重点リサーチセンター
次世代漁業生産リサーチセンター
Research Center for Innovative Technologies for Next-generation Fisheries研究内容
今、我が国の沿岸漁業では、沿岸域の高水温化や貧栄養化等海域環境の変化によって生産量の減少や品質の低下が進行しています。沿岸漁業は漁村地域の重要な産業であり、そこから生産される多様な水産物は観光業や加工業等の産業の発展や、我が国の食文化を守るためにも不可欠です。このリサーチセンターでは、環境変動に柔軟に適応できる革新的な生産技術を開発し、沿岸漁業の生産現場への導入を行うことで、次世代でも継続できる漁業の構築を目指します。
この取り組みにあたっては、「伊勢志摩海洋教育研究アライアンス※」メンバー機関等地域機関との連携を進め、ニーズに対応した革新的な技術を継続して生み出すことができるセンターを目指します。また、厳しい漁業生産の現状を受けて、漁業者や漁業団体、自治体からの技術相談にワンストップで対応できる組織とします。
沿岸漁業は多様な漁業種類からなり、その生産技術や水産物も多様であることから、リサーチセンターにおいては対象ごとに研究展開ユニットを形成し、効率的に成果を創出することができる組織運営を行います。以下に、活動している研究展開ユニットを紹介します。
※伊勢志摩地域に集積する大学・高専、自治体、民間の海洋・水産関係教育研究機関が共同して漁業生産技術の高度化や海洋教育等による人材育成等を行うための連携体（令和4年10月発足）
藻類養殖ユニット
伊勢志摩地域で盛んな藻類養殖ですが、高水温化等の環境変動の影響を直接受け、生産や品質が不安定になっています。このため、環境変動の下でも適応できる藻類養殖技術の開発を行い、品質向上と安定生産を目指します。ここでは、三重県が国内養殖生産量の約70％を占める青さノリ（ヒトエグサ）を重点的な対象とします。
青さノリ養殖の様子
青さノリは秋～初春に養殖され、収穫期である1月～3月の海岸は緑の絨毯を敷き詰めたような風景となり、地域の風物詩となっています。青さノリの品質は、漁場の水温や栄養塩濃度等の影響を強く受けつつ、系統の違いにも影響を受けていると推察されていますが実態は不明であり、ICTを用いた青さノリの生育状況のリアルタイム把握、養殖漁場の環境・系統の違いによる品質への影響の把握を行い、三重県の青さノリの生産の安定化と品質の向上を進めます。
青さノリ（ヒトエグサ）の葉体
貝類ユニット
伊勢志摩地域は真珠養殖や垂下式カキ養殖の発祥の地であり、生産が盛んな貝類増養殖における安定生産と品質向上とを目指します。ここでは、地域ブランドとして有名なマガキと、地域から資源再生の要望が強いアサリを重点的な対象とします。
伊勢志摩地域のマガキは、的矢ガキや浦村ガキ等のブランドとして評価が高く、秋～初春に多くの観光客がその味覚を求めてこの地を訪れ、地域経済にとって重要な産品となっていますが、近年は生産が不安定となっています。アサリについても、かつては伊勢湾で多く漁獲されていましたが、近年は漁獲量が大きく減少しており、幻の貝になりつつあります。ここでは、マガキやアサリの安定生産を目指し、新品種の導入や新しい養殖技術の開発を進めます。
需要が高まっている養殖マガキ
地域沿岸資源ユニット
沿岸漁業で漁獲される水産物の付加価値向上を進めるため、高品質水産物の効率的・安定的生産技術の開発を行います。当面の対象として、地域の重要な水産資源であるイセエビとシラスを取り上げ、重点的な取り組みを実施します。
三重県の地名を冠するイセエビの三重県における漁獲量は、全国的にも有数の多さを誇りますが、近年は漁獲量が大きく減少し、その要因として生息場所として重要な藻場の衰退が考えられています。イセエビの漁獲量の減少は地域経済にとっても影響が大きいことから、イセエビの安定生産に貢献できる技術を検討するとともに、生産されるイセエビの高品質化を進めます。
漁獲量の減少が危惧されるイセエビ
（写真は水揚げされたイセエビ）
伊勢湾口海域で漁獲されているシラス（イワシ等の稚仔魚）も近年は漁獲が不安定になっています。水揚げされるシラスの多くは釜揚げや、それを乾燥させたちりめんに加工されて販売されていますが、より付加価値が高い生シラスの流通の増加が求められています。生シラスの流通を増やすには高度な冷凍技術の導入が不可欠であり、漁業者と連携してシラスの冷凍技術の開発を進めます。
期待される高品質なシラスの提供