clear
30_「地域でのアクションリサーチで,健康増進を改善する」(継続2年目)

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

現在の日本は高齢化の社会が進んでおり,社会的および経済的負担も増加する。社会負担を減らすために,高齢者が健康でいられるのは大事である。そのために医療のみならず保健活動,特に健康増進という観点からの介入に焦点を当てるべきである。すなわち対象を定め,住民の生活習慣を健康に関連づけ,介入の目標を達成する可能性のあるエビデンスに基づくべきである。

しかし健康の促進と予防には莫大な努力と資源が必要となる。ほとんどの場合,その活動はエビデンスというよりはトップダウンアプローチを用いることになる。しかしながら,健康増進は,相互作用する複数の因子を伴う複雑な環境で起こり,介入は再現性が制限されることも多い。この活動が再現性困難なことが,これを実施する上で問題となる。実は心理社会的背景と地域住民の声を考慮するほうが,活動をより効果的に実施できることが示されている。 したがって,健康増進活動等の企画,実行,評価のすべてにおいて地域メンバーの関与が重要と考えられる。

現在の医学研究は,地域のものであると言われる証拠にしても,住民参加型で地域に関与するのではなく,「実験室」設定し,その地域内のみで行われるかもしれない。 その結果,実際には地域のニーズが完全に反映されていなかったため,実施時に参加や持続可能性が低く,そのためにいくつかの政策が問題を抱えていることがある。研究実施と地域のニーズとの格差を最小限にするためには,地域でのアクションリサーチ(community-based participatory research;CBPR)が必要である。

本プロジェクトの1年目では,地域の健康課題と地域の強みを明らかにした。本プロジェクトの2年目の第1の目的は,地域のメンバーが重要かつ実行可能であると考えられる健康促進活動の方法を設計すること。第2の目的は,適切な健康促進活動を適切に実施すること。最後に,これらの活動が人々の健康と健康に関連する行動に及ぼす影響を評価する(中間評価まで)。これらすべての活動に,地域の発展とエンパワーメントを目指して,地域住民とステークホルダーが積極的に協力することが望まれる。

2.活動する地域と内容

名張市の人口は79,167人(2018年3月)である。この市は,大阪市のベッドタウンであり,市民の大多数が大阪で働いている。名張市民の半数以上が生産的な年齢で,65歳以上の高齢者の20%未満である。名張市は,全国や三重県の平均と比較して,より若い人口を擁している。しかし近年では,この市でも高齢者の増加傾向が見られる。

三重県の中で,名張市は独特な健康づくり活動を行っている市である。そのうち,特に特記すべき特徴の1つは,名張の15の小地域に「まちの保健室」が存在することである。まちの保健室では,小児から高齢者に至るまで,健康関連の問題の総合的な相談窓口として機能している。それに加えて,各小地域が自らの健康づくりを自由にすることができる。また,2016年以来,「まちじゅう元気リーダーのプロジェクト」を開始している。また,名張市には同市の寄附により三重大学医学部名張地域医療学講座が設立されており,個々を中心に地域医療に関わる様々な研究や教育が実施されている。

名張市の健康増進システムには,大きな可能性がある。しかし,各小地域における多様性は非常に大きい。各小地域の活動は地域の指導的立場にある人の関心に基づいており,そのいくつかは統合されているというよりも散発的になってしまっている。

したがって,本研究では地域のステークホルダーと協力して(市の職員と医療者を含む),地域のニーズ評価を行った。まちづくりの会員(青年会を含む)が協力してくれて,本プロジェクトの続くを期待している。これから,地域の住民やステークホルダーとともに,統合された健康促進活動を計画する。健康増進プログラムは地域住民全体を対象としているため,健康的なライフスタイルの推進が行われる。それに加えて,生活習慣病のスクリーニングや高リスクの人々のための相談も提供される。そしてプログラムの有効性を確認するために,ベースライン,中間の評価が行われる。

3.期待される活動成果等

地域のニーズや好みに合った健康増進プログラムを設計することにより,予防・治療プログラムの地域定着が図られることが期待される。また,プログラムの健康的な生活習慣や疾病予防活動は,本研究の参加者の健康を改善すると期待されている。そして長期的には,同地域住民の健康寿命を延ばし,高水準の介護保険の必要性を減らすことが期待される。このプログラムが有益であると証明されれば,名張市職員は他のすべての小地域でもプログラム申請を広める可能性がある。一方で,これらの研究は,三重大学医学部名張地域医療学講座や三重大学に対する名張市の委託研究事業「名張市における在宅医療に関わる研究」の研究活動として行われるため,三重大学の地域に資する研究の業績も増加することが期待される。また,同地域の名張市立病院を中心に行われている家庭医療・総合診療専門医の卒前教育や総合診療の研修医にも組み込めば,地域に資する教育がさらに充実することになる。

平成30年度活動状況報告書