科学が挑戦!〜至高の音を求めて〜

2015.6. 1

科学が挑戦!?至高の音を求めて?   工学研究科・准教授 野呂 雄一

野呂准教授の写真

音質評価の新しい基準

皆さんは、身の回りの家電製品やOA機器の発する動作音が昔より静かになってきていると感じませんか?これまで価格や性能が重視されてきたこれらの製品も最近では、付加機能の充実やデザイン性の向上に加え、動作音を小さくすること(静音化対策)が求められるようになってきています。しかし、静音化対策もある程度進んでくると費用対効果の点から限界が訪れます。そうなると作り手が次に目を向けるのは音の質的な改善です。同じ音レベルでも、心なしか気にならない音、不快感の少ない音がありますよね。いわゆる「音のデザイン」がうまくいっている状態です。私の研究室では、そういった機械動作音の「質」を評価する手法について研究しています。

説明図:身の回りにある 音のデザイン

人間の耳を模した騒音計

説明図:騒音計と耳の内部構造

そもそも、音の大きさとはどのように測られるのでしょうか?音の正体は空気中を伝わる波動です。その波動の変化を物理量として測れば良いわけですが、周波数によって異なる耳の感度(聞こえ方)を考慮して音の大きさを評価しなければなりません。音を感じ取る観点のうち、大きさの感覚を「ラウドネス」といいます。このラウドネスに近い物理量を得るために一般の騒音計には人間の聴覚系(外耳、中耳、内耳、聴覚神経)の働きを単純にモデル化した回路が組み込まれています。また、さらに精度を高めたモデル化も考えられており、これらはJIS※やISO※といった国内外の規格で規定されています。
※JIS...日本工業規格、ISO...国際標準化機構

説明図:騒音計

ラウドネス以外の評価量

説明図:音を利用した「かゆみ」レベルの測定、歌唱音声の評価システムの開発

最初に述べたように、音の大きさだけが音の「質」を左右するわけではありません。甲高さや鈍さといった音量以外の様々な印象についても考慮する必要があります。しかし、静音化の次の課題である快音化を測定する方法には現在のところ決まったものがなく、最終的には、いわゆる「聞き比べ(試聴実験)」に頼らざるを得ない状況です。これには手間もコストもかかるため、分析結果をすぐに設計変更に活かしたい開発現場では使いがたいものとなっています。そこで、当研究室では数々の実験によってしか得られない評価量(心理的尺度)を人間の心理量を模したラウドネス、シャープネス、ラフネス※等の測定値から予測できる手法について研究を進めています。評価量が容易に算出できるようになれば、製品開発の途中であっても対策手法を効率よく取捨選択できるようになります。皆さんが日常生活の中で、科学的に立証された「心地よい音」を実感できる日もそう遠くはないはずです。
※シャープネス...音の鋭さ、ラフネス...音の粗さ

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.31』(2014年1月発行)から抜粋したものです】