見えないものを看る力 ~患者に寄り添う看護学~

2015.10.14

見えないものを看る力 ~患者に寄り添う看護学~
医学部看護学科・准教授 竹内 佐智恵

竹内准教授の写真

手と目で護(まも)

看護は、その文字から「手と目を使って人を護る職業」と言われることがあります。どちらも人間のもつ感覚器のなかでも抜群に神経の多い器官です。
しかし、どんなに優れた器官を持ってしても、患者さんの症状が初期段階で発現が非常に軽微な場合や他の症状が影響して本来の症状を感じとることができない場合、弱みを見せたくない心理が働いている時などは、患者さんの本当の痛みや辛さといった情報を捉えられないこともあります。

説明図:手と目で護る

推理する看護

そのような場合に、看護者は病態学、解剖生理学の知識を活用して、「この衝撃の加わり方だとここに問題が生じる可能性がある」、「この位置に病巣があるとすれば、このような症状が出現する可能性がある」と推測しながら観察することで、微細な初期の症状を捉えます。見た目の症状だけで判断するのではなく、「見えないものを看る」ことも看護なのです。

イラスト:見えないものを看る

説明図:目には見えない痛みを知る

目には見えない痛みを知る

実際にもあった例ですが、フィギュアスケートの選手が試合直前の練習中に転倒し怪我をしました。公表された情報から受傷直後の状況を推測してみましょう。後ろ向きに滑走し、前を向いた瞬間に衝突の力が加わったために、相当強い力で転倒したと言えます。また衝撃が体内を通過するため、見た目以上に内臓への衝撃が加わっていることが考えられます。
このような状況推測ができれば、衝突した側から不意に声を掛けたり急に触れることは避けるべきだと判断できます。見た目の怪我だけに関心を払うのではなく、腹痛などの内臓の症状にも目を向けることが必要です。

関連図から見える患者さんの思い

私は患者さんの状況をより詳しく整理するために、侵襲※が加わった後の生体反応の時期や治療の副作用などの情報や時間の経過によって変化する相互作用の関連図を描いています。
上に挙げたフィギュアスケートの選手は、強い衝撃の打撲を負いました。そして侵襲後24時間以降72時間以内に患部の腫れや痛みが出てきていたと推定されます。この腫れは、血管内の循環血液量のうち水分が血管外に漏出するために起こる現象です。循環血液量の減少が持病に影響を及ぼすこともあります。転倒時に骨盤部に衝撃が加わったとするとエネルギーが体内を通過する際に腸管を刺激するために不快感もあったと予想されます。その後約1か月の間、体調がすぐれない状態が続いていたことも予想されます。
※侵襲...身体の内部環境を乱すような刺激のこと。

説明図:目には見えない痛みを知る
(図をクリックすると拡大表示します。)

このように詳細な様子を捉えることで、単に「大変だったね」という言葉以上に、「よくこの体験を乗り越えた」という尊敬の気持ちをこめた眼差しを患者さんに送ることができるでしょう。看護を行う上でも、関連図を看護師の間で有効に活用し合い、ケアの差を軽減することができます。患者に寄り添う看護を目指して、常に前進する姿勢を大切にしたいと思っています。

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.34』(2015年7月発行)から抜粋したものです】