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31_地域住民の就労と治療の両立を促進するためのリテラシー教育プログラムの地域での展開(継続2年目)

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

【背景】

申請者は平成26年より労災疾病臨床研究事業に参画し、就労と治療の両立の推進のための研究に従事してきた。日本では、高齢化に伴う生産人口割合の低下や労働生産力の低下が問題とされている。その解決策の一つとして期待されているのが、就労と治療の両立である。医療の進歩により、一部の疾患は治療を受けながらも就労を続けることが可能となっている。また、二次予防を目的とした受療行動も、労働者の健康を保ち、長期的な視座から重篤な疾患による離職を予防する上で重要である。しかしながら、就労と治療の両立は、現時点では広く一般に受け入れられているとは言い難い。その理由の一つとして、労働者の理解と受容が進んでいないことが挙げられる。

三重県名張市は平成29年3月に「まちじゅう元気推進都市宣言」を行い、政策課題として労働者の健康問題に取り組んでいる。名張市の政策課題と、申請者の有する学識およびノウハウが合致したことから、職域保健のひとつの課題として就労と治療の両立に連携して取り組むこととなった。名張市には3000前後の事業所が存在するが、その多くが中小規模であるため、産業保健職へのアクセスが悪く、就労と治療の両立を実現するためには障壁が大きい。また、名張市は大阪府や奈良県および三重県津市のベッドタウンであるため、市域の企業のみに介入しても、就労と治療の両立への効果は限られる。以上より、名張市で就労と治療の両立を推進するためには、医療機関や企業への介入以上に、労働者への介入が重要である。

【必要性】

地方では高齢化に伴う生産人口割合の低下と人口減少とが並行して進んでおり、労働生産力の低下が著しい。この傾向は名張市でも同様である。生産人口割合や人口の減少を予防するためには、若年人口を増加させる必要がある。しかし、地方では就労先が限られているため、地方の若者は仕事を求めて都市へと移動する。

就労と治療の両立を市町として推進することは、高齢化と人口減で苦しむ地方に若者を呼び込む一つの方略となり得る。従業員が疾患に伴って離職すると、従業員にとっては収入が途切れ、企業からはその従業員が培ってきた知識・技術が失われ、市町では生活保護等の社会保障の支出が増加することになる。このとき、従業員が疾患に罹患しても無理なく働ける環境を整備しておけば、その従業員は離職せずに収入を得ることができるし、企業は従業員の持つ知識や技術を失うことなく継承することができ、市町が拠出する社会保障費を節約することができる。何より、病を発症しても仕事を辞めずに済むことは、従業員が地方で生活する上での安心に繋がる。

しかし、就労と治療の両立についての労働者の理解と受容が進んでおらず、広く一般に受け入れられてはいない。

【目的】

申請者は平成26年度より労災疾病臨床研究事業に参画し、就労と治療の両立の推進のための研究に従事してきた。本活動ではその成果の市町でアウトリーチと、そのための資材の整備を行う。

本プロジェクトの具体的な目的は、以下2点とする。(1) 地域在住労働者とその家族を対象とした「就労と治療の両立」を促進するためのリテラシー教育プログラムを開発すること。(2) 教育プログラムを地域で展開し、地域在住労働者の「就労と治療の両立」の関するリテラシーを向上すること。平成30年度の本事業で、(1) について完成の目処が立った。そこで、2年目の平成31年度は、(2) の地域での展開に取り組む。平成30年度に作成した教育パッケージおよびその評価ツールを名張市で試用しながら、教育方略および評価法のブラッシュアップと確定を目指す。この試用および地域での展開を通して、名張市民の就労と治療の両立についての受容と理解を進める。

2.活動地域と内容

【地域】

本プロジェクトは三重県名張市で活動を行う。三重県名張市は平成29年3月に「まちじゅう元気推進都市宣言」を行い、職域保健に重点的に取り組んでいる。名張市の取組は本プロジェクトの目的と親和性が高く、相乗効果が見込める。また、申請者らはこれまでにも職域保健や治療と就労の両立で名張市と連携しており、友好的な関係を築いている。そのため、本プロジェクトを円滑に進めることができる。

【内容】

平成31年度は本事業の2年目にあたる。
三重県名張市の企業等をフィールドとし、作成した教育パッケージの効果検証と試用・ブラッシュアップを並行して行う。効果検証では、名張市の地域在住労働者を対象に教育パッケージを用いたリテラシー教育を実際に実施し、その前後でリテラシーを評価する。リテラシーの評価には、平成30年度に作成したリテラシー評価ツールを使用する。また、アウトリーチ活動として地域での出前授業や、名張市内の中学校・高校での授業、名張市内の工業団地や名張市に事業所を置く企業での展開などを模索している。

並行して副教材兼啓発用の資材として、配布用のリーフレットを作成する。リーフレットはリテラシー教育の際に副教材として配付するほか、名張市の健康に関するイベント等で配付、名張市立病院や市役所に設置する。

3.期待される活動成果等

本年度の活動により、副教材および啓発用の資材が完成する。また、名張市福祉子ども部の職員やまちの保健師のスタッフがこうした活動に参加することで、名張市民が仕事と治療の両立で困ったときのワンストップハブとして機能できるようになる。加えて、三重県名張市はベッドタウン機能を持つ地方都市であるため、本プロジェクトの成果は同様の都市機能を有する都市へ転用することが可能である。

→2019年度活動状況報告書