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31_桑名市適応指導教室における不登校の子どもへのキャリア教育

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

<本活動の背景>

「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(文部科学省)によると三重県において平成29年度の公立小中学校における長期欠席児童生徒数は2,980人で、小学校は972人、中学校は2,008人にのぼる。そのうち不登校を理由として30日以上欠席した児童生徒数は2,115人であり、平成27年度から平成28年にかけて110人増加(前年度比5.7%増)、平成28年から平成29年では84人増加(前年度比4.1%増)であることが報告されている(平成29年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」結果【三重県版】)。三重県の教育を考える上で、増加し続ける不登校に対する対応は取り組むべき重要な課題であるといえる。

文部科学省(2003年)は、不登校の解決の目標を児童生徒の将来的な社会的自立におき、不登校を「心の問題」としてのみとらえるのではなく、「進路の問題」としてとらえることの重要性を指摘している。不登校の個々の子どもの特性に応じたキャリア支援を実施していくことが求められているといえる。

<本活動の必要性>

桑名市ではこれまで生徒指導上の問題行動に対して、教育委員会と学校現場が連携しながら様々な施策を講じてきている。桑名市における1,000人あたりの不登校の出現率は、近年、横ばい状態であったが、平成28年度に小学・中学校ともに、増加傾向に転じている。その対策としてスクールカウンセラ配置、スクールハートパートナー(各中学校ブロックに1名配置し、中学校区内各小学校において、学校として気になる子どもの見守りや相談、課題のある児童の支援を図る職員)の派遣、スクールソーシャルワーカーの活用などに取りみ、教育相談体制の充実に努めてきた。また平成30年度より不登校の実態や要因を分析し、調査結果をもとに、新たな不登校を生まない学校作りのための施策に取り組んでいる。この事業は平成31年度からの予算化が承認され、三重大学(筆者)と桑名市の共同研究として不登校の未然防止研究をさらに進めていく予定である。不登校の現状分析に取り組む中で、新たな課題として不登校の子どもの進路の問題が浮かび上がってきた。平成30年度は桑名市適応指導教室に小中学校あわせて40名弱の子どもが通学している。いったん不登校状態に陥った場合、学校復帰することが難しいケースも多く、原籍校だけでなく適応指導教室においても、通級する子どもたちに対して進学や将来の職業に向けての意識を向上させていくための関わりが求められている。社会的自立のための効果的、個別的なキャリア教育を実施することが必要である。

2.活動地域と内容

桑名市適応指導教室において以下のキャリア教育の実践(個別の指導計画作成および授業実践)、啓蒙と連携を主目的としたリーフレット作成・配布を行う予定である。

実践1(キャリアに関する個別の指導計画作成):桑名市適応指導教室に通級する児童生徒を対象に、進路への意識や性格特性に関する調査を行い、キャリアに関する個々の発達の状態をアセスメントする。また、大学教員による通級生の行動観察もあわせて実施し、観察および調査の結果から通級生のキャリア支援のための個別の指導計画を作成する。

実践2(キャリアに関する授業実践):大学教員と適応指導教室指導員と協同でキャリアに関する授業を通級生に実施する。具体的にはドリームマップ作りを行うことを計画している。ドリームマップは自分の夢がかなった状態を絵や写真などで表現し、目標を可視化する取り組みである。このドリームマップ作り授業を年に2~3回実施し、進路の実現のためのステップを子どもたち自身が考えていく。また授業実践の事前に、適応指導教室指導員に対する研修会を行い、不登校の子どもへのキャリア支援についてより専門的な知見をふまえた上で授業実践を展開できるようにする。

リーフレット作成(教師用・保護者用2種類):これらの実践をもとに、適応指導教室に通級する児童生徒の現状と課題をふまえたキャリア支援や不登校の児童生徒に対するキャリア支援のあり方についてリーフレットを作成し、学校現場と保護者に配布する。原籍校、家庭、適応指導教室が連携しながらキャリア支援を実践する一助として活用してもらう。

3.期待される活動成果等

これまで明確な方向性をもって取り組まれていなかった適応指導教室に通 級する児童生徒を対象にキャリアに関する授業実践を展開することで、不登 校の子どもの社会的自立を促進することができる。

また、専門性をもった大学教員が児童生徒の観察や調査を行い、分析した結 果をもとに個別の指導計画を作成することで、適応指導教室指導員の子ども 理解が深化し、より実効力のあるキャリア支援が可能となり、あわせて指導員 の専門性の向上にも寄与できると考えられる。

不登校児童生徒に対するキャリア支援のポイントをリーフレットにまとめ、 配布することによって原籍校教員、保護者間で連携しながらのキャリア支援 の展開が可能となる。

→2019年度活動状況報告書