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02_桑名市適応指導教室における不登校の子どもへのキャリア教育

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

<本活動の背景>

「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(文部科学省)によると三重県において平成29年度の公立小中学校における長期欠席児童生徒数は2,980人で、小学校は972人、中学校は2,008人にのぼる。そのうち不登校を理由として30日以上欠席した児童生徒数は2,115人であり、平成27年度から平成28年にかけて110人増加(前年度比5.7%増)、平成28年から平成29年では84人増加(前年度比4.1%増)であることが報告されている(平成29年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」結果【三重県版】)。三重県の教育を考える上で、増加し続ける不登校に対する対応は取り組むべき重要な課題であるといえる。

文部科学省(2003年)は、不登校の解決の目標を児童生徒の将来的な社会的自立におき、不登校を「心の問題」としてのみとらえるのではなく、「進路の問題」としてとらえることの重要性を指摘している。不登校の個々の子どもの特性に応じたキャリア支援を実施していくことが求められているといえる。

<本活動の必要性>

桑名市ではこれまで生徒指導上の問題行動に対して、教育委員会と学校現場が連携しながら様々な施策を講じてきている。桑名市における1,000人あたりの不登校の出現率は、近年、横ばい状態であったが、平成28年度に小学校・中学校ともに、増加傾向に転じている。その対策としてスクールカウンセラ配置、スクールハートパートナーの派遣、スクールソーシャルワーカーの活用などに取り組み、教育相談体制の充実に努めてきた。また平成30年度より不登校の実態や要因を分析し、調査結果をもとに、新たな不登校を生まない学校作りのための施策に取り組んでいる。平成31年度から、三重大学(筆者)と桑名市の共同研究として不登校の未然防止研究を進めており、主に中学校での校内適応指導教室での支援を中心に実践研究、調査研究を展開している(令和2年度も共同研究として継続予定)。

不登校の現状分析に取り組む中で、新たな課題として不登校の子どもの進路の問題が浮かび上がってきた。平成30年度は桑名市適応指導教室に小中学校あわせて40名弱の子どもが通学している。いったん不登校状態に陥った場合、学校復帰することが難しいケースも多く、原籍校だけでなく適応指導教室においても、通級する子どもたちに対して進学や将来の職業に向けての意識を向上させていくための関わりが求められている。社会的自立のための効果的、個別的なキャリア教育を実施することが課題といえよう。

<本研究の目的>

令和元年度は、個別の指導計画作成、キャリアに関する授業実践を行い、一定の成果をあげることができた。しかしより実効力のあるキャリア教育を展開するためには継続的に、年間の見通しを持った取り組みを行うことが必要である。よって2年は1年目の取り組みをさらに発展させる形で活動を継続していく。

2.活動地域と内容

桑名市適応指導教室においてアセスメントに基づく個別の指導計画作成、キャリア教育の授業実践、適応指導教室でのキャリア教育のモデルプランの作成を行う予定である。

実践1(キャリアに関する個別の指導計画作成):1年目は大学教員と適応指導教室指導員で個別の指導計画のためのワークシートを作成し、指導員が作成した個別の指導計画に対して大学教員が助言しながら見直していった。2年目は、教育学部教育心理学専攻の学生(学校臨床心理学研究室の3、4年生)が参与観察や個々の生徒に対する調査から適応指導教室の通級生に関する情報を収集し、収集した情報をもとに大学教員(筆者)と適応指導教室指導員が協議しながら個別の指導計画を作成する。なお学生が参与観察や調査を行うにあたっては、大学教員が学生へ十分な事前指導を行い、必ず観察や調査の場に同席することとする。

実践2(キャリアに関する授業実践):1年目は学生が主体となって、通級生が将来の夢を絵や写真で表現する未来マップ作りの授業を、適応指導教室の通級生に対して実施し、通級生にも大変好評であった。2年目は未来マップ作成につなげ、通級生の進路意識を醸成するためのワークシートをまず作成し1学期に実施する。そして2学期に未来マップの授業実施、3学期に未来マップから具体的な進路実現に向けてのステップを考える進路学習を実践する、という計3回の授業実践を計画している。この授業実践については、教育心理学専攻(学校臨床心理学研究室所属)の学生が主体となって、指導案作成、教材の準備、授業実践を行う。指導案作成にあたっては、子どもの実態や授業の進め方について適応指導教室の指導員から指導助言をもらい、キャリア発達に関する専門的な観点から大学教育が学生に指導助言を行う。学生が学びの中で身に着けた専門的知見を活かし、なおかつ子どもたちにとっても有益な実践を展開できるようにする。さらに実践の様子については、適応指導教室で通信を作成し、在籍校や保護者に対して広報を行っていく。

実践3(適応指導教室におけるキャリア教育のモデルプラン作成):実践したキャリア教育実践から、さらに発展させた継続的な見通しを持ったモデルプランを大学教員が作成し、市内全域の小中学校に配布する。適応指導教室でのキャリア教育の在り方を理解してもらうと同時に、在籍校、家庭、適応指導教室が連携しながらキャリア支援を実践する一助として活用してもらう。

3.期待される活動成果等

これまで明確な方向性をもって取り組まれていなかった適応指導教室に通級する児童生徒を対象にキャリアに関する授業実践を展開することで、不登校の子どもの社会的自立を促進することができる。

専門性をもった大学教員が児童生徒のアセスメントを行い、個別の指導計画を作成することで、適応指導教室指導員の子ども理解が深化し、指導員の専門性の向上に寄与できる。またこの活動に参加予定の学生はいずれも学校臨床心理学を大学で専門的に学んでおり、将来は教員を志している学生である。学生にとっては大学で学んだことを教育現場に活用していくことで理論と実践の往還が可能であり、教員としての資質を高めていくことが期待できる。

不登校児童生徒に対するキャリア教育のモデルプランをまとめ、市内の小中学校に配布することによって原籍校教員、保護者間で連携しながらのキャリア支援の展開が可能となる。

→2020年度活動状況報告書