用が、有意に患者満足度を向上させることに有効であることが分かりました。

写真:竹村先生

―そもそも、医療面接とは、診察室で先生とお話をしている時のことでしょうか。

竹村あっ、そうですよ。診察室で患者さんが医者と話しをしていることです。研究になると、ついつい難しい言葉を使いがちです。
ここでいう「反映」とは、例えば、山田さんという患者さんが診察室にうつむいた顔で入ってこられたら、医者が「あれ、山田さん、今日は何か落ち込んでいるのですか?」と患者さんの気持ちを察したことを伝える言葉がけです。また「是認」は、その山田さんの症状が出現するに至った山田さんなりの解釈を否定せず、医者として受け止めて理解したことを患者さんに伝えることです。医師として診断して治療することはもちろん重要ですが、それだけでなく、医療面接ではもう1つの頭で患者さんの考えや期待、さらに心理社会的なバックグラウンドを認知することが患者満足度向上に有効です。

―人材育成について教えてください。

竹村上記のように、よくある診察においても調査を行い、科学的に正しいか否かを検証しております。このようなリサーチマインドを持った総合診療医をもっと育成できないかと思案していたところ、この上ないチャンスが舞い込みました。

―そのチャンスとは?

竹村1事業3億円の文部科学省「未来医療研究人材養成拠点形成事業」に我々の「三重地域総合診療網の全国・世界発信」が採択されました。それにより、例えば医学系研究科のコースに「総合診療のためのPhDコース」や「アカデミックGP教育コース」等を組み入れることができました。この事業では、総合診療の分野で研究をする、または総合診療の教育ができる指導医や教員を育成でき、このようなアカデミックな総合診療医が全国そして世界で活躍することになります。

―これらの活動を通して分かってきたことは何ですか?

竹村90以上の研究事業が動いていますが、例えば、地域での医療には「医師の包括性、連携度、患者中心性、近接性、継続性が高いと、患者の満足度が高く、また患者さんは医療資源をより適切に使うようになる」ということです。すなわち、患者さんに提供する医療が包括的にどのような症状の患者さんにも対応し、多職種連携により広がりがあり、患者の思いや期待を認知し、医療施設が患者さんに近い位置にあり、ずっと継続的にかかることができると、患者さんの満足につながるようです。また医療資源を適切に利用することとも関連があるようで、医師不足や医療の地域格差、救急医療の基盤低下、救急車の遠隔地搬送などの問題の解決にもつながるとも思います。

―竹村先生は医学部の教務委員長なんですよね。大学1年生の大学生に教務的なアドバイスをなさるお立場ですね。

竹村大学1年生では「医療と社会」という授業を担当しています。この授業では、学生が病院で実習をします。その実習の事前指導で口を酸っぱくして学生に伝えていることがあります。「医者ではなく、患者さんを見てきなさい」と。診察室での患者さんの表情など見、患者さんの立場で考え、患者さんの目線になって病院を見てきなさいと伝えています。
また、大学の4年生の冬になりますと、学生は臨床実習が始まります。その時も世界を引っ張っていく総合診療医に育ってもらいたいと思い、学生への指導も熱が入ります。

写真:竹村先生

―大学関係者から、竹村先生は医療器具等にもこだわりがあると聞きました。

竹村よくご存知ですね。
最近は、高度な検査や画像が目立ちますよね。でも高価な機械にたよらなくても、身体を診察して異常を判断できる医者を育てたいと思っています。

―すべては、患者さん目線からの発想なのですね。

竹村私は、人間臭いことが好きですから。医者として身に付けた知識を患者さんのニーズに「合点」あって、お互いに満足できるその瞬間にやりがいを感じます。

―お忙しい日々で、疲れることもあると思います。リラックス方法を教えてください。

竹村疲れ知らずでして・・・。

研究者情報


写真:竹村先生

医学系研究科 生命医科学専攻 臨床医学系講座
家庭医療学分野 教授
医学部附属病院総合診療科 科長
教授 竹村洋典(Takemura, Yousuke)

専門分野:家庭医療学、総合診療


【参考】
 医学系研究科HP http://www.medic.mie-u.ac.jp/

 家庭医療学・総合診療科HP http://www.medic.mie-u.ac.jp/soshin/

 教員紹介ページ(竹村洋典) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/2005.html