細胞のアンテナと病気
  ~まだまだ謎がいっぱい!~

2017.4.10

細胞のアンテナと病気
  ~まだまだ謎がいっぱい!~
医学系研究科・教授 稲垣 昌樹

稲垣教授の写真

細胞がもつアンテナ?

アメーバや酵母などは1つの細胞が1つの生命体として存在し得ますが、人では1つの受精卵(1つの細胞)から数多くの細胞分裂や分化を通じて生じた多彩な約60兆個の細胞の集合体がようやく1つの生命体となります。60兆というと、日本の1年の国家予算に近い数字ですね。

このうち大多数の細胞は発生の初期胚の段階から成人したのちにおいても図1に示すようなアンテナを各細胞1本限定で持っています。このアンテナを専門用語で一次シリアまたは一次線毛と呼んでいます。

図1.細胞のアンテナ→一次シリア イラスト:えっくすくん

一次シリアの役割は?

1990年代に、一次シリアは細胞が集合してつくる心臓などの臓器の位置を決めていることが明らかとなりました。通常の人では左側にある心臓が右側に位置する様になる病気(図2)の原因が、この一次シリアの形成不全や機能の異常によるものだったのです。他にも一次シリアの形成不全や機能の異常はある種の腎臓の病気・肥満病・糖尿病・がんとの関連性が指摘されています。

図2.一次シリアの機能異常を原因とするさまざまな疾患

図3.一次シリアの新たな役割:増殖停止シグナルの発信

一次シリアは、細胞が増殖している間は出現せず、細胞が増殖停止や休止期になった際に観察されることが古くから知られていました。温故知新という表現が適切かどうかわかりませんが、我々は一次シリアの形成と退縮が直接、細胞の増殖スイッチとして働いていることを明らかにしました(図3)。

ちょっと専門的になりますが、増殖中の細胞でトリコプレイン(我々が発見して命名)という蛋白質を除去すると一次シリアの形成が観察され、その後、細胞の増殖が停止します。次にこのトリコプレイン除去細胞の一次シリアを人為的に破壊すると再びこの細胞は増殖を開始します。このことは、一次シリア形成そのものが細胞増殖のスイッチをOFFにしていることを示しています。(図4)現在、この一次シリアの増殖スイッチにかかわるトリコプレインをはじめとする多彩な蛋白質が形成するネットワークの全容の解明を進めています。

図4.一次シリアが増殖スイッチである証明

新しい一次シリアの役割の解明とその後

さて一次シリアの形成・機能異常によって生じる一部の腎臓病・肥満病・糖尿病・がんなどは我々の見出した「一次シリアの増殖停止スイッチ機能」の破綻が主原因の可能性があります。

今後、一次シリアの形成を制御できる低分子化合物の発見は、より深い一次シリアの細胞機能の理解や図2で示した様な、シリア病の治療の糸口になるかもしれません。

他に我々のラボは我々が発見した蛋白質群(トリコプレイン、アルバトロスはじめ77種)、新しい実験手法(抗リン酸化ペプチド抗体)、新しい遺伝子改変マウス群(組織・臓器特異的にその構成細胞が高頻度に分裂異常をきたすマウス群)を使ってオリジナリティーの高い研究を遂行したいと考えています。

我々のラボでは、誠実で好奇心に富む学生さんや研究者のご参加をお待ちしています。

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.37』(2017年1月発行)から抜粋したものです】