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大学・市民連携による持続的地域文化運動の構築~熊野市歴史民俗資料館架蔵古文書の調査と活用Ⅱ~

活動の概要
世界遺産・熊野古道が通る熊野市域は、極めて個性的な歴史を有し、関連する文化財も数多い。なかでも熊野市立歴史民俗資料館には、名だたる郷土史家や歴代の館長らの尽力により集められた古文書類が数万点の規模で架蔵され、林業や漁業などこの地特有の生業や生活の様相、熊野古道を行き来する巡礼たちの実態等を知る上で、重要な手掛かりになる貴重な史料群である。
だが、同館には古文書を扱う専門スタッフが不在のため十分な整理の手が及ばず、目録もほとんど整備されてはいない。そのため、せっかくの文化財が活用されることのないまま、眠ってしまっている。
塚本研究室では2001年以来、東紀州地域での文化財調査を市民と共に行ってきており、1万3千点に及ぶ尾鷲組大庄屋文書の整理・報告書刊行のほか、2008~09年度には三重大学地域貢献事業支援助成を得て、熊野市大泊町の若山家に残る善根宿納札の調査を地元市民団体・熊野古文書同好会と共同で行った。熊野市教育委員会及び三重県立熊野古道センターの助成金も得て市民と共に報告書を編集・刊行したほか、三重県立博物館の移動展示の一部を担当した。現地での調査報告会は多数の聴衆を集め、地元新聞等でも大きく報道された。なお、当該史料は調査終了後に熊野市文化財に、昨年度末には三重県指定文化財に登録されている(熊野市では報告書の増刷に向けて予算化の作業を進めている)。
この継続事業として、2010年度には熊野市五郷町かやのき資料館に収蔵される湯谷文書の調査を手掛け、千点余の古文書の整理を終えて報告書を作成した。さらに2011年度に開始した熊野歴史民俗資料館所蔵文書調査では、2度の集中調査で延べ112名の参加を得、最終日には成果の中間報告会を行った。その様子は地元の新聞に大きく報道されると共に、今後の調査の発展に期待する声が多く寄せられた。
地元では、官民とも、引き続き三重大による文化財調査とその活用を求める声が非常に強い。三重大としても学術的な意義のみではなく、地域文化運動を継続させることによる社会貢献となる。年に2回実施の合宿調査では毎回十数名の学生が参加し、調査中の講習のほか、古文書を撮影して授業の教材にも用いている。何より文化財に直接触れる貴重な機会であり、地元社会人と交流することによる教育的効果も極めて大きい。

          → 平成24年度活動状況報告書