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29_ウニ除去を通した三重県南部の藻場再生活動の推進

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

近年,本邦各地で磯焼けと呼ばれる藻場の衰退現象が広がり,沿岸域の生物多様性や漁獲量も減少してきている。三重県内では,磯焼けは志摩半島以南で広範囲に見られ,漁業従事者からは藻場を復活させたいとの要望が多い。申請者が所属する藻類学研究室では藻場再生の研究と活動普及に取り組んでおり,平成22年度には本支援助成を受けて,藻場調査や藻場再生の啓蒙活動を行った。この過程で,三重県の藻場再生のためには藻食動物であるウニ類の除去の効果が大きいことが判明した。現在ではウニ除去による藻場再生の成果が挙がってきており,尾鷲市では磯焼けからの藻場再生に成功した。「水産多面的機能発揮対策事業」による藻場再生の取り組みも盛んになり,申請者も南伊勢や尾鷲地域において協力している。さらに,藻場再生を目的としたNPO法人SEA藻も,藻類学研究室の卒業生らが中心となって設立された。

一方で,これらの活動の広がりに伴って,各地域の状況に応じたきめ細かで効率的な藻場再生活動をすることや,大学の研究成果を藻場再生活動へスムーズにフィードバックすることの重要性も増して来た。また,漁業者の高齢化が進み,地域によってはあと10年ほどで水産業が消滅する可能性もある。今はまさに,水産業の維持や沿岸環境保全のために各人ができることを考える時であり,漁業者と市民が共に参加できる藻場再生活動はそのために極めて適した題材である。そこで,東紀州サテライトの開設を契機として,本事業では,三重県南部の熊野灘沿岸における藻場再生活動と大学の研究の連携の推進,藻場生態系の役割に関する啓蒙活動を行う。

2.活動する地域と内容

尾鷲市を中心に,主として南伊勢町以南の地域で活動するが,志摩半島周辺の自治体との連携も視野に入れる。具体的には以下の活動を行う

 1)ウニ除去による藻場再生活動:尾鷲市沿岸では尾鷲市役所,他の海域ではNPO法人SEA藻が中心となって,藻場再生活動を行う。それぞれの海域で漁業者の協力を得る。原則として,毎月,いずれかの海域で活動する。

 2)藻場と磯焼けの現状把握調査:これまでの研究で,ウニや海藻の密度から,藻場再生に必要なウニ除去作業の時間や人数が算出可能になった。したがって,各海域の藻場と磯焼けを調査することは,効率的な藻場再生に必須である。そこで,誰でも大学と同様の手法で調査が行えるように,調査マニュアルを作成し,共同実施者や活動参加者に配布する。NPO法人と協力して調査することで,大学単独よりも広範囲の情報を得ることができる。

 3)調査,活動情報の共有:藻場再生活動時に,藻場と磯焼けの調査を行う。また,データを藻類学研究室で取りまとめ,藻場再生に必要なコストを計算して実施者間で共有し,作業の効率化を図る。

 4)藻場再生活動の普及と啓蒙:藻場再生活動の際には,参加者への藻場生態系の役割の啓蒙活動を行う。SEA藻の活動には,申請者が顧問を務める三重大学スキューバダイビングサークルの学生も参加している。特に,環境科学や水産学を専門としない市民や学生と,この活動の意義を話し合う機会を持つ。年度末には,協力を仰いだ漁業者に,事業の成果を報告する。

3.期待される活動成果等 

沿岸生態系の保全により,地域の水産業の維持と発展に寄与し,将来的には漁獲量増加と漁業従事者増加に繋がることが期待される。また,三重県は全国有数の海女文化を持っているが,海女漁業は,健全な藻場無くしては存続し得ない。藻場が果たす役割について啓蒙活動を行うことは,海女文化への理解を深めるためにも有効である。前回の本支援助成以降,漁業者と共に藻場再生活動を行なってきているが,より広範囲の地域住民,市民と大学との協力関係を作ることができる。

平成29年度活動状況報告書