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02_「地域の海をよく知る地域の人が地域の子どもたちに海を教える」〜三重県南部における地域産業振興と結びつけた自然資源を活用する地域人材育成事業

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

【背景,必要性,目的】

「氷河と砂漠以外のすべての自然環境がある(植野めぐみ談)」と言われるほど,三重県南部には豊かな自然環境がある.この自然環境を活用した,アウトドア・観光事業,エコツーリズムなどの自然啓発活動を三重県,国内,インバウンドとして海外からのアウトドアアクティビティーに匹敵するポテンシャルがありながら,コース認定,整備,ガイド配置,関連する宿泊施設やモビリティなど,地域が連携したしくみが未発達である(たとえば,「観光立国の正体」 藻谷浩介・山田桂一郎).近年,三重県は県内で「三重まるごと自然体験ネットワーク」を形成し,自然体験ガイド,観光公社,市町などの連携ネットワークを構成した.また,三重県とモンベル社と包括連携を結び,SEA TO SUMMIT, JAPAN ECO TRAKなど連携事業を進めている.自然ガイドを生業とする若手事業者「南三重モビリティの会」「熊野ガイド協会」などの自主組織を作り,三重県南部で連携する機運が生まれているが,人材不足の状況がある.漁業・林業といった三重県南部の地域産業の振興と結びつけた,自然資源を活用する地域人材育成が求められている.

三重大学生物資源学部共生環境学科では,「自然環境リテラシー学」という実践,実感型のカリキュラムを平成30年度より開始した.これは,三重の豊かな自然環境を総合的に理解する能力を身につけ,理解したことを地域内外の人々にわかりやすく正しく伝達・魅力を発信し、自然環境を楽しみ,守り,持続的に保護していく,責任のある行動をとれる「自然環境リテラシー」を身につけた人材育成を目的とする.この実習は,地域において,地域の方々の協力の下,プロの自然環境ガイドの方々と共に,安全・危機管理を徹底して実施,平成31年度は47名の学生が,尾鷲市,南伊勢町の協力の下で実施し,地域の自然や地域のことを,体験・実感の中で学んだ.

その後,自然環境リテラシー学受講学生は,南伊勢町五ヶ所湾での海岸清掃,三重まるごと自然体験フェアへ出展,SEA TO SUMMITへのチーム参加,学生による尾鷲市職員へのカヤック体験講座の実施,学生と地域ガイドのDMOの勉強会など,地域での諸活動を展開するに至っている.大学の実習で学んだ学生が,地域貢献活動に参画する状況が生まれている.

しかし,地域人材育成が地域の急務の課題である.地域において,豊かな自然環境があるにもかかわらず,地域の小学生,中学生,高校生は,ほとんどその自然の中での体験や学習をできていない.そこには,小中高校の教諭が,自ら自然の中での体験・実感・知識が希薄で,自然のことを体験的実感的に教えることができない現状がある.子どもたちの親世代も,市町の役場職員も,自然のことを体験的実感的に教えることができない状況がある.日常的に海に出て漁業を営む漁師も,後継者不足の状況にあり,海のこと,自然のこと,海洋資源のことを伝える世代がおらず,また,自然のことを体験的実感的に教えることができない状況にある.

このような状況を受け,「地域の海をよく知る地域の人が地域の子どもたちに海を教える」,地域の産業振興と結びつけた自然資源を活用する地域人材育成を目的として,三重大学「自然環境リテラシー学」を学んだ三重大学学生とともに,市町,および,地域の漁業従事者とが連携して行う事業の展開を申請する.令和1年度は,尾鷲市において宮の上小学校と連携した八鬼山での森林でのリテラシーを学ぶ連携実習,南伊勢町の小中学生を対象としたふるさと教育との連携,明和町観光商社との地域振興を図るための満月屋台や体験プログラム開発,多気町での自転車を使ったイベント(ヤマジテ)への協力,尾鷲市須賀利町渚泊推進協議会との体験プログラム開発などの取り組みを行い,成果が出ている.

本事業は,自然豊かな三重県南部において,その自然を活用したアウトドア・産業の創出・振興を目指し,また,漁業などの地域産業の維持・継承・発展に寄与し,地域の発展・活性化につながる地域貢献事業である.また,三重大学において実施する「自然環境リテラシー学」で学んだ大学生が,自然体験型の地域実習を,地域の小中高校教諭,市町役場の観光関係職員などに学んだこと,体験を伝えていく形態で,大学の実習が地域貢献に結びつける事業である.

2.活動地域と内容

【活動する地域】

令和2年度は,尾鷲市,紀北町,南伊勢町,を活動地域とする.南伊勢町では,自然体験ツアーなどを実施している,サニーコーストカヤックス(代表 本橋洋一氏),漁業・養殖業を営む有限会社友栄水産(代表 橋本純氏),および,南伊勢町役場(小山巧町長,南伊勢町商工観光課 山本高弘課長,弓場悟係長)と連携してすすめる.令和2年度は,南伊勢町においても関連予算を計上していただくことが決まっている.尾鷲市・紀北町では,自然体験ツアーなどを実施している小山ハウス(代表 森田渉氏),尾鷲市商工観光課(芝山有朋参事)と連携してすすめる.

【内容】

●尾鷲市との連携 "森の国"尾鷲の自然環境人材育成事業

  • (1)体験プログラム開発・実施の核となる「大学生」育成のための「自然環境リテラシー学」の連携実施
    体験プログラムの開発・実施は,尾鷲の自然環境を知り,知らせる「大学生」が核となって実施するのが最も効果的である(宮ノ上小学校モデルなど).そのため,三重大学の「自然環境リテラシー学」実習を尾鷲市・三重大学連携して行う.
    • 尾鷲エリアにおける実習(2020年8月下旬~4泊5日)の実施(紀北町とも連携)
    • 森林に行く実習プログラムの実施.森林の役割の理解,山と海のつながりの理解.天満浦~大曽根浦~八鬼山
    • 森林レクチャー,または,森林ワークショップの実施.地元の森林・林業関係者(尾鷲森林組合,林業家,製材業者など)との合同勉強回などの実施.
    • 海から山・森林を理解する.大渡鹿海岸の流木から尾鷲の木を知る.魚付林の調査をシーカヤックで行う,など.
    • 自然を実感する体験プログラムの開発ワークショップを尾鷲市職員・地元関係者とともに行う.
  • (2)"森の国の尾鷲キッズ"育成~「山育・木育・おわせいく」子どもたちの自然体験プログラム開発
    上記,自然環境リテラシー学で学んだ大学生が中心となって,尾鷲の子どもたちに,その体験や実感をフィードバックしていく.開発した体験プログラムを,市内小中学校で実施する.この場合,「山育・木育・おわせいく~宮ノ上小学校モデル」を参考にして,これを広げていくような展開を想定する.
    • 「山育・木育・おわせいく(仮称)」(2020年12月~1月頃,尾鷲市内の山林で実施).尾鷲の小学生・中学生・高校生を対象としたプログラムの実施
    • 地元の森林・林業関係者(尾鷲森林組合,林業家,製材業者など),山岳自然ガイドとともに,東紀州地域,尾鷲の自然(山)・森林・林業の現場を知る実習を行う.
    • 熊野古道ハイキング,マウンテントレイル,ボルダリングなど,山での自然アクティビティと,これを担う人材育成を行う
    • 山や森林での,リスクマネジメント,クライシスマネジメントを学ぶ.
    • 小中学校の先生を対象としたワークショップ・プログラムの実施
    • 小学生・中学生教諭・高校教諭の教員ネットワークとの対話・教育委員会や校長会との対話の実施
  • (3)"森の国の尾鷲へ"~観光客誘致のための自然体験プログラム開発
    • 尾鷲の地に,三重県,全国,海外から観光客を誘致するための体験プログラムの開発を,自然環境リテラシー学参加の大学生と,地元の自然環境ガイド,林業関係者,とともに行う.
    • 体験プログラムの広報・宣伝を,様々な形態で行う.
    • 三重県総合博物館Miemuにおける連携イベントの実施.2019年12月に実施する自然環境リテラシー学の展示企画などのような,尾鷲市と連携した,一般市民向けの,尾鷲の自然の広報,自然のアクティビティの宣伝を行う.
    • 三重まるごと自然フェアなどの企画を通した広報・宣伝を連携して行う.
    • 映像コンテンツを整備し,尾鷲内外・海外への広報・宣伝を展開する

●紀北町との連携 "森・海・清流の国~紀北町"の自然環境人材育成事業

  • (1)体験プログラム開発・実施の核となる「大学生」育成のための「自然環境リテラシー学」の連携実施
    体験プログラムの開発・実施は,紀北町の自然環境を知り,知らせる「大学生」が核となって実施するのが最も効果的である.そのため,三重大学の「自然環境リテラシー学」実習を紀北町・三重大学連携して行う.
    • 紀北町エリアにおける実習(2020年8月下旬~4泊5日)の実施(尾鷲市とも連携)
    • 小山浦での実習を通した海の体験・実感
    • 海から陸を見ることで得られる体験・実感.
    • 銚子川でのアクティビティを通した,自然を実感する体験プログラムの開発ワークショップを紀北町職員・地元関係者とともに行う.
  • (2)"森・海・清流の国~紀北町"キッズの育成~子どもたちの自然体験プログラム開発
    上記,自然環境リテラシー学で学んだ大学生が中心となって,紀北の子どもたちに,その体験や実感をフィードバックしていく.開発した体験プログラムを,市内小中学校で実施する.
    • 「森・海・清流の国~紀北町」を知る小学生・中学生を対象としたプログラムの開発
    • 地元の森林・林業・自然ガイドとともに,紀北町の自然を知る体験を実施する.
    • 自然の中での,リスクマネジメント,クライシスマネジメントを学ぶ.
    • 小中学校の先生を対象としたワークショップ,教員ネットワークとの対話・教育委員会や校長会との対話の実施
    • 子供版SEA TO SUMMITプログラムの実施計画を作る.
  • (3)森・海・清流の国~紀北町"~観光客誘致のための広告・宣伝企画
    • "森・海・清流の国~紀北町"に,三重県,全国,海外から観光客を誘致するための体験プログラムの開発を,地元の小中学生,地元の自然環境ガイド・関係者,自然環境リテラシー学参加の大学生ととともに行う.
    • 体験プログラムの広報・宣伝を,様々な形態で行う.
    • 三重県総合博物館Miemuにおける連携イベントの実施(2019年12月に実施),三重まるごと自然フェアなどの企画などを通して,一般市民向けの,自然の広報,自然のアクティビティの宣伝を行う.
    • 映像コンテンツを整備し,内外・海外への広報・宣伝を展開する

●南伊勢町との連携 「"海の国~南伊勢町"の自然環境活用人材育成」

  • (1)自然環境活用人材育成の核となる「大学生」育成のための「自然環境リテラシー学」の連携実施
    地域における自然環境活用人材育成のために,南伊勢町の自然環境を知り,知らせる「大学生」が核となって実施するのが最も効果的である.そのため,三重大学の「自然環境リテラシー学」実習を南伊勢町・三重大学連携して実施する.
    • 南伊勢エリアにおける実習(2020年9月上旬~4泊5日)の実施.
    • 宿田曽浦での実習を通した海の体験・実感
    • 南伊勢町の魅力を知る公開レクチャーの実施
    • 南伊勢町の小中学生・社会人を対象とした,カヤック体験プログラムの実施.
    • 自然を実感する体験プログラムの開発ワークショップを行う.
  • (2)"海の国~南伊勢町"キッズの育成~「ふるさと教育」と連動した,子ども自然体験プログラムの実施
    上記,自然環境リテラシー学で学んだ大学生が中心となって,南伊勢町の子どもたちに,その体験や実感をフィードバックしていくとりくみを,「ふるさと教育」と連動して行う.南伊勢町教育委員会と検討しながら,体験講座,座学講座,体験プログラムを,市内小中学校で実施する
    • 南伊勢町の自然環境のなりたち,魅力,見所などを学ぶ講座
    • 自然環境を知り,知らせ,考え,話し合う講座
    • 自然の中での,リスクマネジメント,クライシスマネジメントを学ぶ実践型講座(ライフジャケットの付け方,危険生物のこと,海の事故を防ぐためのノウハウなど)
    • 小中学校の先生を対象としたワークショップ,教員ネットワークとの対話・教育委員会や校長会との対話の実施
  • (3)"海の国~南伊勢町"~観光客誘致のための広告・宣伝企画
    • "海の国~南伊勢町"に,三重県,全国,海外から観光客を誘致するための体験プログラムの開発を,地元の小中学生,地元の自然環境ガイド・関係者,自然環境リテラシー学参加の大学生ととともに行う.
    • 体験プログラムの広報・宣伝を,様々な形態で行う.
    • 三重県総合博物館Miemuにおける連携イベントの実施(2019年12月に実施),三重まるごと自然フェアなどの企画などを通して,一般市民向けの,自然の広報,自然のアクティビティの宣伝を行う.
    • 映像コンテンツを整備し,内外・海外への広報・宣伝を展開する.
  • (4)「地域の海をよく知る地域の人が地域の子どもたちに海を教える」プロジェクトの実施
    持続可能な地域づくりため,地元の海を知り尽くしている南伊勢町で漁業・水産業を営む漁師が,アウトドア事業にもとりくみ複合的な形態を可能とし,また,新たな次世代の漁師を育成していけるような「自然環境リテラシー+地元漁師連携プロジェクト」を,じっくり,ゆっくりと漁業・水産業関係者と対話しながらすすめ,次世代育成を進める.

→2020年度活動状況報告書