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善根宿に伝わる江戸時代の「納礼」
  江戸時代には、自力で旅を続けられない貧しい巡礼に、道沿いの有力者が無料で宿を提供する善根宿という施設がありました。巡礼は泊めて貰う御礼に、住所・氏名、年月日、納札参拝地等を記した紙の札を善根宿の主人に納めました。この札(=納札)を集積すると災禍を逃れるという言い伝えがありました。
   熊野市大泊町・若山正亘氏宅で最近見出された納札は、江戸時代後期から明治初年にかけて熊野街道を辿った巡礼たちが、善根宿を務めた若山氏の先祖に納めたもので、推定1万枚近くにのぼります。熊野街道沿いでは他に例のない貴重な歴史資料であり、調査終了後は熊野市の文化財に指定する価値を持ちます。 地元の市民団体・熊野古文書同好会では、塚本の助言の下で、2008年2月から毎週定期的に調査を進めています。しかし、同会では古文書の解読や整理方法、データの入力整理等についての専門的知識と経験が不十分であることから、塚本研究室に指導と分析作業共同調査の要請がなされました。
   塚本研究室では調査・整理に参加すると共に、同会と連携して市民向けに報告会を開催する予定です。また、データの入力と分析作業も進め、その成果を地元市民に還元し、展示や報告書に反映させていきます。史料の保存措置を講じることも担当します。
   世界遺産に登録された熊野古道の歴史的実態と本質を理解するための第一級の史料であることから、県立熊野古道センターもこの納札に注目し、来年度の展示資料として取り上げることを検討しています。本事業では、展示構想のみでなく調査・分析も含めて、熊野古道センターとも連携して計画を実施します。熊野古文書同好会の活動が基盤となる訳ですが、市民参加型の文化活動は熊野古道センターが目指すものでもあり、これに三重大学として学術面で支援するものです。