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精神に障がいを抱えながら子育てする親と子どもへの支援

活動の概要
精神に障がいを抱える親と暮らす子どもは、親の示す症状(妄想や幻聴による奇異な行動、抑うつ、意欲や関心の低下)などにさらされ、その影響を受けながら生活しているが、偏見などから誰にも相談することができずに一人抱え込んでいることが多い。そのような子どもがSOSを発することができる環境づくりが必要と考え、自身でも『親&子どものサポートを考える会』を立ち上げ、こうした子どもの現状を伝える講演会を開催したり、研究結果を子どもの身近に存在し、支援する立場にある学校の教員・地域の保健師・民生委員などに伝達する活動に取り組んできた。しかしながら、こうした子どもへの関心は未だ乏しく、親の精神症状によって家庭内で虐待的な状況が生じていたとしても、病気の親のことは人に言ってはいけないと感じ、自らSOSを発しない子どもの存在は気づかれにくい。2012年1月、精神障がいの母親による子どもの刺殺事件が生じたが、このような事件を未然に防ぐためにも、周りの大人がこうした状況に気づく体制・子どもがSOSを発し支援を求めやすい環境作りが必要と考える。
私たちが実践してきたこれまでの研究で、精神障がいの親と暮らす子どもへの影響は、成人する過程で、“複雑性PTSD"として発展し、自信が持てない、人とは距離を置いて接するなど、生活の幅を狭め、生きづらさにつながっていくことが明らかとなった。こうした子どもの生きづらさを少しでも軽減できるように、幼少期・思春期といった早期の段階からこうした子どもへの支援・介入が必要であると考える。
精神に障がいを持つ養育者は、援助を必要としても子どもの養育を奪われることを恐れて専門家の援助を受けないことが多い1)と言われ、障がいに加えて育児にも不安を抱えながら生活していることが考えられる。そのため、今回の研究および活動では、障害を持ちながら子育てしている親とその子どもに着目し、親子の問でどんなやり取りが交わされているのかその実態を調査しながら、親の子育てに関する問題に対処し、こうした親子が必要とする支援内容を明らかにすることを目的とする。親の育児不安に対しては、共同実施を行うNPO法人女性と子どものヘルプラインMIEが、県から委託を受けているDV被害者メンタルケア普及事業として実施する“子育て支援プログラム" (心理教育プログラム「びーらぶ」・行動療法プログラム「CARE」) への参加を促すなど共同実施者と連携を取りながら対応していく。また、親子の実態調査で明らかとなったことを、子どもの身近に存在し支援に携わる者や広く一般市民に伝えることで、こうした子どもへの理解を図り、子どもがSOSを発しやすい環境づくりに貢献していく。これらの活動を通じて、子どもが支援を求めやすくなる環境を作り、子どもの精神的支援を行うことは、トラウマ等への対応にも繋がり、発達面においても子どもの成長を促進させることができると考える。
1)下山千景:統合失調症慢性期女性患者の家族の問題とその対応,精神科治療学, 20 (6), 581 -586, 2005
2) Mell,I., Johansen,R: The invisible children -When mother 01' father have schizophrenia ,Tidssle.Nor.Laegeforen., 122, 2299 -2302, 2002

           → 平成24年度活動状況報告書