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建築音響学 ~音と建築の密接な関係~

2018.10. 3

建築音響学 ~音と建築の密接な関係~

工学研究科・准教授 寺島 貴根

寺島准教授の写真

建築棟の無響室にてゼミの学生とともに

反射音の存在と効果

日常生活において反射音の存在を意識することは殆どありませんが、室内で発せられた音は必ず反射音を伴って聴かれ、その効果による心理・生理的影響を受けているのです。この室内における反射音の効果は、私の専門である建築音響学という分野で研究されています。

室内では必ず反射音を聴いている

音の「響き」とは、物理的に言えば反射音の構造(耳に直接届く「直接音」に対する反射音の大きさ、遅れ時間や到来方向など)のことです。遅れ時間の小さい反射音は、直接音を補強して明瞭に聴こえることに寄与します。また長い残響は広くて閉じた空間で生じ、潤いのある豊かな音楽を演出してくれます。さらに側方から到来する反射音は「音の拡がり感」に寄与し、「音に包まれた」音楽体験を提供してくれます。一方、直接音から大きく遅れて分離して聴こえる反射音はエコーと呼ばれ、会話の明瞭性を損ねるなど邪魔な存在です。反射音はその構造によって有益にも有害にもなり得るのです。

空間の仕様と響き

室内の反射音の構造は、空間の仕様(室の大きさや形状、材質など)、つまり建築によってデザインすることができます。これを建築音響設計と言い、様々な建築空間に対してその用途や広さに応じて快適に使用できるよう施されるべきものです。

空間の仕様は響きを規定する

ホールの平面形状

図のようにホールの平面形状には大別して3つのタイプがあります。それぞれの響きは異なり、用途や客席収容数などに対して一長一短があります。

近年ヴィンヤードというアリーナ型を改良したタイプのホールが多く建てられるようになってきました。これは、客席のブロック毎に大きな段差を設け、客席に近い横の反射面を多数作り出すことにより、アリーナ型の客席配置の利点とシューボックス型の響きの良さを両立したものです。

典型的なホールの形状

響きの印象に対する視覚情報の影響

「ガ」と話している顔の動画に「バ」と言っている音声を組み合わせて視聴すると、「ガ」でも「バ」でもなく「ダ」と聞こえること(マガーク効果)はよく知られています。視聴覚の情報は脳で統合されてから処理されるので、聴覚情報に対する解釈や印象は必ずしも音の刺激だけでは決まらず、視覚情報の影響を受けることを示しています。そしてこれは室の内観と響きの関係にも当てはまると考えられます。

私の研究室では、様々な建築空間の内観と響きの組み合わせを、スクリーンやヘッドマウントディスプレイ、スピーカやヘッドホンを用いて実験室(無響室)で仮想的に再現し、視聴覚の主観印象を測定する実験を行い、空間の仕様など視覚的に捉える情報と室の響きに対する印象の関係を明らかにして、建築音響設計に生かそうとしています。たとえば、残響に乏しい空間であっても、内観意匠など建築的な工夫による視覚効果を用いて、より豊かな響きを感じさせる音楽空間を設計することが可能であると考えています。

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.40』(2018年6月発行)から抜粋したものです】