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31_三重大学オリジナル酒米品種「弓形穂」を活用した多気町地酒ブランド作りへの貢献(継続3年目)

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

日本酒の消費量は減少の一途を辿ってきた。低迷する日本酒業界における生き残り策として、全国的に利用されている酒米品種の「山田錦」や「五百万石」とは一線を画し、地域独自の酒米品種を原料として醸造する試みが各地で実践されている。

三重大学生物資源学部附帯施設農場(以下、大学農場)は、三重県在来の酒米品種である「伊勢錦」から「弓形穂」を育成した。「弓形穂」は農林水産省に品種登録され、三重県における醸造用玄米の選択銘柄にも指定されている。現在、大学農場から供給された「弓形穂」の種子を元に、三重県多気郡多気町四疋田の農事組合法人四疋田営農組合(以下、営農組合)が原料米を生産し、同町の河武醸造株式会社(以下、河武醸造)がその原料米から清酒を醸造している。

「弓形穂」で醸造した清酒の人気は高く、酒米品質に対する河武醸造からの評価も高い。河武醸造は清酒の増産を計画し、多気町役場はこの清酒を地域ブランドとして推進する意向を示している。一方、原料供給を担当する営農組合は、弓形穂の栽培技術が確立していないことから、高品質な原料を安定的に供給する難しさを訴えている。

平成29年度および30年度には、三重大学地域貢献事業支援助成を受け、「弓形穂」の栽培技術を研究した。品質を向上させて安定的に多収を実現する栽培技術の確立には至っていないものの、営農組合にとって示唆に富む技術情報を提供することができた。そこで平成31年度には、これまで採取した植物検体の分析を進めることで、さらに有益な情報を得ようとする。また、「弓形穂」で醸造した清酒に対する消費者意識を調査し、マーケティングに有用な情報も提供しようとする。

2.活動地域と内容

【植物検体分析:三重大学】

平成29年度および30年度には、高品質安定多収を目指した改良施肥法が「弓形穂」の生育、収量、酒米品質に与える影響を調査した。そして、調査結果を解釈する過程で、新しい重要な仮説を持つに至った。仮説の検証方法を検討した結果、新たな栽培試験を実施するよりも既に採取した植物検体を分析する方が有益な情報を多く得られると判断した。まず、出穂期の前から成熟期まで定期的に採取した茎葉の中のデンプン・糖を定量する。出穂期の前に茎葉へ蓄積したデンプン・糖は出穂期の後に穂へ再転流し、米の収量および品質に影響することが知られている。そこで、改良施肥法がデンプン・糖の再転流に与える影響を明らかにする。また、成熟期に採取した穂から部位別(一次枝梗と二次枝梗)に米粒を採取し、その充実度(登熟歩合)を計測する。そして、デンプン・糖の再転流と枝梗別の登熟歩合の関係を明らかにすることで、改良施肥法が「弓形穂」の収量および米粒品質を変化させる過程を明らかにする。これらの結果を総合的に解析し、改良施肥法の有効性を検証する。

【消費者調査:三重大学】

「弓形穂」で醸造した清酒が平成30年度に国際コンクールで入賞し、今後、その知名度が上昇すると期待される。その流れを後押しするため、消費者調査を実施する。経済実験(離散選択実験)により、「弓形穂」で醸造した清酒に対する一般消費者の評価(支払意思額)を調査する。その際、「弓形穂」が三重大学のオリジナル品種であることや、多気町産の酒米で醸造していることなど、「弓形穂」の特徴に対する支払意思額を算出する。さらに、消費者の消費行動による支払意思額の差も算出することで、「弓形穂」を積極的に購買する消費者の特徴を明らかにする。これらの結果を解析し、「弓形穂」のマーケティングに有益な情報を提供する。

【成果発表会:多気町役場】

平成29年度から31年度に渡って実施してきた活動の成果を関係者と共有する。

3.期待される活動成果等

営農組合における「弓形穂」の栽培技術が改良され、高品質な酒米原料を安定的に供給可能になることが期待される。安定供給が達成されれば、「弓形穂」を原料とした清酒の生産量が増加し、多気町役場は清酒を地域ブランドして広報に利用できることが期待される。栽培技術の改良により高品質な種子生産も可能となるため、「弓形穂」の栽培面積が増加する可能性もある。申請者の指導生は平成29年度および30年度の調査に基づいて卒業論文を執筆し、修士論文の執筆のために調査を継続する。また申請者は、三重大学の育成した「弓形穂」を営農組合が栽培し、それを原材料として河武醸造が清酒を醸造するという六次産業化の構造を学ぶための調査演習の授業を実践する。こうした実地の研究教育活動は学生が地域農業の実態を肌で感じる絶好の機会となる。多気町役場は、学生が地域の活動へ参加する機会を歓迎しており、学生と地域住民との交流活動へ発展する可能性もある。

→2019年度活動状況報告書