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地域経済波及効果から見た海洋深層水事業を軸とする尾鷲市振興戦略

 尾鷲市では地域資源を活用した振興策として、海洋深層水を核とした地域活性化・振興策を推進しています(2006年4月より取水・分水を開始)。海洋深層水は、水産加工、飲料、麺類、キノコ栽培、飲食店など幅広く利用されていますが、その中でも特に深層水を原材料として生産活動を行う主要な企業として、尾鷲名水㈱(ミネラルウォーターや塩の製造)、おわせ深層水しお学舎㈱(塩・にがりの製造)、㈱真栄水産設備(クエの陸上養殖)の3社が尾鷲市内に誘致され操業を開始しています。また今後のさらなる深層水関連企業の誘致を、尾鷲市新産業創造課が中心となって推進しているところです。
 海洋深層水事業に関しては、技術的側面を中心としてその利用可能性が尾鷲市に限らず活発に議論されてきたものの、関連事業に伴う地域の生産、所得、雇用などへの経済的インパクトがいかほどであるかについて、定量的な分析・議論がこれまで希薄でした。限られた財源の中で、今後の地域成長へ有効な施策を立案するためにも、また施策に対する地域住民の理解・協力を得るためにも、こうした経済的側面からの事業評価はきわめて意義深いことです。そこで本活動では、最終需要(消費、投資、移出・輸出など)の変化がいかに地域の生産活動や所得の変化をもたらすのかを分析する手法として有用な産業連関アプローチを採用し、尾鷲市の産業・経済循環構造を踏まえたうえで、海洋深層水に関連する事業活動に伴う尾鷲市経済への経済波及効果を分析します。分析結果をもとに既存の事業有効性を議論するだけでなく、地域経済(ヒト・モノ・カネ)の循環構造に、より強固に組み込まれるような深層水関連産業の創出や誘致、近年停滞気味の漁業や関連食品加工産業の有効な事業戦略について施策提言を行います。活動成果については、海洋深層水利用学会や環太平洋産業連関分析学会での学会報告や学術誌投稿を行い、事業評価に対する手法や分析に関する学術的な貢献も目指します。
 本活動は、平成17年度尾鷲市委託事業(生物資源学部受託)ならびに平成18・19年度中部電力委託事業(人文学部受託)における分析・調査を基礎としています。過去の調査において、生物資源学部徳田博美准教授、人文学部鹿嶋洋教授の協力の下、分析に必要なデータベースである尾鷲市産業連関表を構築し、産業構造の分析や簡単な想定の下で深層水事業の経済波及効果分析を行いました。しかしより具体的かつ効果的な施策提言に要する現実に即した分析結果を得るためには、各事業運営に係る支出・調達先を詳細に特定する必要があります。地域経済への効果を波及・循環構造から把握する際に、どのような産業部門から、またどの地域から(尾鷲市内からか市外からか、あるいは三重県内からか県外からか)調達を受けているのかが決定的に推計結果に影響を及ぼすことから、各事業の支出・調達構造については、何らか既存統計による推計ではなく、実地調査において把握する必要があります。深層水関連の公共事業運営経費に関する資料提供はもちろん、民間事業の調達構造を調査する際にも尾鷲市新産業創造課奥村氏の協力は不可欠です。人文学部河上は、奥村氏とともに実地調査を行うとともに、調査結果の整理と計量分析を担当します。学会発表や報告書・学術論文の執筆・作成は河上と奥村氏が共同で行います。