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大学・市民連携による持続的地域文化運動の構築~奧熊野山村古文書の調査と活用~

【活動の概要】
<背景と必要性>
世界遺産・熊野古道が通る熊野市域は、習俗や信仰などの点で特有の歴史を有し、優れた文化財も数多い。特に奈良・和歌山県境に近い育生地区は、山村の生活を現在まで留める極めて個性的な地域で、江戸時代初期の文書を含む貴重な古文書が残されてもいる。
過去に熊野市史の編纂過程で部分的に整理は施されたものの、未整理分が少なくなく、また専門的・学術的な調査ではなかったためその内容・全貌は掴めておらず、一般市民が理解できるような成果も出されていない。当地に古文書を扱える行政専門職は不在で、2007年に地元市民により「熊野古文書同好会」が結成され、熱心に活動しているが、古文書の取り扱い方、分析の仕方に習熟してはおらず、学術的な指導を依頼されている。
塚本研究室では2001年以来、東紀州地域での文化財調査を市民と共に行ってきており、1万3千点に及ぶ尾鷲組大庄屋文書の整理・報告書刊行のほか、三重大学地域貢献事業支援助成を得て、2008~09年度には熊野市大泊町の若山家に残る善根宿納札の調査と展示(当該史料は後に三重県指定文化財に登録)、2010年度には熊野市五郷町かやのき資料館収蔵の湯谷文書の調査・報告書作成、2011~12年度には熊野歴史民俗資料館所蔵文書の調査及び報告会の開催と、活動を積み重ねて来ている。2013年3月には熊野市民大学として約70名の市民に調査成果を広く伝え、好評であった。資料館で今後展示に活用できるように、説明資料等も整備している。また育生町粉所区文書の予備調査を行い、区民の皆さんとの交流を図り、喜んで頂いた。それらの様子は新聞各紙に大きく報道された。
<活動の目的と内容>
地元では、官民ともに引き続き三重大による調査とその活用を求める声が非常に強い。 本計画は、そうした地元の期待に応え、大学(教員・学生)と市民社会、行政と連携した文化活動を持続させ、三重大学の地域貢献をより確固として定着させることを目的とする。 年に2回実施の合宿調査では毎回十数名の学生が参加し、調査中の講習のほか、古文書を撮影して授業の教材にも用いている。何より文化財に直接触れる貴重な機会であり、地元社会人と交流することによる教育的効果も、副次的な目的である。
年に2回の合同集中調査が主たる活動となるが、合わせて随時古文書の解読・取り扱い方の指導を行う。また育生地区を中心に住民との交流を深め、当地に残された古文書の文化財的な価値を伝えていく。調査が一段落した際に、熊野市と連携して報告会を実施する。熊野古文書同好会では、古文書の面白さを紹介するコラムを地元新聞に連載することを計画しており、依頼に基づき、その内容の指導も行う。

      → 平成25年度活動状況報告書