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31_三重県における『未来の科学技術イノベーター』を育成する産学官連携プログラムの実施(継続2年目)

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

我が国は言うまでも無く、製造業を中核とした科学技術立国である。その科学技術力において世界をリードし、様々な製品を開発し輸出することで、国力を維持・発展させ、世界に貢献してきた。これを支えているのは『人』であり、資源に乏しい我が国においては人的資源の充実こそ最も重視されなければならない政策課題であると考える。ものづくり白書においても、我が国の競争力を支える次世代の人材育成が重要であるとしている。これに関わり、中央教育審議会は、キャリア教育・職業教育に関する答申において、進路意識が希薄なまま進学する若年層の増加を課題とし、この具体的な方策の1つとして、生涯学習の観点に立つキャリア形成支援を挙げている。しかしながら、科学技術立国を支える人材育成においては、製造現場では4K(きつい、汚い、危険、給料が安い)と揶揄され若者から敬遠されており、大学進学においても工学離れが進んでいる。義務教育段階においても理科離れや、ものづくり経験の不足などがマスコミ等で指摘されている。

この要因の1つとして、小川は若年層の進路意識を挙げている(科学教育研究、第37巻第1号、pp.65・66、2013)。具体的には、この意識の形成時期である10歳から14歳において科学技術の職業に関わる有効な働きかけが行われていないことを指摘している。残念ながら、我が国においてはこの時期に科学技術の職業に関わる教育(主に技術教育)が学校教育に位置づけられていない。そのため、子ども達は将来の進路を考える際に、製造業に関わる職業を選択肢として意識していないのではないかと考察している。このことを踏まえ、この年代の子ども達に将来科学者・エンジニアを志すことを促す具体的な方策を試みることが急務であるとしている。

野村総研が行った工学離れに関する調査(野村総合研究所:「工学離れ」の検証及び我が国の工学系教育を取り巻く現状と課題に関する調査研究報告書、2010)では、工学部の入学した学生における当学部を志した理由において、最も多かった「工学に興味があったから」の次に「工学部で学ぶ対象(ロボット、宇宙、建築物、環境、情報等)が純粋に好きだったから」が示されている。このことは工学で学ぶ対象を純粋に好きと捉えることができる時期に、その対象に取り組める適切なプログラムを準備することで工学への志を育てることができることを示している。さらに、純粋に好きと捉える時期については、先に小川が指摘していたように、将来に大きな夢を抱く10歳から14歳であると考えられる。

このことに関わり、本活動の代表者である魚住は2008年度から小・中学生を対象としたロボット製作合宿:「Jr.ロボコン in 三重」を夏休みに開催している。この企画は、三重大学と三重県・津市・四日市市の工業振興課の各担当者で構成する三重県ジュニアロボコン実行委員会が主催するもので、青少年の科学技術への興味・関心を高めることを主なねらいとして実施している。活動としては、3泊4日の合宿において6~7名の班(全6班)で中学校創造アイデアロボットコンテストのルールに基づいた競技用のロボットを製作し、最終日にはロボコンとして、その成果をショッピングセンターなどの公開の場で広く市民の前で発表するものである。この活動はあくまでも小・中学生の科学技術への興味・関心を喚起するもので、科学技術に関する職業への働きかけまでには至っていない。また、大学と地方行政が連携して実施しているが、企業との連携はまだ不十分である。これらのことから、この目的を達成するためには、この活動をさらに発展させることが求められている。そこで、昨年度までに三重県ジュニアロボコン実行委員会では、三重大学地域貢献事業支援を得て、『未来の科学技術イノベーター』を育成する産学官が連携したプログラムを開発した。具体的には、『未来の科学技術イノベーター』、すなわち将来において科学技術に関わる職業を志し、イノベーションに挑戦しようとする青少年を育成するプログラムである。中でも小学校高学年から中学校に在籍する児童・生徒を対象として、地方(三重県)における大学・官庁・企業が所有する人的・物的資源を最大限に活用する枠組みを構築し、それを基に青少年に対する科学技術教育プログラムを開発した。

本年度も昨年度に引き続き、実行委員会ではこの開発したプログラムを三重県下で実施し、その有効性を検証して、さらにより良いものとしていく。このことにより、三重県下の青少年に対し、科学技術への啓蒙を図ると共に、地域から将来我が国を支える優秀な科学技術者を育成することができると考える。

2.活動地域と内容

本地域貢献事業では以下の3つの取組を県下で実施する。

  •  Ⅰ.ロボット製作合宿の開催
  •  Ⅱ.科学の祭典でのロボコン体験ブースの開設
  •  Ⅲ.小学校並びに各種イベントでのロボット操作体験教室の開催

以下、その詳細を説明する。

Ⅰ.ロボット製作合宿の開催

2019年8月14日(水)~17日(土)3泊4日に、津市青少年野外活動センターを合宿会場として、小学生:6名(津市、並びその近隣在住の5・6年生、性別不問)、中学生:36名(県内在住、学年・性別不問)を対象としたロボット製作合宿を開催し、最終日には三重県博物館(予定)において成果発表会(ロボコン)を開催する予定である。

Ⅱ.科学の祭典でのロボコン体験ブースの開設

毎年、三重大学の三翠ホールで開催される科学の祭典に、ロボット製作合宿で製作したロボットを用いたロボコンを体験できるブースを開設する。

Ⅲ.小学校並びに各種イベントでのロボット操作体験教室の開催

県内の小学校並びに各種イベントにおいて、ロボット製作合宿で製作したロボットや簡単なプログラミングロボットなどを操作体験できる教室を開催する。

3.期待される活動成果等

何よりもまず、本活動を通して産学官の人的・物的資源を最大限に活用する枠組みを構築し、それを基に青少年に対する科学技術教育プログラムを実施することができることである。このことにより、将来我が国を支える優秀な科学技術者を育成することが期待される。2点目として、将来科学技術者の進路を選択しない子どもたちにおいても、この活動を通して科学技術への強い関心を持たせることができ、さらには科学技術へ積極的に関わろうとする意欲も高めることが期待される。3点目として本学の学生・教員が関わることにより、学生にとっては実際に子どもを対象とした教育実践に関わることができる「実地の学びの場」となり、教員にとっては教育研究での貴重なデータ収集の機会となることが期待される。

→2019年度活動状況報告書